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魔剣、斬り伏せる


「——もしもーし……みんな聴こえるー?」


[聴こえるぞー]

[急にどしたん?]

[良いネタ見つかったー?]


「オーケーオーケー……これ、見える?」


[ん……なんのことだ?]

[あれ、おかしくね?]

[てか、今ってメイメイ夜じゃね?]


「『イクス』でも呟いてたけど、ウチ、今ルーファニア・パルに来てるんよ。そしたら、いきなり昼間になったんよ!」


[ふぁっ⁉︎]

[嘘乙]

[貴女憑かれてるのよ、モフりなさい]


「やかましいわ! こんな僻地に来たら疲れもするっての……ミストウルフちゃん早くモフりたい……」


[だろうなwww]

[噂のテイマーは見つかったん?]

[それもそうだけど、この現象はなんなん?]


「それがわかったら苦労しないっての。あ、ヒナヒナちゃんも、この現象のこともね。でさ、ドローンの望遠レンズで届くかわかんないんだけど…………どう、見える?」


[あれ、GGじゃね?]

[てか、アスモ隊じゃねえか‼︎]

[見つかったら拉致確定www]


「笑いごとじゃないっての! なんであんなヤバい奴らがいるのよ……」


[ミストウルフのネームド狙いとか?]

[ヒナヒナちゃんを拉致りに来たとか?]

[ワンチャン慰安旅行かもしれん]


「どれも最悪なんだけど……てか、GGの慰安旅行とか笑えないっての! ここからだと何やってるか全然わかんないのよね。場所、変えるわよ——」


——といった具合で、小僧たちから遠く離れた場所にいる娘っ子が配信している模様。


 どうやら黒髪幼女に用事がある様子。


 それにしても、見るからに戦闘向きではないな、この娘っ子……む、どこかで見かけた気が……はて、どこだったかのう——



 十中八九、疑問が残る。

 

 おそらくだが、内実内情を知らないのならばそう感じてもおかしくない事実がふたつ、いや、結果的にはひとつなのかも知れぬ、とある疑問が降って湧くやも知れぬ。


 要は、不可思議な状況ということだ。


 事前に小僧から聞いておる儂ですら困惑しておるでな……初めて見る者ならば困惑を通り越し、絶句する——黒ずくめの者たちのようにな。


 それにしても、な……理解しているつもりだったのだが、まさかこれほどとは思わなんだ。


「クソが! 一斉に——」


「……109」


 疑問その一。


 単なる鉄の定規であるアイアンルーラーで、開拓者の中では高レベル帯に含まれるレベル80以上の者を、あそこまで簡単に斬り伏せられるものなのか。


 接敵後、一閃に処す。

 アイアンルーラーで。

 単なる鉄の定規で。


 黒髪幼女が振るう「ただの一振り」で戦闘不能に追い込んでいるからこそ、疑問が浮かびかねないということだ。


 疑問そのニ。


 黒髪幼女の異名である『神喰い魔剣の小さき体現者 (リトル・グラム・マギカ)』。


 この名に含む「魔剣」とは、どういった意味合いで含ませてあるのか。


 二つの疑問を解き明かすその答え。


 それは、目の前にある——


「とんでもねえガキだな……」


 粗暴な男が思わず呟いてしまうほど、黒髪幼女の技量は極まっておる。


 剣や体捌きはもちろんのこと、粗暴な男が唸ったのはおそらく、黒髪幼女の「魔道技術」。


 いや、それも正確ではないな。より正しく語るならば、武と魔の両立のさせ方が凄まじいのだ。

 

 黒髪幼女は違う。


 ただの剣士でもない。

 ただの魔道系統職でもない。


 黒髪幼女は「魔剣士」なのだ。


 二つ名に「魔剣」を含むから「魔剣士」……安直な感想だと思うか?


 ならば見るが良い——


「クソ、足が——」


「……136、137、138」


「止めろ! とにかく動きを——」


「……139、140」


 実際、黒髪幼女ほどの技量があれば、アイアンルーラーだけで剣士として成立するだろう。


 だが、黒髪幼女はそれを良しとしない。

 自分が憧れるのは「魔法少女」なのだから。


 語るまでもないが、あれはただの定規。

 間違っても武器ではない。

 攻撃力など雀の涙ほどもない。


 スレにもあったように、ただの文房具じゃ。


 おそらくだが、黒髪幼女自身の長所である「剣技」と己の憧れである「魔法少女」、それを両立するための最適解であると判断したのだろう。


 だからこそ、魔道系統職の他の武器ではなく、剣として取り回しやすいアイアンルーラーを選択した、と儂は思うのじゃが……どうやら小僧は、そこにもうひとつ理由があると指摘。


 なんでも、小僧たちの世界の学び舎である「小学校」に通っていた頃から、黒髪幼女は、定規片手に「魔法少女ごっこ」をするのが好きだったらしく、アイアンルーラーを見てその時のことを思い出したのではないかとのこと。


