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その四人、交渉する

「——くっ……くくく……くかかかかっ! まさかこの儂が、そんな大層な問答の末に、たったの『1エン』で買い叩かれておったとはな!」


 視界の共有を解き、記憶を覗くのをやめた儂の視界に映るのは、バツが悪そうに頬を掻く小僧の姿。


 どうやら儂の言いたいことを予想しておるようじゃな。ならば、ずばり指摘しようではないか。


「それはそれとして、だ。小僧……お主、儂の銘を聞いて、鼻で笑いおったな?」


「いや、だってさ……『セイヴァー』だよ? ギロチンブーメランにその名前は、どう考えてもカッコつけすぎでしょ?」


「うむ、確かにな……だがそれはそれとして、名を笑われる理由にはならんと思わぬか?」


「それはまあ……そうかな?」


 では、ここはひとつ、きちんと要求せねばな。


「のう、小僧……あちらの世界の美食、儂も味わってみたいものよのう……まずは天ぷらを——」


「——は? ちょっ⁉︎ は?」


「ノアさん、セイ爺さま……詳しくお聞かせいただけますわね?」


「天ぷら……一緒に食べるの?」


 ふふっ、黒髪幼女も天ぷらが好きなようだな。


 それはそうと、三人にもそのことを伝えねばならぬか、すっかり失念していたな。


 さて、どのように伝え——


「ズルーい! 私も一緒に食べたーい!」


 しまった⁉︎ 儂としたことが、このポンコツの存在を忘れておった。ぐぬぅぅぅ……ええい、この際だ、そちらの件も小僧たちに伝えておくか。


「何を言っているのだ、ポンコツ。おそらくだが、貴様は何度も天ぷらを食しておるのではないか? ん? どうなのだ?」


「え、えーと……私、精霊神だから! ()()のこととか何にも知らな——」


「ほう……何故、小僧たちの住まう星が地球という名だと知っておるのだ?」


「はうっ⁉︎」


 くっくっく、小僧たちの反応も中々楽しいのう。驚き半分、ポンコツへの憐れみ半分といったところか。


「……ルルナ」


「——っ⁉︎」


「のう、ポンコツ……『Vtuberのルルナ』という名に聞き覚えはないか? ほれ、答えよ?」


「あわわわわわっ⁉︎」


「セイ爺、Vtuberって、あの?」


「うむ、小僧の思うとるそれで違いない」


 小僧たちの世界で人気の動画配信サイト「Go Tube」。そこではかつて、絵を動かしながら声を発して、インターネットで繋がった者たちへ言葉を届ける「Virtual Go tuber」、通称「Vtuber」なる存在がいた。


 そして、現代。


 フルダイブVR環境下にて独自のアバターを作り上げて配信する者を「フルダイブVR Go tuber」、哀悼と敬意を以て「Vtuber」と呼称するようになった。


 そのようなことがGo Tube公式ホームページに記載してあったのでな。勉強済みである。


「で、話をまとめると、ポ……精霊神さまの中の人が地球で——」


「ポンコツって言いかけた! ひど——」


「やかましい! 小僧、続けよ」


「はーい……ポンコツさまの中の人が精霊神を演じながら、ごーつべで配信してるってこと?」


「いや、それだとおかしくね? セイ爺とポンコツさまが知り合いってことに説明つかねえぞ?」


「あー、確かにそうだな……」


「ちょっ、ポンコツさまとか、ひどくない⁉︎」


「ポンコツさま……Vtuber向いてそう」


「ええ、確かに。今度、クレイジーチャットを送りに行きましょうね、ヒナさん」


「え、ホント? 赤ちょうだい、赤!」


 なるほど、金髪ドリルと黒髪幼女も案外アレなのだな……とはいえ、素直で可愛げがある分、このポンコツとは比較にもならぬが。


 さて、そろそろヒントでも……む?


「わんっ! わんわんっ‼︎」


「アッシュ……?」


「ノア——」


「——だね……リリィ、ヒナ」


「かしこまりましたわ」


「うん……」


 ほほう、小僧たちも気づいたか。


 小僧が、その場の物をあっという間に「魂の保管庫 (インベントリ)」へ収納。


 茶髪坊主が、コテージを操作しては畳み、やはり即座に収納。


 金髪ドリルが湖を背にして、フォートレスウォールを取り出しては地面に突き立てる。


 黒髪幼女は、アイアンルーラーを森の方へ掲げる。おそらくだが、知るべきものを観ておるのだろう。


 この間、わずか5秒。


 なるほど……小僧たちは「慣れて」おるな。ま、当然といえば当然なのだが。


 さて、儂からも援護といこうか。


「ポンコツ、貴様にチャンスをくれてやる」


「え、えっ? なになに、何が起きて——」


「上手くやれれば、ポンコツ呼ばわりの撤回を考えてもよいぞ?」


「え! ホント?」


「もちろんだ。なに、やることは単純だ——」


 ポンコツにやらせたいことを伝えると、得意げな表情を浮かべるポンコツ。


「そんなことでいいの? 私にかかればそんなの楽勝よ——」


 そんな調子のいい言葉を吐いたポンコツは、森の上空へ浮かび上がり——


「私の威光を知りなさい!」


 ポンコツ発光! 


