『聖騎士』、笑う
お嬢ちゃんの言葉によって、会議室が静まる。
その空気の変わり方が意に沿わないのだろう、性格ブスがその性格の悪さを知らしめるように眉をひそめ、気色悪い生き物が怪訝そうな表情を浮かべる。
「……どういう意味かしら、シオ」
「……ギロチンブーメランの仕様を逆手にとって、乗り物として成立させているだけですから。この不審者にとって、これがメイガスメイズにおける正解の走りなのかなって、そう見えます」
「正解の走り、ね……ふんっ!」
性格ブスが突然、鼻を鳴らした……唐突に豚の真似など一体なんのつもりだ、この性格ブスめ!
真似された豚の気持ち、察するに余りある……このような性格ブスに真似されるとは、ただただ悲しきことだからな。
豚よ……おぬしらに代わり、この性格ブスに必ずやお灸を据えるゆえ、しばしの刻、堪えてはくれまいか。
「どんな理屈があろうと、私たちの開拓を汚した事実は変わらないわ……『ジーク』、次はどうするの?
この気色悪い生き物、『ジーク』というらしい。
まったく、世界中のジークを名乗る者たちの風評被害にしかならぬのだ、とっとと改名しやがれ!
むっ! 何故、急に顎に手を添えて目を閉じるのだ……つくづく気色悪い生き物だ。
なるほど、どうやらこの気色悪い生き物、思考を巡らせているようだ。
ちっ、仕方ない——ジークにとって、ゲームとは自分のような有能な者に統治されるべきデータだ。それ故に、意に沿わぬイレギュラーは排除するか、管理下に置くかの二択しかない——だそうだ。
何を勘違いしておるのだ、この愚か者は。
かつて、王家の血を僅かに引いているという建前のみで王座を明け渡せと反乱を起こしたバカ貴族を思い出させる。
本当に気色悪い生き物よ、反吐が出てきよる。
「リベンジは今週末。土曜の夜、ゴールデンタイムに合わせて全クランメンバーに招集をかける」
「今週末? 随分と急ね。準備は間に合うの?」
「問題ない……それに今回は『十機天将』を全員、このマンダイに呼び戻す」
気色悪い生き物が放ったその言葉によって、会議室の空気が一変した。
どうやら、セラフィムなる者たちがこの組織において特別である、そういうことなのだろう。
お嬢ちゃん、失礼……ふむ、なるほどな。
総勢10名の機天将と呼ばれる者たちのことを、セラフィムと呼ぶそうだ。お嬢ちゃんもその一人のようだな。
普段は、機天将それぞれが、別エリアの開拓や広報活動に割り振られているらしい。
そんな者たちを一箇所に集め、単なるボス攻略ではなく、総力戦をしかける。それが、気色悪い生き物の発言、その意であるようだ。
「えーっ、『ソロモン』さんも呼んじゃうのー? ちょっと大げさすぎない?」
眠たげで億劫な雰囲気の娘っ子が目を丸くしておるわ。
なるほど、ソロモンなる者が動くという事実は、シルヴァン・エギルというクランにとって決して軽いことではないようだ。
ま、その理由、儂は既に知っておる。お嬢ちゃんの頭の中を覗いておるからの。
メイガスメイズ四大クラン「シルヴァン・エギル」にて最強と謳われし存在であり、在籍する四名のバグ・チャイルド、そのひとり。
それがソロモン。『第一機天将』だそうだ。
「過剰な戦力投入こそが、最も確実な広報戦略だ。イシュタル、君は『ブラスト・タレット』を率いて広域の封鎖を頼む。ヴェールは外縁の索敵。そして、シオ……ストーム・ブレイカーの先頭に立ち、ギガ・バラストの核を貫け」
「……了解しました」
気色悪い生き物の偉そうな物言いに、お嬢ちゃんは短く返した。
その脳裏には、セラフィムの招集についてのことを浮かべているのだろうな。
気色悪い生き物は暗に宣言したのだ……「今週末、シルヴァン・エギルの前に鉄板土下座が現れた場合、クランの総力を以て、全力で排除する」、と。
そんなことを聞かされたお嬢ちゃんが、気を取られたとしても、それは仕方がないこと……む?
「ミューズ、君は全機天将のバフ管理と、戦闘中のライブ配信の演出を頼む……我々の完全勝利を、世界に見せつけるんだ」
「はいはい、了解ですよぉ。とびきり荘厳なレクイエムを奏でてあげましょうねぇ」
吟遊詩人が軽やかにギターの弦を弾く。
そして、シルヴァン・エギルの定例会議は、具体的な布陣の調整へと移っていった、といったところなのだろうが……儂の今の興味はそこにはない。
お嬢ちゃんは、モニターに映る小僧の残像を見つめ、なんとも言えぬ感情を抱いているようだ……くっくっくっ——
(ログイン初日に、ゲーム内最大手クランに喧嘩を売るルーキーとか……ホントにもう——)
お嬢ちゃんからしてみれば「週末の夜、兄と一緒にメイガスメイズを楽しむつもりだったのだが、蓋を開けてみればこの有様」といったところ。
そして、後悔の念に襲われて……てっきり、そのような心持ちかと思っていたのだが——くっくっくっ……くかかかかかっ!
なるほどなるほど……あの兄にして、この妹ありといったところか。
(——やっと……『愉しくなってきた』)
まさか、この儂ですら完璧に『欺いてみせる』とはな……面白い……実に面白いぞ——小娘!
お嬢ちゃん、改め——小娘は、顔を伏せ、小僧を彷彿させる心底愉しそうな『笑顔』を、儂を除いた誰にも知られずに浮かべていたのだ。




