鉄板土下座、釣り上げる
「——私の仔を助けていただいたこと、とても感謝しております」
四人は招かれたのだ。
世界のカラクリを知る存在のもとへ。
その者は、原初の精霊にして「一柱」。
「初めまして、人の子たちよ。私は——」
それは、予定無き出会い——
❖
「……美味しい?」
「わんっ!」
「ジビエ特有の野趣な臭みはほとんどなく、僅かに残ったそれは香りという名の調味料。塩だけのシンプルな味付けにもかかわらず、これほどのクオリティ……94点」
「焼肉のタレと白飯ほしくなるわー」
「ホントそれな。あー、熊肉も食いたくなる」
可愛らしい同行者が増えた小僧たちは引き続き、『始精霊万緑杜 (ルーファニア・パル)』にて探索を続けて……三時間後。
昼食を兼ねた休憩がてら、探索の成果物を食すことを決めた。
まずは、ゴールド級の魔物『翡翠角鹿 (ジェイドホーン』。金髪ドリルお目当てのジビエの持ち主である。
輝き自体は控えめながらも、翡翠の名にふさわしい深く艶やかな緑の角に、一同が息を呑んでいた。特に娘っ子たち。
ただ、戦闘自体は非常に早く終了した、というよりも「瞬殺」というべきか。
小僧もさることながら、他の三人も生半可な実力者ではないことが窺える、そのような動きであった。
本当にこやつら、ルーキーなのかが疑わしいが……ま、バグ・チャイルドだから、ということにしておこう。
ともあれ、四人は「翡翠角鹿のヒレ肉」を手に入れ、先ほど食したわけだ。
当然だが、儂は小僧と味覚を共有しておるでな、しっかりと味合わせてもらったぞ……ふふっ、大変美味であった。
だが、まだ終わらない。
「お、キタキタキター‼︎」
「汁すげー‼︎ はぁ、美味すぎる……」
「うん……サクサクしてて美味しいね」
「トリュフともポルチーニとも違う。強いて言えば松茸……いいえ、それも違いますわね。このキノコ独自の香味、エリンギに近い食感……塩だけの味付けでよくぞここまで……93点」
それは「精霊茸 (スプライトマッシュルーム)」。茶髪坊主お目当てのキノコである。
小僧たちが言うに、見た目は完全に「舞茸」なるキノコだそうだ。小僧たちの世界でも中々人気が高い食材で、様々な料理に用いられるらしい。
ちなみに、小僧の場合、舞茸は「天ぷら」という料理が一番好きだそうだ、中々に興味深い。
なんにせよ、じっくりと焼きあげたそれの香りは実にかぐわしく、また味も良い。小僧たちが舌鼓を打つのも当然。儂も大好きである。
だが、黒髪幼女が契約した霧狼は精霊茸の匂いが苦手なようで、鹿肉をひたすら貪っていた。嗅覚に優れておる反面、強すぎる匂いが苦手のようじゃな。
ともあれ——黒髪幼女の「精霊リンゴ」、金髪ドリルの「翡翠角鹿のヒレ肉」、茶髪坊主の「精霊茸」——と、同好会メンバーお目当ての異世界グルメを堪能。
残るは、小僧の「海の幸」。つまりは魚介類。
そんなわけで、小僧たちは「ルーファニア湖」に向かい……やがて、到着した訳である。
❖
「おー、でっけー!」
「琵琶湖とはまた違うな……てか、海外っぽい」
「わたくしの印象としては、スイスのブラウ湖に近いかしら……木々の生え方や山の見え方、水の色彩などがとてもよく似てますわ」
「すごくキレイだね……」
「わふっ?」
ほのかに青と緑に染まる澄み渡った湖面と、遠くに見える山々との親和がもたらす雄大な景観に、小僧たちは感動していたようだ。
さて、陽が落ちるまで、あと二、三時間といったところ。都市部と違い、街灯のような光源が無いのが当たり前である以上、小僧たちには三つの選択肢が提示される。
一つ、ログアウト。
通称「夜キャン」。メイガスメイズに限らず、フルダイブVRゲーム全般で用いられている常套手段だそうだ。
現実で「1時間」待てば、こちらでは「12時間」経過している。つまり、夜をキャンセルできるということらしい。
二つ、帰還石。
使用することで、登録してあるいずれかの国の首都へと空間転移することを可能にする魔導具。
ただし、一日一回のみの限定使用であり、起動者本人のみが空間転移するのが注意点。
最後の三つ目、滞在。
そう、小僧たちの選択は「ルーファニア・パルに留まって朝を迎える」であった。
「おー! めっちゃ便利だ」
「夜キャンしないのも久々だな」
「うん、楽しみ……アッシュおいで」
「わふんっ!」
「せっかくの神ゲー、堪能しなければ勿体ないですもの。それはそれとして、このような便利な物まである辺り、ゲーム内開発自体はそこそこ進んでいるのかしら?」