 そう、小僧たちは今まさに奇襲されかけておる。ならば、まず初めにすることは何か。簡単だ。


 敵を炙り出すこと。


「おー、めっちゃ明るい」


「ポンコツさま、やるな」


「素晴らしい輝きですわね」


「……太陽みたいだね」


 そう、あのポンコツにはこう伝えたのだ——太陽が如き精霊神の威光を空で「儂の合図があるまで」放ち続けよ、とな。


 そのおかげで、最早昼間となんら変わらぬ明るさになった。やれば出来るではないか、ポンコツ。


 確か、小僧たちの世界ではこう言ったか——馬鹿とハサミは使いよう。正しい使い方できとるかの?


 そして——パチ、パチ、パチ、と……眩い光に照らされた森の奥から、なんとも場違いな拍手の音が、小僧たちの耳へ届けられた。


「——中々やるなあ、ガキども」


 粗暴という言葉をそのまま音にしたような声を挙げる男を先頭に、小僧たちの前に現れたのは、全身黒ずくめの衣装を纏う者たち。


 その色が示すところは、闇にまぎれること。

 ならば、闇にまぎれる利とは何か。


 意識の外からの奇襲、その成功率を高めることにある。無論、奇襲の内訳には「暗殺」や「拉致」も含んでいる。


 つまり、その利点を活かせなくなったことから、自ら姿を現したということ。


 どうやら、先ほどの言葉を発した粗暴な男が、この集団を率いる者だな。明らかに、他とは放つ武威が異なる。中々の実力者なのだろう。


「そこのチビ、オマエがヒナヒナか?」


 黒髪幼女が素直に頷く。やはり肝が据わっておるな。いや、それとは少し違うか——


「で、そこのちっさい狼がミストウルフのネームド。合ってるか?」


「うん……」


「そうか……悪いがこれも依頼なんでな。オマエのことを——」


「あ、ちょっといいですか?」


 粗暴な男の言葉を、小僧が遮る。


「チッ……なんだ?」


「ここには、どのくらいの人数で?」


「……はっ! 面白 (おもしれ)えなオマエ……レベル80越えが大体500だ。たった四人じゃ、どうにもならねえ……わかったら大人しく、そのチビを——」


「一人頭125……まあまあだな」


「……あ?」


 茶髪坊主が、いつも通りの口調でそのようなことを口にする。


「あら、200は欲しくありませんこと?」


「いやいや、俺らまだまだルーキーだし、こんなもんでいいんじゃない?」


「な、なにを言ってやが——」


「ダメ……」


 小僧と金髪ドリルの言葉、その内容はあまりにも緊張感に欠けていた。


 耳を疑うその言葉に、粗暴な男が呆気に取られていると、黒髪幼女が更なる発言をしていく——


「ヒナのお客さんだから……全部ヒナのもの」


 くっくっく、くかかかかっ! それでこそ儂の契約者の悪友、ごく自然に煽っておるわ。


「な、なに言って——」


「それは良くない! 独占禁止!」


「まったくだ、俺らにもやらせろよ!」


「わたくしは参加してもいいですわよね?」


「……ヤダ」


 小僧たちの話し合いが熱を帯びていく。背後を除き、囲まれている中で。


 こともあろうに、今この瞬間に包囲している者たちを誰がどのくらい相手にするか、その交渉を始めた。


 この四人、「D.D.D」専用RPG「ワイルドファング」内で日頃からやりあっておる。


 そう、730倍の時間拡張がされているゲーム内でバチバチに闘っている…………小僧の記憶を観るに、累計100年以上はやりあっておるのだ。


 そこまで闘っておるとお互いの深い理解に繋がり、場合によっては千日手になりかねない——長丁場の闘いになることを理解しており、他の三人を力づくで出し抜くことは実質不可能。


 早い者勝ちだと先んじても他の三人から背後を突かれることを理解してるので、これもやはり実質不可能。


 つまり、PK狩りの獲物の分配交渉は、四人にとって暗黙の了解ということである。


 そんなこととは露知らず。しかし、確かにわかることもある。


 そう、黒ずくめの男たちは、はっきりと侮られている。明確に舐められているのだ。


 その事実に憤慨した者がいたのか、小僧たちの元へ駆け出しては——死に絶えた。


 死んだのだ、あっけなく。


 それは一瞬の出来事。


 駆ける男の動きが止まり、額と左胸の二か所を正確に穿たれていたのだ。それとほぼ同時に、茶髪坊主と黒髪幼女がその言葉を口にする。


 邪魔、と。


 二人がしたことは非常にシンプルだ。


 黒髪幼女が「アイスマイン」と呼ばれる氷魔法を発動。駆けてきた男の足元に寸分たがうことなく設置し、その動きを止める。


 そこをすかさず、茶髪坊主の左右それぞれの手から伸びるペンデュラムが、駆けてきた男の額と左胸を貫く。


 ただ、それだけ。


 ただそれだけのことを、1秒にも満たぬ間にやってのけただけのこと。実にシンプルであろ?


「あー……すぐに話まとめるんで、少し待っててもらえます?」


「…………」


 粗暴な男は口を開かない。いや違う……開けないのだ。茶髪坊主と黒髪幼女の二人のそれが、粗暴な男の警戒度を引き上げたのだろうな。


 そんなこととは露知らず、小僧たちは話し合いを続けていた。まったく、大した者らよ。


「あ、それと——」


「……?」


「みなさん、どこの誰ですか? いや、なんて呼んだらいいのか、わからないので」


「——ッ⁉︎」


 くっくっく……そうじゃな、お互いの名を知ることは大事じゃな。良くも悪くも、な。

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