鉄板土下座、平常運転
「いやー、わかっちゃいます?」
「違う……ヒナが一番」
「いえいえ、わたくしが一番ですわよ」
「おいおい、俺を差し置いて一番だと?」
粗暴な男の言葉を契機とし、茶髪坊主ら三人の目の色が変わったかのようにその雰囲気が変容し、闘志を剥き出しにしよった。
くっくっく……揃いも揃って負けず嫌い、か……やはり面白いな、こやつら。この小僧の連れでいられるのも納得じゃな。
「剣なら……ヒナが最強」
「この中なら俺がRTA最速最強だっての!」
「エレガンスな決闘ならわたくしが最強ですわ」
獰猛ながら愉快そうな表情で小僧たちを眺める粗暴な男が、くつくつと笑みをこぼしおる。なんとなく、その気持ちはわかるのう。
「——で、オマエは何が最強なんだ?」
粗暴な男は答えを促す、小僧に。
何をもってして一番なのか、と。
「んー……遊び心?」
「遊び心……遊び心、あそ、び、……ハハ、ハッ、ハハ……フハハハハハッ‼︎」
小僧の答えに何を思ったのか、大笑いし始める粗暴な男は……すぐに獰猛な笑みへと戻り、答え合わせをするかのように問う——何かを確信したかのように。
「オマエ……『邪神』だな?」
その問いに、小僧はもちろん——
「あー、そうみたいですね」
やはり他人事のような小僧だが、鉄板土下座同様、いつのまにか呼ばれていた名に、そこまで思うところはないのだろうな。
「『拳姫』、『悪魔』、『魔剣』、それに『邪神』……序列一位常連の『牙』四本が目の前に——メイガスメイズに来てるとか面白すぎんだろ……」
粗暴な男の告げた文言、その内容に、グレイグレイヴの者たちがどよめく。
グレイグレイヴの者たちはどちらかといえば日陰者であり、アイドル的な広報活動に力を入れているシルヴァン・エギルとは対照的な者たちの集まり。
集まる情報それ自体も日陰——アンダーグラウンドなものになりやすく、グレイグレイヴというクランの方針や性質的にも、同じくアンダーグラウンドな領域であるD.D.D界隈の情報は集まりやすい。
だからこそ、D.D.D界隈の中でもクレイジーな者で溢れかえるワイルドファングには、日頃から注視している。
そう、ワイルドファング序列一位となる者たちの脅威度や危険度を、メイガスメイズ内の者たちの中ではかなり理解しているということ。
小僧たちの凄まじさを理解し、理解できる者たちなのだ、グレイグレイヴというクランは。
それはさておき……今なおD.D.D界隈を愉しむバグ・チャイルドたち、そんな者たちですら匙を投げるほどに厄介な世界——ゲーム史上屈指のクソゲー「ワイルドファング」。
実のところ、このゲームの問題は、その「厄介さ」の内訳が理不尽で不合理なバグが蔓延している——といった類のものではないこと。
『オーバーリアリズムシステム』、通称『ORS』と呼ばれる独自のゲームシステムの難解さが、ワイルドファング最大の問題。
端的に語るなら「極めて高難易度」だそうだ。
小僧たちが楽しんでいるというのでな、儂も少しばかり、ワイルドファングやD.D.D界隈について勉強してある。そのおかげで、いくらか知識が備わっている訳だ。
何はともあれ……儂の見立てでは、ワイルドファングで序列一位になれる——有資格者は、現実世界においても戦闘技術、またはそれに繋がる何かが際立っていることが不可欠。
黒髪幼女が剣の達人であるように。
金髪ドリルが徒手格闘の達人であるように。
茶髪坊主がRTA世界王者級であるように。
「バレちゃったね?」
「元『牙』ならそりゃそうだろ」
「オーホッホッホッ! 問題ありませんわ」
「うん……問題ない」
ならば、小僧には何があるのか。
あるのだ。
小僧には、明確にそれがある。
しかし、だからこそ表舞台に立てぬ。
故に、だ。
現実世界では不可能なことを。
仮想世界だからこそ可能にできる。
可能にしてもよい。
だからこそ、笑う。
笑える。
思う存分。
思いつくまま。
楽しんでもいい。
愉しんでもいい。
故に『逆転嗜好』
故に『道化芝居』
小僧はルールを守る。
小僧はルールで己を縛る。
それは何故か。
とても簡単だ。
『逆転嗜好の道化芝居』——それは小僧のバグ・チャイルドとしての個性の名。
別名——
「ご指名ありがとうございまーす」
「『仮想世界の邪神』、いや、確かちゃんとした呼び名があったな……そう、確か——」
——『縛りプレイ』。
思いつく限りの縛りを自分に課し。
限界の限界までルールを使い尽くす。
そうすることで、『逆転嗜好の道化芝居』が成立する不利な状況を、自らの手で小僧は作り上げるのだ。
小僧は、悪巫山戯する。
しなければならない。
それは何故か。
とても簡単だ。
単純な話なのだ。
存在しないから。
仮想世界において。
単純なスペックで。
唯の一人も存在しないから。
仮想世界における単純なスペック、単純な脳力ならば唯の一人も存在しない——小僧を上回る者など『絶対』にいない、それを断言できるだけの『純然たる事実』が存在する。
齢四つ。
それは年齢。
適応した年齢。
今から13年ほど前。
小僧が、バグチャイルドとなった年齢。
ここに矛盾が存在する。
確か、あのスレだったのう…………うむ、やはり間違いない。
【悲報?】鉄板土下座さん、クソマップで凶悪レベリングするwww【いや朗報w】というスレの中にこのような記述がある——
434 名無しの開拓者
>>432
ただし「ご使用の際は自己責任で」ってやつだから、そこは理解してな?
発売当時、だいたい10年くらい前かな、「脳が発火しても文句言いません」って意味合いの激ヤバ契約書を結ばないと購入できなかったんだわ、ちゃんと法的効力があるやつ
——わかるだろうか、この致命的な矛盾に。
これは「D.D.D」の危険性などを語っていた流れなのだが、この時、434の者は、だいたい10年前に発売と書いている。
儂も公式ホームページを確認したのだが、今から数えてほぼ10年前に「D.D.D」は発売された。
現在の小僧は17歳。
その10年前となれば。
その頃の小僧は齢七つということだ。
小僧が今から13年前——齢四つでバグ・チャイルドとなっているの間違いなく事実。
この事実の乖離はなにを意味するか。
なに、特別難しいことではない。
「D.D.D」、そして、現代の主流である「N.N.I」、この二つのデバイスを開発販売しているのは——「フロンティア・ニューラル社」。
開発責任者は——「永瀬 冴子」。
そう、「D.D.D」とは、稀代の天才科学者たる小僧の母君が作り出したもの、といっても過言ではないらしい。
何故、バグ・チャイルドなのか。
本来は。
元々は。
とある一人の子供を指す言葉だった。
そう。
そうだ。
そうなのだ。
小僧こそが始まり。
仮想世界の真の始まり。
世界最古のバグ・チャイルド。
地球最初の『逸脱者』。
「——『仮想世界で悪戯する邪神』だったか?」
「そうみたいですね」
その者の名は『永瀬 乃亜』。
そう、小僧のことである。




