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ポンコツ、バラす


「——ふぅ……とても美味しいですね」


 青髪美女もといポンコツが、深い艶をたたえる黒褐色のスープを口に含み、感嘆の息を漏らす。


 そのスープは、金髪ドリルと黒髪幼女共同の一品——「翡翠角鹿のタンシチュー」とのことだ。


 翡翠角鹿の大きな舌を切り分け、街で買い込んだ「お手軽シチューセット」なる商品に付いてきた香味野菜、調味料とともに、じっくりコトコト煮込んだもの。


 噛むのに力は要らず、歯を添えるだけで身はほぐれ、旨味が爆発するとは、金髪ドリルの言。93点だそうだ。


 ところでだな……その場にいる者たちが口々に褒め称えるそのシチューを、儂と小僧だけは、何故か未だに味わえておらぬのだ。


 小僧……いい加減、アレを食べぬか? タンシチュー、儂も味わってみたいんだがのう?


「はぁ……めっちゃ美味い」


 ダメだこりゃ……小僧め、念願のお魚さんにうつつを抜かしておる。ま、実際のところ、美味ではある。


 だが、流石にこればかりというのはな。


 ちなみに小僧が食しておるのは、「精霊(マス) (スプライトトラウト)」という魔物の塩焼き。等級はギリギリ「ゴールド」といったところか。群れとなるとまた異なるがな。


 最初に釣り上げた時、小僧は「これ、ほぼヤマメじゃん!」と大興奮。どうやら、小僧たちの世界で、釣り人に人気の高い魚に似てるらしいの。


 そんなこんなで小僧の釣り魂に火が付いたのか、あのポンコツ精霊神を釣り上げるまで、釣りも釣ったり「68匹」。


 その全てを「魂の保管庫インベントリ」に保管し、その内、20尾ほどが塩焼きにされた訳である。なお、インベントリ内は時間経過が無いため、新鮮なまま。いやはや便利だのう。


 そして、小僧は吼えた——「ヤマメ祭りキターーーーーーーー‼︎」、とな。


 ちなみに「釣った魔物はほとんど無いんだな、経験値……」とのこと。


 つまり、魔物を釣り上げて上昇するのは「釣りの経験値」。戦闘の経験値は上がらないということじゃな。当然といえば当然である。


「四万十川のヤマメとも違うよな?」


「うん、また違った美味さ。はあ、最高……」


 コテージの外に、小僧と茶髪坊主がせっせと作ったお手製の調理場、「囲炉裏」と呼ぶそこで、スプライトトラウトを焼きまくる男衆。


 そして、腹からかぶりつく……香ばしく焼き上がったその味わいに、感無量といった様子である、儂もな。


 ところでな、小僧……既に六尾も食しておるぞ? そろそろ、タンシチューの方を味わってもよいのではないか……はぁ、ダメか。


「てか健ちゃん、まだ大阪なのか?」


「今、ガッツリ追い込みだね」


「デバッガーは? 足りてんの?」


「どうかな? 困ったら言ってくるでしょ」


 健ちゃんとは、小僧の父である益荒男のことだな。小僧たちが長期休暇の際、山やら海へ連れていくのが昔からの定番だそうだ。


 四万十川なる場所にも、琵琶湖なる場所にも、幼き頃からよく訪れ、渓流釣りなどを楽しんでいるらしい。小僧たちが妙にこなれているのも、その影響なのだろう。


「二人だけずるい……ヒナも食べる」


「シチューはもういいの?」


「うん…………あ、美味しい……」


「ほれ、わんこも食べな——」


「わんっ!」


 トコトコと歩いてきたのは黒髪幼女と霧狼。どうやら、金髪ドリルとポンコツはコテージの中でタンシチューを満喫しておるようだな。


「……ノア」


「ん、どうしたー?」


「明日は……ウナギ釣る?」


「もちろん、その予定だぞ」


「……楽しみ」


 小僧たちの国ではウナギが大人気と聞いておる。どうやら、黒髪幼女もウナギが好きなようだ。


 ま、そもそもの話、あのポンコツを釣り上げたからこそ、釣りを終えてコテージに戻ってきた訳で。


 言ってしまえば、あのポンコツのせいでスプライトイールという名のウナギを釣り上げる時間が失くなったということだな。まったく、面倒なポンコツよのう。


 それはそれとして、小僧たちが和気藹々(わきあいあい)とお魚パラダイスを満喫している中、その素晴らしい声が届けられる。


「オーホッホッホッ‼︎ ノアさん、お魚さんを2本いただけるかしら?」


「はいはーい——」


「——あら、素晴らしい焼き上がりですわね。ふふっ、さすがはノアさん。さあ、熱いうちに召し上がりましょう」


 タンシチューを食べ終えたのだろう、金髪ドリルとポンコツが揃って歩いてきた。


 そして、串に刺さった2本のお魚さんを、小僧から受け取った金髪ドリルは、その片方をポンコツに手渡す。


「あら、美味しい——」


「火加減は完璧…………なるほど、皮目の脂乗りも程よく、身は旨味と甘みのバランスが整っている。内臓の苦味は極めて弱く、しかし、味全体に絶妙なコントラストを生み出し、さらに美味しさを高めている……97点」


