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鉄板土下座、可能性を確かめる

 小僧とエンスケとの出会いは、メイガスメイズ内にて、刻を遡ること30分ほど前。


「始まりの地」の異名でも知られるナルカド商国首都マンダイ。他の者同様、小僧もまた、マンダイの中央広場から、その物語の幕を開けた。


 散策していた小僧は路地裏に迷い込み、『名もなき移動雑貨屋』にたどり着き、『老店主』との問答ののち、眠っておった儂が小僧の手に渡るのだが……それはまた別の話。些か長いのでな。


 その後、路地裏から抜け出した小僧は、元々興味があったのだろう、使い魔カード専門店へ。


 店内を見渡す小僧は、片隅の「特売コーナー」の一角に山積みされ、捨て値で叩き売りされていた「ソレ」を注視する。

 攻撃力も耐久力も最低。巷では「ゴミ」と嘲笑される最弱の使い魔、エンプティ・スケルトン。

 しかし、その種族名が示す通りの外見と、骨という構造に付随するであろう物理的特性。


 そこに秘められた「ある可能性」を瞬時に見抜いたのだろう、小僧は、一切の躊躇なく300枚もの使い魔カードをまとめ買いするという暴挙、いや、奇行に出たのである。


 さて、一見すればなんの使い道もなさそうであり、産廃以外の何物でもないこのカード。

 だが、小僧の脳裏には、その無価値の裏側に潜む「ある可能性」と、狂気的とも呼べる発想から生まれ出でたる「仮説」が渦巻いていたようだ。


 だからこそ、ここに来たのだ、意気揚々と。


 エンプティ・スケルトンに秘められているかもしれない可能性を確かめる、その「実験場」として最適だと、そう思ったのだろうな。

 メイガスメイズをこよなく愛する廃人ゲーマーたちが蛇蝎の如く忌み嫌い、その名を聴くだけで顔を顰める悪名高き棄地、もとい、クソマップたるバイオ・フラスコにやってきたのである。


「……メイガスメイズの仕様上、再召喚するまでは死んでも骨は消えない。なんなら、別個体を召喚したっていい。カードの貯蔵は十分だし——」


 小僧曰く——「メイガスメイズ の物理エンジンだと、再召喚の手順を踏まない限り、使い魔の亡骸は物理演算の干渉を受ける物体、オブジェクトとしてその場に留まり続ける……死亡判定の後、手動でカードへと還して、一定時間後に再召喚が可能になる、この一連のプロセスは、『制作陣』、いわゆる『開発スタッフ』の拘りが影響しているんじゃないかな?」——だそうだ。


「実際、他のゲームならポリゴンの欠片や残滓になって霧散していなくなるのが、死骸って形のオブジェクトとして残ってるからね……『現実と見紛う異世界』って触れ込みは伊達じゃない。ここの開発スタッフ、相当凝り性だよね……だからこそ——」


 ——腑に落ちない……そうじゃな?


「ま、そういうことだね。さ、出ておいで——」


 手元のカードに魔力を流すことで起動したのだろう、使い魔カードが淡く『蒼く』輝く。それと同時に、光の球が、小僧の足元近くの泥濘に音もなく突入した……三秒後。


 カタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタカタ!!


「おー、めっちゃ元気だねー」


 泥濘の中から這い上がる白骨死体、もとい、エンプティ・スケルトンは軽快なリズムで顎をけたたましく打ち鳴らしたのち、小僧に敬礼する。

 そんな元気で従順なしもべに向けて、小僧は「うつ伏せ、よろしくー」と笑顔で命じると、何ら躊躇うことなく「ていやっ!」と、エンプティ・スケルトンの急所である頭蓋を粉砕し、四肢の骨を無慈悲に引き抜いては「素材ゲット!」と叫ぶほどにご機嫌なのだが……いったい何をやっとるんじゃ、小僧?

 次いで、ギロチンブーメランの左右に穿たれた持ち手用の溝穴へ、削って調整した大腿骨を丁寧にはめ込み……じ、事前に『狩猟ギルド』で大量に購入しておいた「大型設置罠用の特殊な接着剤」で……ご、強引かつ、き、きょ、強力に、固定していく、だと⁉︎


 こら、小僧! なんてことしやがる⁉︎


「まあまあ、気にしない気にしない——」


 気にしないでいられるか! 身体に骨をくっつけられて、気にしない者がおると思うてか!


「よし、完成!」


 そうして出来上がったのは、「白い何か」と合体している儂……その「白い何か」の正体はもちろん、エンプティ・スケルトンの残骸を加工した、なんとも冒涜的なパーツ。

 小僧、貴様という奴はまったく……つくづく愉快な奴よのう。


「——さ、テスト開始だ」


 儂の反応がおかしかったのだろうな、ニヤニヤしている小僧が、儂と骨が合体している穴に、なんら躊躇することなく手首まで深く沈めた。

 小僧の意思が魔力となって伝った瞬間、儂は、小僧の手首を軸に、猛烈な回転運動を開始する。

 本来ならば、制御不能な鉄塊の振動が牙を剥き、小僧の肉を粉砕せんとするはず。

 だが、そうはならない。

 何故ならば、そこにしっかりと介在しているエンプティ・スケルトンの骨によって生まれた、余白にも似た「遊び」によって、しっかりと受け流されていたからだ。


 暴虐極まる儂の振動は完全に抑え込まれた。


 その結果、小僧の肉体を削り取ることなく、手首を中心に回っていく儂。

 水平に伸ばされた小僧の腕、その先端でグルグルグルグル大回転する儂は、はたから見れば、おそらくは「風車」の如く……ほう、小僧としては「扇風機」なるものと思うておるのか。


 なんにせよ、迂闊に儂や小僧に手を出そうものなら、一切の安全は保証せぬ……ま、風車としては欠陥品よのう!


 さて……300キロを超える儂の重さと、回転速度に比例して増大する狂気的な遠心力。この世界の常識に照らせば、手首はズタズタに引き裂かれ、均衡を失った身体は地に伏すのが道理である。

 だが、その「二つの道理」はたった今、小僧という変態クソゲーマーによる「創意工夫」によって否定された。

 いや、正確には多少踏ん張ってはいる。

 しかし、まともな足場など期待できぬバイオ・フラスコにおいて、この儂の風車、いや、「死の旋風」を披露しておるにもかかわらず、バランスを崩すことなく立っているその現実は、他のいかなる戦場であっても立っていられることを意味しておる。

 そして何より、本来ならば小僧の手首に襲いかかるであろう痛みが無いという事実。


 それ即ち、小僧の肉体に襲いかかって然るべき負荷が存在しておらず、劇的なまでの減衰を遂げた証左に他ならない。


 つまり、この頭のおかしなイカれた実験は間違いなく、大成功ということだ。

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