鉄板土下座、蟹味噌を喰らう
ギロチンブーメランたる儂に、時速400キロを超える衝力を乗せ、左右に身を偏らせて長大な刃と成す。クサレ毛蟹を一刀両断せしめたのちも速度落とさず、次なる獲物へと転じる——これぞ儂らの『一撃離脱』なり。
これが、蟹地獄を攻略するために小僧が導き出した解であり、詰みポイントを突破するための「小僧らしいやり方」。
のちに『鉄板土下座流 断頭重剣術』と呼称されることになる、小僧独自のギロチンブーメランを用いた武器術であり、その基本戦術である。
ちなみに、自らが流派の開祖となったことも、儂に「断頭重剣」なる仰々しい異名がついたことも、当の本人はおろか、世界中の誰も「まだ」知ることはない。
それは、「儂ら」によるクサレ毛蟹乱獲開始から、約1時間後。匿名掲示板に「鉄板土下座による蟹地獄攻略動画」が投稿されて、スレ民たちによる狂騒の宴が開催したのち、畏怖と尊敬が惜しみなく注ぎ込まれた果てに産み落とされる、「未来の話」なのだから。
(——右側の死角はクリア! 返り血も残骸もこの速度なら届かねえだろ!)
岩場の角に儂の縁を掠めては噛みつかせ、赤と『蒼』の火花を撒き散らす。
すり鉢の内壁を螺旋状に滑走するその影は、もはや単なる移動手段ではない、が、あくまでも物理演算の仕様であり、その範疇。断じて、バグの類ではない。
小僧は、「どこの誰にでも正式に実現可能な無限にも届きうる慣性を得る資格」を免罪符とし、岩場全体を巨大なミキサーに変貌させたのだ。
1エンの鉄板と1エンの骨。
対外的には実質「無価値」と評されている「儂ら」が現出させた死の渦が、進路上の悉くを情け容赦なく断殺していく。
行くぞ、「骨」! こいつらの絶叫で、「おまえら」の価値を世界に教え込んでやれい!
ガガガガガガガガガガガッ‼︎
最前線と目されし猛者の攻勢、その全てを弾き返すほどの頑強なクサレ毛蟹の甲殻が、硬質な破砕音と共にあっけなく切り裂かれていく。
その音は、フラスコ状の地形に反響し、重低音の轟鳴となって死を告げる。
クサレ毛蟹たちは逃げることも、その身を守ることも叶わず、断末魔の如き叫声を挙げるのみ。
蟹地獄という名のサーキットを爆走する死神の通り道に居合わせた……ただそれだけの理由で、クサレ毛蟹どもは阿鼻叫喚に追い込まれては死に絶え、経験値という名の数字へと続々還元されていったのだ。
[レベルが上昇しました:8 → 28]
[レベルが上昇しました:28 → 43]
[レベルが上昇しました:43 → 51……]
頃合いを見計らいながら解毒ポーション(1本200エン)を飲み干す小僧はら最前線攻略組のパーティが1時間かけて稼ぐ莫大な経験値を、ものの数分のうちに荒稼ぎしていく。
その原価は「1エン+1エン=実質無料」。創意工夫の意義ここにあり、といったところじゃな。
そんな「見るも愉快で痛快な乗刃」を愉しむ小僧の視界の端に[システムメッセージ]が滝の如く流れ落ちていくのを、視界を覗ける儂も見ておるが……なんとも凄まじいことよ。
ちなみに、クサレ毛蟹の素材各種(通常ドロップ枠)が店売りで2,000エン前後、プレイヤー参加型オークションならば、最低でも5万エン以上で取引されるらしいので、懐が痛むどころかウッハウハである、とは小僧の言。
もちろん「蟹味噌」も『蒼く輝くカード』も市場に出回る数が微少である以上、その価値は非常に高い。
ならばわかるな、小僧……今こそ稼ぐのだ! 稼げ稼げ! じゃんじゃん稼ぎまくれい!
(――もっとだ、もっと稼ぐぞオラァッ! 誰も見たことないアホなプレイングを満喫すんのが、クソゲーの醍醐味! 蟹味噌置いてけ!)
赤紫色の毒沼も霧も、進む先にある何もかもをも切り裂く死の翼の上で、小僧が、マスクの奥から嬉しそうな笑みをこぼしておる。よほど愉しいのだろう、気持ちはわかる。
やがて、盆地の底で蠢いていた魔物の姿は消え、残されたのは削り取られた岩肌と、木っ端微塵に砕かれた亡骸の山のみ。
「——この蟹味噌、めちゃくちゃ美味え!」
徹頭徹尾、ゲーム世界の物理法則の範疇かつ十全に使い切って、運営の想定を木っ端微塵に粉砕したのち、濃厚でクリーミーな味わいの「蟹味噌」に舌鼓を打ちながら身悶えする、ひとりの「逆張り変態クソゲーマー」の歓喜の叫びがそこにあった。
ちなみにだが、儂ほどにもなれば、契約者と味覚も共有可能だ……あとはわかるな?




