淑女、撃ち崩す
「——とんでもないわね……」
[あのアスモ隊がアワアワしてるんだがwww]
[遠目で見ても動きがヤバい……チートか?]
[噂の兄貴なら素だろ、あれ]
「例のhdk兄貴ね……ヒナヒナちゃんを『保護』しに来たら噂のルーキーと一緒にいるなんて……それにあの美少女——」
[多分、圧殺令嬢]
[スレの画像、少し荒いんだよな]
[『IR』様々だな、素晴らしい解像度]
「ウチのドローンは『親方の試作機』って名前のオーダーメイドだからね。ワンオフ機ってホント最高」
[コネとかサイテーだなwww]
[おっと阿久津の悪口はそこまでだwww]
[ん、終わったか?]
「そうみたいね……ヒナヒナちゃんも凄かったけど、hdk兄貴の方は違うベクトルの凄さよね。嵌め殺しって感じ」
[意味のわからん速さで死んでくもんな]
[防具の継ぎ目狙いとかヤバすぎる]
[テイルブレイドの首刈りも大概だわ]
「個人的にヤバいと思うのは、攻撃を仕掛ける相手が不規則すぎるところね。敵自体を遮蔽物に利用することで死角を生み出して、敵の視界と視野を機能不全にする。そうなったら、あとはもうペンデュラムの射程圏内から自由に選べる……誰から殺すかをね。で、これ全部を、地上も空中も自由自在に動き回りながら同時並行的にやってるのが凄すぎるのよ」
[悪魔的発想www]
[ビジュアル的にも悪魔寄りだしな]
[姿晒しながら暗殺する兄貴ヤベーwww]
「定規の君にhdk兄貴、圧殺令嬢……噂のルーキーたちがこうも揃ってるとなると、やっぱりあの子が『鉄板土下座』かな?」
[クソダサゴーグル&マスク姿しか知らん]
[顔はわからん、背丈は合ってそうだな]
[可愛い系男子か……]
「確かに可愛いのよね……『昆布ダシ』さんが言うには、hdk兄貴はマイルドヤンキー……可愛い系の男の子とマイルドヤンキー……ふふっ——」
[おい、ダークサイド出てきてんぞwww]
[鎮まり給え、鎮まり給え]
[唐突なカップリング考察やめてwww]
「配信は自由! 想像も自由! 考察も自由! つまりウチはどこまでも自由だー! えー、どっちがいいかなー……hdk兄貴 × 鉄板土下座……逆もアリよね」
[ダメだ止まらねえwww]
[ほっとけ、そのうち鎮まる]
[次はどっちがやるんだろうな]
——と、このように、娘っ子の配信は大層盛り上がっている様子。
小僧たちとの距離はおよそ1キロ。視聴者数は「4万人」。ゲリラ配信の割には中々の人数が集まっておるの……ん、詳しすぎるのが気になるか?
無論、学習したに決まっておろう。
何かを楽しむならば流儀や作法、関連知識などを学んでおくのは当然のこと、ただそれだけよ。
それはそれとして、カップリングとは一体全体なんのことやら……あとで調べておくか。
❖
「——タイムは⁉︎」
「1分9秒」
「ぐああっ、1分切れてねえのかよ⁉︎」
「3人多かったけど誤差だしねー」
「マイナス1秒2秒したところでな……」
グレイグレイヴ103名を見事に嵌め殺した茶髪坊主だが、その記録には不満があるようだ。
確か「RTA」、リアルタイムアタックといったか、茶髪坊主はそれが大好きなようだからな。望まぬ記録が出れば悔しいのも当然であるな。
「なんにせよ俺の勝ちな?」
「……本気じゃないもん」
くっくっく、茶髪坊主も黒髪幼女も、互いに闘争心剥き出しだのう。意外なのは、黒髪幼女もこの手の勝負が好きなこと、負けず嫌いであること。ほんに見た目からは想像もつかぬな。
「次はわたくしの番ですわね」
「いつも通り?」
「ええ、計測は不要ですわ——」
お手本のような歩様でゆっくりと歩を進める金髪ドリルは、自分が相手をする百余名の前へ。
「皆さま、お待たせいたしました——」
右足を斜め後ろに引き、両膝を軽く曲げては重心を落とす。次いで、ドレスの裾を両手で軽く持ち上げる。それと同時に頭を少し下げ——優雅に微笑み、ゆっくりと元の姿勢に戻っていく。
それは、カーテシー。上流階級と位置付けられる家の子女が身につけるべき、最も基本的な挨拶……どの世界にも似たような習いはあるものだな。
そのあまりに自然で優雅な所作に、グレイグレイヴの者たちが見惚れているように見えるのう……ま、気持ちはわかる。
先程の挨拶、実に見事であったからの。
「わたくし、リリィと申します。お相手を務めてくださる方は一人ずつ、こちらに来ていただけますか?」
その真意が伝わったのだろう、グレイグレイヴの者たちの目の色が変わる。金髪ドリルは言外に言い放ったのだ。
一対一の真剣勝負をしよう、とな。
くっくっく、面白いものでな……こういったことは伝わるのだ、誰であろうとも。
侮っている訳ではない。
甘く見ている訳でもない。
