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鉄板土下座、クソマップを訪れる

 累計50万人超の度肝を抜き、一躍「時の人(不審者)」となった小僧は、エル・ドラド・ステップを爆速で横断した勢いそのままに、隣接する未知の領域へと躍り出ていた。

 そこは、ナルカド商国が誇る経済都市の喧騒も、人気配信者たちへ送られる喝采も届かぬ、静寂の深淵。

 運営をして「あまりに不快でデバッグ効率が悪い」と言わしめ、調整の手を止めさせた場所。今や物好きな廃人すらも安易な侵入を拒む、ナルカド商国随一の僻地。


 見捨てられた「棄地」である。


 頭上を覆うのは、毒素を孕んで重く垂れ込めた鉛色の雲。そこから間断なく降り注ぐのは、大気を焼くような粘り気を帯びた酸性雨。

 足元に広がるのは、魔物の死骸が腐敗の果てに溶け出した、紫色のドロドロしている泥濘ぬかるみ

 膝下ほどの深さにまで満ちている泥は、まるで見えざる死者の手が足首を掴むかの如く、逃れがたく絡みついてくる。

 泥の底からはメタンガスの気泡が不気味に弾け、鼻を突く硫黄臭が辺り一面に充満し、時折聞こえるている「ボチャリ、ジュウ……」という音は、死を拒絶する懇願にも、死の間際の断末魔にも聞こえてくる。


 そう、小僧の視界に広がるその情景は、人という種にとって、まさしく「地獄」そのものであった……ふんっ、相も変わらずじゃな、ここは。


 その異常なまでに排他的な環境は、「数ある魔物領域の中でも最悪にして惨憺たる地獄」と評されているらしく、一切の誇張抜きに「クソマップ」として、プレイヤーたちの記憶に刻まれておるそうじゃ。


 その名は『猛毒の干潟(バイオ・フラスコ)』。『ゴールド級』。


 等級とは、探索者ギルドにより認定された難易度、又は危険度であり、ゴールド級は上から数えて三番目。最上位の『ミーティア』、次点の『プラチナ』に次ぐ高難易度。

 現在のプレイヤーの中でも上位と呼べる70レベル以上が、挑戦に際して要求される最低水準。

 間違っても、その日にゲームを開始したルーキーが訪れていい場所ではない。


 だからこそ、最高に愉しめそうだとついつい足を運ぶ、小僧のように頭のおかしいイカれたルーキーもいる……そうじゃな?


「——お褒めにあずかり恐悦至極、ってね。てか、やっぱ生身だと長くは保たないなー……めっちゃ疲れるわ、これ」


 つい1時間ほど前、メイガスメイズにログインという名のフルダイブを敢行し、流れ作業のようにキャラクタークリエイトを終えた「永瀬 乃亜」、プレイヤー名『ノア』。

 とある『口の悪い老店主』から、たったの1エンというサービス価格で譲り受けた儂の上で、この悪辣な静寂を満喫しておるようじゃ。

 何はともあれ、「巨大な守護者の股の下を潜り抜け、垂直に近い断崖を滑り登っては滑走する」という、なんとも無茶な機動の果てに辿り着いたバイオ・フラスコこそが、この世界にログインしたばかりの小僧が、あらかじめ目星をつけていた目的地ということらしい。


 それはそれとして、例の配信を視聴した者たちから「鉄板土下座」と揶揄される独自の騎乗法で、ここまでの道のりを踏破した代償は軽くはない……具体的にどの程度か、知りたいのか?


 それにはまず、鉄板土下座がどのようにして成立しているかを知ることが肝要だ。


 まず、儂の持ち手となる溝穴の縁に足の爪先を引っ掛け、膝をたたみ、肘から手のひらまでをぺたりとくっつける。

 次に、腕や脚など、儂に密着させた部分から魔力を流すことで、加速と減速を可能にする。

 つまり、魔力操作と全身の筋肉を駆使することで、儂の動きを上手く誘導している訳だ。


 問題は、()()()変態クソゲーマーである小僧をして、わずか10分程度の滑走で、心身ともにかなりの消耗を強いることにある。


 小僧曰く、「全力疾走を続けながら、手元のルービックキューブを解いては崩し、再び解く作業を繰り返す」に等しいそうだ。なお、一瞬の失念が即座に「死」に直行するオマケ付きとのこと。

 心身削る過酷な演算。絶え間なき死の重圧。

 難易度もスリルも満点……しかし、移動手段としては、落第の烙印を押されて然るべき代物。


 これが()()の鉄板土下座である。


 だが、当の本人は、そこまで大袈裟に考えてはいない……というよりも、理想の騎乗が出来ないことに思うところがある、そうじゃな?


「——うん、そうなんだ……もっとこう、遊びが欲しいんだよねー。このガチガチの物理演算を余裕をもっていなすための、都合のいいパーツが必要なんだけど……」なんてことを呟きながら、小僧の視線は手元のカードへ。


 そのカードの正式名称は『使い魔カード』。


 特定の魔物が遺す戦利品であり、これを行使することで「使い魔」と称される従僕を召喚、使役し得る魔道媒体である。

 その最大の特徴は、帰還の意を示すことでカードに戻したのち、一定時間後に再使用可能、且つ、繰り返し何度も使えること。

 すなわち、カード自体が機能不全に陥らない限り、永劫に酷使できるという、メイガスメイズあるある『こだわり謎仕様』というやつじゃな。


 そんな素敵アイテムである使い魔カードを、小僧が指先で無造作に摘み上げる。記されている種族は、不死種の中でも最底辺に位置する魔物。


 初心者がこなすであろう「チュートリアル」という名の生ぬるい揺り籠にて、最初の剣の錆にされてしまう悲しき存在。

 だが、そのあまりの弱さゆえに、「エンスケ」の愛称で広く知れ渡る、メイガスメイズを代表する「雑魚モンスター」。


 それが、『エンプティ・スケルトン』である。


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