「よっしゃ!」


「おー、すげえ、記録更新したな」


「……3点アップ、すごい」


「——えっ……え?」


 キョトンとしているポンコツを余所に、金髪ドリルによる採点にて高得点を叩き出したことに喜ぶ小僧と、高得点に驚く茶髪坊主と黒髪幼女がそこにいた……ふむ。


 どうにも気になるのう。見させてもらうぞ、小僧…………なるほど、金髪ドリルの舌は方々で評価されておるようだな。


 小僧たちの世界における料理の格付けをする「ベルトランガイド」と呼ばれるそれの、隠れたアドバイザーとしての活動もしているそうだ。


 どうやら小僧は、こういった魚の塩焼きの審査を何度も挑戦していたらしく、これまでの最高点は94点。


 ちなみに95点以上は、ほんの一握りの料理店に与えられる称号である「三つ星」相当。


 つまり、今回のスプライトトラウトの塩焼きは、小僧たちの世界においてトップクラスの一品だと認められたに等しいとのこと。


 小僧があれだけ喜び、茶髪坊主と黒髪幼女が驚いていたのも納得である。


 しかし、そうなると「蟹味噌」の98点というのは、かなり凄まじいのではないか? 


 ともあれ、小僧たちは、ルーファニア湖のほとりで料理を楽しみながら歓談して……ゆっくりと夜が更けていく——


「……おかしいですよね?」


——はずだった。


 ゆったりとした時間を楽しんでいる中、ポンコツが突然、謎の主張を始めたのだ。


「私、精霊神。偉いです」


 小僧たち、うんうんと頷く。


「綺麗ですよね? 神秘的ですよね?」


 小僧たち、顔を見合わせる。


「な、なんでそこで変な感じになるんですか⁉︎ も、もう一度伺います……綺麗ですよね? ほら、この長くて艶々の青い髪も、ね?」


 小僧たち、うんうんと頷く。


「神秘的……ですよね?」


 小僧たち、首を傾げる。


「どうしてそこで首を傾げるんですか⁉︎ ほら、見てください、こんなに光るんですよ!」


 ポンコツ発光! 眩しいぞ、このバカタレ!


「そもそも! そもそもですよ⁉︎ あるじゃないですか、もうちょっとこう…………(あむあむあむ)厳かな雰囲気で私のことを根掘り葉掘り聞いてきたりとか…………(あむあむあむ)ごくりと唾を飲み込んで私の言葉に耳を傾けるとか…………(あむあむあむ)私と出会えたことへの驚きの反応はないのですか⁉︎ あ、お魚のおかわりお願いいたします。私、精霊神なんですよ? すんごーく偉いんですよ? なんかこう…………(あむあむあむ)不思議なこととか、チョチョイっと起こせたりもできるんですよ? こんな風に…………(あむあむあむ)初対面の方々から日常風景的な扱いされたの…………(あむあむあむ)生まれて初めてですよ⁉︎ あ、お魚もう1本いただけます?」


 どうやら「理想的な精霊神」を演じることをやめたのだろう、儂の知るいつものポンコツがそこにいた。


 こやつ、見てくれだけはいいのだがな……中身が残念極まるのだ。食い気が旺盛なところも含めて、なんにも変わっておらぬな、このポンコツは。いや、むしろ悪化しておるわ。


 話の合間にお魚さんを、あむあむあむあむと食いおってからに……食い意地の張ったポンコツよのう。


「それとですね——」


 ポンコツが小僧の元へ近づく、いや、違うな。


 よく見ておけ、小僧。何故こやつがポンコツなのかを、自らの言葉で以って説明してくれるぞ。


「——さっきからポンコツポンコツうるさいのよ、このクソジジイ! ホント昔っから私のことポンコツ扱いするんだから!」


——と、このような供述をしながら、小僧の近くに立てかけてある儂をバンバン叩き始める。やはりな……やりおったわ、このポンコツめ。


 くっくっく、見てみよ小僧、茶髪坊主どもが呆気に取られておるわ! くかかかかかかっ‼︎


「……()()()、いいの?」


 ま、よかろう。この三人、小僧に負けず劣らず愉快だからのう。それに、殊更まわりに言いふらすような者たちでもあるまい。


 儂の言葉に小僧が頷く。ポンコツに引き続き、小僧が儂に向かって何かをつぶやいた様子に、三人がますます困惑していくのがよくわかる。


「聞いてるの、クソジジ——」


「——やかましいわ、ポンコツ」


 ギロチンブーメランである儂から声が響いたことに、三人が驚いているのがよく見える。


 挨拶せねばならぬが、その前に——


「貴様、儂のことは秘密であることを忘れたのか? ん? どうなんだ、ポンコツ?」


「…………あっ⁉︎」


「だろうな。貴様のポンコツっぷりは、儂が眠っている間に増したようだな。まさか、この程度のことも忘れてしまうとは……実に嘆かわしい」


「ノアさん、これはどういう……?」


「喋る武器……インテリジェンスウェポンってやつか?」


「……渋くてカッコいい声」


「ほほう、黒髪幼女も儂の『激渋イケオジボイス』の虜になってしもうたか?」


「うん…………黒髪、幼女?」


「茶髪坊主に金髪ドリルも初めまして——」


 何事も最初が肝心。ここは、堂々たる名乗りをさせていだだこう。


「ギロチンブーメラン、もとい、断頭重剣の大精霊『セイヴァー』といったところか。気軽に気さくにフランクに、セイ爺と呼ぶがよい」


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