ただ純粋に闘おうではないか——金髪ドリルの爛々としたその瞳は、そのことを明確に伝えていたのだ。
だからこそ変わった。
その目に宿る輝きを変えてしまったのだ。
単なる賊から、ひとかどの武人のものへと、
グレイグレイヴ百余名のうち、一人の男が、金髪ドリルの前に立ち、何も言わずに大振りの山刀を構え、静かに佇む。
小僧の合図を待っているのだろう。
「言葉は不要ですわね?」
金髪ドリルの言葉に合わせ、男が瞳を一瞬伏せる。それを確認した金髪ドリルは、小僧に目配せする。
「ではいきますよー! 始め——」
先手は——グレイグレイヴの男。鬼気迫るとはこのことか、殺気を漲らせながら金髪ドリルに突進していく。その動きは速い。
もちろん、黒髪幼女や茶髪坊主と比すれば劣る速度であるものの、あれらはそもそも例外。
おそらくだが、メイガスメイズというゲーム内において、この男は速い方なのだと推測する——その理由。
この男もそうだが、グレイグレイヴの者たちのほとんどが「ブラッディ・ベテラン」。
傭兵系統の上級職——いわゆる暗殺者である。
小僧が寝ている間に、基礎知識は学んでおるでな。そう断言できるだけの根拠もある。
メイガスメイズというゲームでは、系統分けされた職業に就くことで開拓者としての実力を増すことが可能。
そして、グレイグレイヴというクランが、プレイヤーキルを主軸に置くコミュニティである以上、対人戦闘能力は必須であり、重要課題。
そんなクランが、上級職の中では対人戦最強と謳われているブラッディ・ベテランを選ぶのは当然の帰結であるという訳だ。
そんなブラッディ・ベテランは、傭兵系統職の「重装備が可能、但し鈍重」という特徴に反するように、AGI (アジリティ)成長補正が全上級職の中で最も高く設定されている。
その上、スキルと呼ばれる職業固有の後天的技能のほとんどが、速度と殺傷能力向上に繋がるもの。
つまり、現在のメイガスメイズにて単純な速度だけであれば、ブラッディ・ベテランを選んだ者たちが最上位層に在るということ。
「——ぬんっ!」
「ふふっ——」
舞うように山刀を振るう男のそれは速く鋭く、斬撃の群れとなって金髪ドリルに襲いかかる。
そう、群れを成してしまっている。
それが意味するのは、金髪ドリルに全てを見切られている、全てを避けられているということだ。
黒髪幼女や茶髪坊主もそうだが、小僧たちは、とかく眼が利く。視力に視野などの肉体的な視覚はもちろんのこと、観察力や洞察力も非常に優れておる。これはおそらく、バグ・チャイルド共通のものなのだろうな。
無論、それは金髪ドリルも同じこと。
秒間二、三度襲いくる斬撃を軽やかに、だが、大きく体勢を崩すことなく回避していく。
それはまるで舞踏するかのように。
そして、攻撃させてから5秒後——
「次はわたくしの番ですわ」
「——ッッ⁉︎」
くっくっく、実に面白い。金髪ドリルは、高貴という言葉の本質をよく理解しておる。
これは儂の持論だが……寛容なき高貴など、ただの傲慢である。
真に高貴な者とは、気品ある振る舞いを披露すると同時に他者の自由を尊重し、いざとなれば我が身を顧みず盾となり、腐敗した権威貫く剣となれる者のこと……儂はそう思う。
金髪ドリルは尊重したのだ。
眼前の武人の矜持を、研鑽を、意志を。
「ゴフッ——」
——破砕音。
装備を。
肉体を。
意思を。
一撃で撃ち崩す。
「——『インベントリ・アーツ』だと⁉︎」
それは、粗暴な男が思わず口にしてしまうほどには「ありえない光景」。
男の懐にするりと入り込むかのように間合いを詰めた金髪ドリルが、そっと身体に触れる——と同時に現れたのはフォートレスウォール。
重さ1,000キロ、縦4メートル、横3メートルの巨大な城壁が、金髪ドリルの手の平から生えるように出現する。
すると、何が起こるか——強制的に弾かれるのだ、ゼロ距離から4メートル分の位置のズレを埋める、その圧力をもって。
それは在り方にして誓約。
『真に高貴たる者、正々堂々、真正面から全てを受け止め、ことごとくを凌駕し、圧倒せよ』
それは、金髪ドリルの家にて説かれる、家名を背負う者に相応しい者としての行動指針。
優雅に。
華やかに。
媚びず。
驕らず。
金髪ドリルもまた、家名にふさわしき淑女となり、それはゲーマーとしての才や技能だけでなく、プレイスタイルにまで影響していく。
そんな生き方を見せ続けることで得た異名もまた、黒髪幼女や茶髪坊主同様、バグ・チャイルドの個性の名となった。
『淑女たる者、真に高貴たれ』
そして、その名になぞらえるように謳われる「二つ名」が、金髪ドリルの戦闘スタイルが如何なるものかを語る。
——『拳姫』。




