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鉄板土下座、ぶった切る

 小僧の『個性』とはなにか。


 とても簡単かつ理解しやすくなるように例えるならば、小僧自身が度々言われるこの「異名」が最もふさわしく、わかりやすいじゃろうな。


 曰く、逆張り変態クソゲーマー。


 そんな小僧が「メイガスメイズ民から苦情の如き悲鳴が殺到しすぎて最早呪詛の対象となっているクソマップ」こと、バイオ・フラスコの内情を知って、心をときめかせない訳がなかろう。


 そんな小僧が、情報を眺めているうちに、その笑みをさらに深めてしまうほどに愉しめそうな「別のネタ」の存在を知ったらどうなるか。


 ()()()、こうなっている訳だ。


 ここは、小僧のような変態クソゲーマーが惹かれてしまうパワースポットのような場所。


 ここは、メイガスメイズ民からクソマップ認定されているバイオ・フラスコの中でも特に嫌われている場所(ただし、蟹味噌は除く)。


 こんな魅力的な場所の情報を、満面の笑顔で漁り、脳髄に染み込ませるように小僧は咀嚼していたのだ(ちなみに、小僧は蟹が大好物)。


 もちろん、蟹地獄のことである。


 そんな蟹地獄が、メイガスメイズ民から倦厭されている理由を端的に述べるなら「初見殺しにして難攻不落」という言葉がふさわしい。


 実例を挙げるならば——


 八人編成の精鋭パーティが、足を踏み入れた直後に「クサレ毛蟹」に全方位から前触れなく強襲され、ものの十数秒で全滅した


 ——ということが実際に配信されたことがあったらしい。


 彼らの名誉のためにあえて語るならば、彼らはけっして未熟でも低能でもなく、メイガスメイズ内において上澄み、ランキング上位層に位置する実力者たちであるらしい。


 だが、事実として敗北した以上、ランキングとやらの信憑性には疑問しかない。というよりは、あまりの意味のない序列なのだと思われる。


 ともあれ、実力者と見做されている者たちが1分も立っていられなかった事実があった。


 その後、対策してもなお対処が困難であるという現実までもが判明。


 この地が、「地獄」の二文字を冠するにふさわしく、死地という言葉すら凌駕する「詰みポイント」であるという評価は至極妥当である。


 もっとも、小僧のような変態クソゲーマーが、そのような他者の評価を真に受けるかどうかは話が別じゃがな。


 さて、そんな蟹地獄に並々ならぬ興味を惹かれた小僧は、メイガスメイズ四大クランの一角と呼ばれておる『ヘリオス・アーカイブ』の動画を精査しては深く笑みを浮かべ、ひとつの確信を得ていたようだ。


 小僧が言うには、「この地形の当たり判定って、ポリゴンの継ぎ目をちゃんと計算しないで重ねただけの、ただのサボりにしか見えないんだよね」、とのことらしい。


 それはデバッグの手抜き。

 あるいは、放棄の証左だ。


 そして、クソゲー特有の「バグ的挙動」が、仕様の範疇において「やり方次第では」現出可能であることを示唆していた。


 ならば、試してみたくなるのは変態クソゲーマーのサガ……違うか、小僧?


「ま、そういうこと——」


 鉄板土下座の姿勢を深く固定した小僧。


 心底楽しそうな笑顔をマスクの奥で浮かべながら、垂直に近い断崖へ「儂ら」とともに、迷わず、臆さず、ダイブしていく。


 くかかかかかかっ! さあ、小僧、今回もこの愉快な音で、世界を塗りつぶしていくぞ‼︎


 ギャァァァァァァァァンッ‼︎


 円形の壁面へ接触した瞬間、己の役割を果たさんと、「骨」が激しく焦げ付き、摩擦の熱を「蒼き火花」へと変換していく。


 その熱、その「蒼き火花」。


 それこそが、主人とともに死地を征く「しもべ」が応えた証。


 声無きはずの白き骸が挙げた魂の咆哮である。


 クサレ毛蟹を回避すべく精密な蛇行を描きつつも、その速度、その機動には一点の淀みもない。


 一周、二周と周回を重ねるごとに、遠心力と加速度は指数関数的に跳ね上がっていく。


 だが、まだまだだ……おい、小僧! まだまだこんなもんじゃねえだろ! もっといくぞ!


(回れ、回れ回れ回れッ——限界のその先まで駆け抜けろッ!!)


 蟹地獄の至る所で獲物を待ち構えていた巨躯たちが、儂らを感知する。


 それは反射的な行動だろう、巨大なはさみを以て襲いかかってきた——が、遅い! あまりにも遅すぎるぞ!


 この鈍間たちが攻撃の意志を形にするよりも遥かに早く、儂らは、その視界から掻き消える。


 さて、クサレ毛蟹の身にたった今起きたことの状況を推測、解説し、言葉にするならば、おそらくはこのようになっている筈だ。


 視界そのものが、斜めに「ズレた」——それは、小僧の『個性』が発揮された結果。


 今この瞬間に注目すべきは「幅」。


 ギロチンブーメランという武器種の基本スペックは、総重量300キロ以上、全幅約2メートル。


 身長170センチの男性が土下座した場合、左右の余白はそれぞれ75センチほど。


  フルダイブVRの鉄則である「現実と仮想の身体情報の齟齬を最小最少にする」という教えを小僧は忠実に守っており、現実の数値をそのまま反映させているため、小僧の身長は167センチ。


 つまり、小僧が儂に土下座する際、その左右には約75センチの「刃」が突き出す計算となる。


 それ即ち、鋭利な刀剣を、地面と水平に「左右」に構えたまま爆走しているに等しい。


 その姿はさしずめ「死の翼」。


 だが、足りない。


 クサレ毛蟹、もとい、ポイズン・ヒュージ・クラブの全幅は約2メートル。


 一刀で両断するなら約2メートル、致命的な一刀を加えるだけでも約1.5メートルの刃渡りは必要。


 今のように均等に構えたままでは、その命を断ち切るまでには届かない。


 ならば、やるべきことは——ひとつ。


「これで届かないってんなら——殺せる長さまで身体を『ズラせば』ぶった切れるよなァ!」


 くっくっく……小僧め、テンションが上がりすぎて「本来の口調」となったようだな!


 両腕両膝両つま先の位置は固定したまま、儂の左側に「ズラすように」、小僧が身体を傾ける。

 すると、何が起きるかわかるかね?


 現れたのは——「片翼」。


 1.5メートルを超える巨大な片翼が、その姿を現し、その武と威を世界に示す。


『硬いならそれを凌駕するダメージを——』


 やや浮き上がるような機動でクサレ毛蟹の胴を深々と断ち切り、致命に至る一撃を刻み込む。


『群がるなら的を絞らせない超速度を——』


 遅れて小僧の耳に届いたのは、断つべき者の「処刑」が完了し、背後にて崩れ落ちた「音」。


 これは、小僧の『個性』が発揮された結果。


 即ち、『逆転嗜好の道化芝居(ジャイアントキリング)』の真骨頂。

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