 ふふっ、なんとも微笑ましいことよ。


 話を戻そう。


 何故、「魔剣士」だと思ったか。


 魔を以って剣を成す——黒髪幼女は、アイアンルーラーを基点とし、身の丈を超える極めて薄い氷の刃を生成している。


 それは、一見すればただの氷の剣。

 その一振りは、氷の剣による斬撃。


 それは紛れもない事実。だが、実際にどのように用いられているかまでを想像することは困難である。


「なんでこんな——」


「……152」


 魔法で生んだとはいえ、氷は所詮、氷。魔素を含ませた分の強度のかさましはあれど、金属と衝突すれば少なからず削れるのが道理。


 だが、折れず。

 しかし、欠けず。


 それは、確かに何度も斬り伏せている現実の証左であり、そこに何かしらの理由があることを意味する。


 その答え、当然ながら魔法である。


 さて、解説の時間だ。


 まず前提として、氷魔法の基礎と呼ぶべき「アイスメイク」という魔法によって、氷の刃は作られている。


 最初に、敵に刃を当てては押し斬ることで、切断線を明確に引く。


 次に、切断線が引かれたと同時にアイスメイクによって刃を「拡張」、切断線そのものに侵入する。


 黒髪幼女は、この二つの工程をこなすことで、切れ味を向上させている。


 そう、ゲーム内にて四大クランに数えられるほどの組織、その中でも精鋭である者らの「高品質の軽鎧」すら容易く両断するほどのそれを、黒髪幼女は実現しているのだ。


 当然ながら、戦闘中にそんなことをこなすこと自体、異常と言わざるをえない。


 何故ならば、敵の身体と氷の刃が触れている時間は、わずか1000分の1秒。「」と呼ぶには適さぬ、あまりに短き時間。


 そのタイミングでアイスメイクを拡張し、侵入しては傷を広げ続けた結果、敵を一撃で斬り伏せる。


 それはつまり、ほんの些細な傷があれば、そこを基点としてダメージを加えることが可能であることを意味する。


 これが黒髪幼女の「魔剣」、その仕組み。


 自らの武と魔で「魔剣」を産む者——即ち、『神喰い魔剣の小さき体現者 (リトル・グラム・マギカ)』たる黒髪幼女は、同時並行的に魔法も設置していく。アイスマインだ。


「纏地」による自由自在な立ち回り。

 一撫でで絶命せしめる氷の刃。

 アイスマインを用いた攪乱。


 これら全てを同時に容易くこなす者を、魔剣士と呼ばずに何と呼べばよいのか、儂には皆目見当がつかぬ。


 魔と剣を体現する者とは、よく言ったものだ。


 しかも、黒髪幼女は明らかに手を抜いておる。いや、手を抜くというよりは、配慮しているという表現が正しいか。


「距離を取っ——」


「……185」


 何故、黒髪幼女はアイスメイクとアイスマインしか使わないのか。これは、黒髪幼女の性格を鑑みれば自ずと理解可能だ。


 傷ついた霧狼に一も二もなく駆け寄り、治癒魔法を施すほどに心優しき者であれば、そのことを配慮するに決まっておるのだ。


 森の木々に被害が及ばないように、火や風、土や岩などの破壊力が高く環境に影響のある魔法を選択しない。


 そこまで考えた上での氷魔法。それもアイスメイクとアイスマインのみという選択は、「魔道系統職」に就いている黒髪幼女自身の戦闘力低下を確実に招くだろう。


 そう、小僧たちの世界でいうところの「縛りプレイ」、又は「舐めプ」をしているのだ、黒髪幼女は。


 もちろん、本人にその自覚はない。ただ単に、森を破壊しない選択をしているだけなのだから。


 このことを知れば、手を抜いているように見えても致し方あるまいて。なんとも恐ろしく、しかし、この上なきほど心優しい武人である。


「そんな馬鹿な——」


「……198」


 そして、最後のひとりを斬り伏せる。


 所要時間、およそ三分。


 この数の猛者を一人ずつ、この短時間で全滅させるとはのう……実際に見ねば解らぬこともあるものよ。


 まさに「百聞は一見にしかず」……じゃったかの? 小僧たちの世界には、面白き言葉が溢れておるわ。


 グレイグレイヴの奴らが、信じられないものを見たかのように驚き、ざわつく中、黒髪幼女が声を挙げる。


「……足りない」

「あ、やべ——」

「二人、足りない……」


 くかかかかかっ! まことに人の感情とは解らぬものよ。黒髪幼女め、かなり憤っておるわ。


 やはりと言うべきか、今までのそれは本気ではなかった。黒髪幼女から殺気、いや、この場合、剣気とでも呼ぶべき途轍もない圧が、グレイグレイヴの奴らに向かって放たれたのだ。


 見よ! 奴ら、顔が引き攣っておるわ!


 ただし、粗暴な男だけは別だ。黒髪幼女の本気の殺気を浴びて、嬉しそうにも見える獰猛な笑みを浮かべておる。


「はいはい、ヒナ落ち着いてー」


「うぅぅぅ、だって……」


 どうなるかわかっているのだろう、小僧がすかさず駆け寄り、黒髪幼女を宥めながら後ろに退がらせていた。


「一分半切ったら俺の勝ちな」


「ん……」


 そんなことを口にするのは——茶髪坊主。


「二本のペンデュラムにテイルブレイド……なるほど、オマエがひできちか——」


 粗暴な男の問いに、茶髪坊主が笑みを浮かべることで答え、あてがわれた百余名の前に立つ。


「アンタらには悪いが、俺はヒナほど優しくはねえ……一気に終わらせる」


「それじゃ皆さん、合図と同時に戦闘開始ですよー……準備はいいですか? 行きますよ——」


 小僧が準備を促し、開始の合図を出した——


「始め——」


——その直後、茶髪坊主の身体が()()()



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