小僧もそうだが、四人全員がクソマップで変則的な狩りを成功させていたこともあり、ゲーム開始三日やそこらのルーキーにしては、そこそこ懐は潤っている。
そのため、使えそうな物資などを揃えるべきだと、四人全員の見解が合致。
その結果が——
「『IR』って確か大手のクランだよな?」
「『IRON RUST (アイアンラスト)』、メイガスメイズ四大クランのひとつだな。こんなのまで自作するあたり、ゴリゴリの職人集団なんだろ」
四人と一匹の前に建つ「軽量型魔導コテージ」と呼ばれる魔導器。その仕組み自体はとてもわかりやすい。
魔力を注入することで、小僧たちの世界の「キャンプ場」と呼ばれる場所にありそうなログコテージが、自動的にくみあがるのである。
ただし、これ自体が最新式であることから中々の高値であり、その価格は「2,000万エン」。「蟹味噌」のオークション開始値、二個分。
それを、四人は折半して購入した。
そんなコテージを湖のほとりに設置、拠点とした小僧たちは、一夜を過ごすための食糧集めの一環として、湖での釣りを開始。
ただし、釣り人は小僧ひとりのみ。金髪ドリルと黒髪幼女は、コテージにて他のメニュー作りに取り掛かっている。
「ふわぁ……」とあくびをしながら釣り糸を垂らす小僧。一見やる気がなさそうだが——ヒットした瞬間、目にも留まらぬ早業で魚を釣り上げる。
なんでも小僧は、父親の影響でアウトドアは得意であり、その中でも、趣味の範疇に収まる程度には釣りが好きなようだ。
特に、マグロと呼ばれる魚の一本釣りがとても楽しいらしく、小僧は大好きらしい。
「この辺の目ぼしいのは、そいつが最後だな」
「オーケー。次の案内よろしくー」
同伴している茶髪坊主はというと——
「お、ここ、大きめのがいるな」
「んー……やっぱペンデュラム、便利だな」
「だろー? なんでこれが地雷武器なのか、いまいちわからん。そんなに難しくねえし」
二本のペンデュラムを駆使し、湖内の魔素の澱みを探査しては、きっちりと魚の位置を特定していく茶髪坊主。
それにしても何という習熟度よ、手足のように使いおる……なるほど、これがバグ・チャイルドの脳力というやつか。
「お、いい手応え!」
「でけえの来たか?」
どうやら、かなりの大物にヒットしたのか、小僧のテンションが上がっていく。
ここの大物というと、確か『精霊鰻 (スプライトイール)』が棲息しているはず。
奴らの全長は、大体「3メートル」ほど。
小僧たちの世界基準で語るなら、さしずめ「超巨大ウナギ」といったところか。
「ウナギ喰わせろオラァァァァ!」
「やったれノア!」
そして小僧は、ズパァァァァァンと見事な音を挙げながら釣り上げ……む?
まさか、こやつは——
「……わーお」
「これって人魚……か? それにしては——」
小僧が釣り上げたそれは、青い髪の美女。仕立ての良いワンピースドレスに素足という出で立ち。
濡れたまま地面に投げ出されたのだ、当然のことだが泥でぐちゃぐちゃ。
ぐったりと力無く伏せている……のだが、くっくっく……くかかかかかかかかかっ!
小僧め、この湖どころか、この大陸で五本の指に入る大物を釣り上げよった。
小僧と茶髪坊主が呆気に取られている中、霧狼が嬉しそうに吠えながら小僧たちの元に駆けてくる。
同時に、その跡を追うように、金髪ドリルと黒髪幼女もその姿を現した。おそらく、霧狼が興奮したのだと思われる。
ま、当然だ……会いたかった者の匂いが突如現れたのであれば、興奮するのも致し方あるまい。
小僧たちの視線に気付いた青髪美女が「はっ⁉︎」と反応し、何事もなかったかのようにスッと立ち上がって「蒼く」光り輝き、汚れを落とす。
そして、渾身のすまし顔を披露するのだが最早遅すぎた……小僧たちの瞳には、憐憫の類のそれが宿っていたのだから。
「——私の仔を助けていただいたこと、とても感謝しております」
四人は招かれたのだ。
世界のカラクリを知る存在のもとへ。
その者は、原初の精霊にして「一柱」。
「初めまして、人の子たちよ。私は——」
それは、予定無き出会い——
「——始精霊ルーファニアと申します」
青髪美女が威厳を保とうと、ひ、必死に体裁を取り繕って……くかかかかかっ!
はぁはぁ……そう、この青髪美女こそが、原初の精霊にして、最上位存在の「一柱」。
「精霊神」である、一応な。
それにしても、相も変わらずの「ポンコツ」ぶりに、涙を禁じえぬな……くっくっく。




