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鉄板土下座、完成する

「キタキタキターーーーー‼︎」


 腐臭漂う干潟に、小僧の叫びが木霊する。

 

 召喚という理を経て顕現したのち死骸となったエンプティ・スケルトンの骨。


 その表面は異常なまでに滑らかであり、その摩擦係数は限りなく「ゼロ」。


 おそらくは、元来の性質に加えて、魔素による結合を解かれたことが影響しているのじゃろ。


 その骨を「軸受ベアリング」として転用、ギロチンブーメランと肉体が直接衝突することで生じるあらゆる衝撃を劇的に減衰させ、その負荷を「無」へと帰す。


 その閃きにも似た推察は、使い魔カード専門店の片隅で、エンプティ・スケルトンの説明文 (フレーバーテキスト)を眺めていた時に、小僧の脳裏に浮かんだ「仮説」。


 ゲームの仕様と種族特性。その二つの歯車を噛み合わせる「創意工夫」は可能か否か。


 使い魔カードを手にしたその時に立てた「仮説」が、どこまで真実に肉薄しているのか。


 それを検証せんがために、このバイオ・フラスコへと小僧はやってきたということだ。


 果たして、その邪道じみた推察は的中する。


 期待通りの挙動をその掌で確認した小僧は、死の旋風と化していた儂への魔力流入を止める。


 次いで、紫色の泥濘に儂を投げ出すと、愉悦に満ちた笑みをゴーグルとマスクの奥に浮かべたまま、儂の上へと躍り乗る。


 そして、例によって例の如くの土下座スタイルとなった小僧は、儂に魔力を流し込んできた。


 さあ、儂と小僧、あと「骨」! 儂らで、世界を塗りつぶす咆哮を轟かせてみせようぞ!


 ギャァァァァァァァァンッ!!


 儂らの様子を客観的に語るならこうか——


 干潟を支配する静寂は、泥混じりの礫と冷徹な鋼が衝突する絶叫によって塗り潰されていく。


 鉄板の四隅が重たい泥を高く跳ね上げ、泥底に潜んでいた大地を無慈悲に噛む。


 紫色の飛沫をカーテンの如く撒き散らすその影は、瞬く間に変貌を遂げ、触れるものの悉くを断ち切るそれは、曲芸の域を凌駕していく


 ——ま、こんなところじゃろ。

 

 さしずめそれは、人馬一体ならぬ『人刃(じんば)一体』。


 ギロチンブーメランという名の兇器である儂が、白骨のベアリングという擬似的な緩衝材を得たことで、その在り方が変わった。


 小僧が、「操作」という無駄を脱ぎ捨て。


 儂らとともに在ることで生まれ出でた「直感」で以って、鉄板土下座という存在を、世界を駆けるための「死の翼」へと、その格そのものを昇華させたのだ。


(名付けて――『ボーン・ドリフト』! 曲がれ……ッ!)


「魔力を注入する時間に応じて加速し続ける」という儂の仕様が意味するのは、時速300キロは「最低ライン」だということ。


 事実、今の小僧は、時速369キロという数字を叩き出しており、その速度はさらに上昇していく。


 ちなみに、何故、速度がわかるかといえば、儂が小僧の視界を覗き見しているから。


 小僧の視界の端には[システムログ]という形でさまざまな数字が並んでおり、儂も把握することが可能という訳だ。


 なんにせよ確実に言えるのは、時速300キロを超えた時点で、俗人凡人であれば、死と隣り合わせだと感じる領域に、小僧は足を突っ込んでいると言わざるを得まい。


 何故ならば、現実世界の「摂理」を仮想世界の「摂理」として再構築することがフルダイブVRの本懐である以上、五感が捉える恐怖もまた、現実のそれと何ら変わりはないのだから。


 一度でも制御を失えば、地面へと叩きつけられ、逃れようのない死が訪れる。


 脳裏に過ぎるであろう、その致命的な結末。


 それは、普通の者なら見えて当然の幻視。ただの人間ならば、当たり前に起こりうる現象。


 だからこそ、一般的な感性であれば過酷と見做される死の領域、それすら大した問題ではないことが、小僧が『適合』している証左なのだろう。


 重心を左へと傾けると同時に右足で儂を力強く踏み抜いた小僧が、くつくつと笑う。


 マスクの奥で。

 不敵に。

 愉しそうに。


 常人であれば恐怖に絡みとられる死地にありながら、小僧の笑みは益々こぼれ、踏み込む力を緩めるどころか一層強める。


 変態クソゲーマーと見做されておる小僧ならば、その選択も当たり前である。


 そして、一切躊躇うことなき小僧の力強い踏み込みに、儂の身体にひっついておる骨が応える、否——『応えた』。


 ギュアアアアアアアアアンッッ!!


 意思無きはずの白骨が、小僧の意思に同調するかのように『世界に吼えたのだ』。


 なんと面白い。まさか、このようなものが見れようとは思わなんだぞ。


「直角」に軌道を変えては推進していく変態的な機動を以って、「儂ら」は物理法則をあざ笑う。


 その旋回性能は、まさに異次元。滑稽極まる挙動の極致と呼んで差し支えはない。


 なにせ「直角」だからのう……くくっ、くかかかかかっ! あまりにも巫山戯たこの軌道、馬鹿馬鹿しいほどに凄まじい機動力、この儂ですら感心してしまうのう。


 だが、そう感じたのは小僧も同じだったらしく、「ぷっ、ふふっ……ふははははははっ!」と、笑みを大きくこぼしていた。

 

 のちに、メイガスメイズの狂気として、世界の境界を超えて語り継がれることとなる、鉄板土下座という名のイカれた伝説。


 その伝説を共に征く相棒、「1エンの地雷武器と1エンの使い魔カードの死骸を組み合わせた禁断の魔改造マシン(実質無料)」が、今ここに完成したのである——といったところじゃな。

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