聖騎士、何を思う?
さて、メイガスメイズ民が言う「捨て武器」とは、簡単に言うなら「下位互換」である。
例えば「攻撃力10の剣」と「攻撃力20の剣」。前者は不要となるため「捨て武器」と見做される。単純な理屈なだけに、RPGというジャンルにおいては基本にして基礎的なプレイングであり、「必須」の考え方である。
だからこそ、メイガスメイズ『制作陣』の熱意の凄まじさが窺えるというもの。
『上位互換のように思えても、欠点と呼べる何かが一つや二つ、必ず存在する』
『下位互換に見做されていても、長所と呼べる何かが必ず存在する』
さながら、それは『現実世界』のようで。
武器、防具、各種アイテム類。それらを含めた「メイガスメイズ」内の全ての物には、きちんと『個性』が備わっており、細部にわたって個性的な特徴を有している。
それもまた「神ゲー」と謳われる所以である。
(うん、それは間違いない。武器も防具も、色んなアイテムも使い魔も……そういう細かいところに全然手抜きしてないから、本当に異世界にいるみたいなの……だから、私はメイガスメイズが好きなの——)
例えば、『クラウ・ソラス』という魔導直剣。
その刀身はレーザー状で軽く、とても良く斬れることに加え、刀身を伸ばすことで最大射程が「約3km」となる、プレイヤーから大人気の「オリジン」である。
さて、そのとんでもない性能に驚くだろうが、その代わりと言わんばかりに、この魔導器、非常に燃費が悪い。
その理由は、クラウ・ソラスの「刀身延長」機能は、魔力を「割合」で消費しなければ使用できないからである。
魔導器は、一定の魔力を少しずつ流入して起動する「固定消費型」と、クラウ・ソラスのように一定の割合の魔力を一括で要求してくる「割合消費型」に分かれる。
クラウ・ソラスの場合、射程を「100m」以上、伸ばそうものなら、たったの「5秒」で、プレイヤーの魔力は空になる短期決戦向きの魔導器であり、長期戦には不向きである訳だ。
ちなみに、「シルヴァン・エギル」若手のエースである、あの「聖騎士」が愛用する剣でもある。もちろん「レプリカ」だ。
(そうだね……クラウ・ソラス・レプリカ。私の愛剣……じゃじゃ馬なのは確かだけど、いざって時には助かってるの——)
では、クラウ・ソラスのような「割合消費型」の魔導器を戦術に組み込む場合、魔力不足をどのようにして補うか。定番の方法はふたつ。
「魔力補給ポーションがぶ飲み」か、「サブ武器」を所有しておくかである。
もちろん、その時の状況に応じて両方を使いわける者も多い。
件の「聖騎士」の場合、サブ武器として、店売りされているなんの変哲もない「ただの鉄の剣」を『魂の保管庫 (インベントリ)』に数本、必ず常備している。当然のように「強化」してある状態で。
(実際、便利なんだよね……下手に高いのに手を出すくらいなら、自分好みに改造した店売りの量産品で十分戦えるから——)
メイガスメイズに限らず、RPGというジャンルにおいて「アイテム強化」は、ゲーマーの心をくすぐる非常に大切なコンテンツ。
その例に漏れることなく、メイガスメイズというRPGにおいても、「アイテム強化」は重要視されているコンテンツである。
メイガスメイズはファンタジー世界を舞台としたRPGであり、自由度の高さも魅力のひとつ。
そんなメイガスメイズの自由の中には、アイテムの強化も含まれており、オリジンもレプリカもその対象。また、アイテム強化において忘れてはならない重要な仕様がある。
非可逆性、つまり、ありとあらゆる装備が、一度強化すれば元には戻せない。
「ニーゼルレーゲン・レプリカ」も「クラウ・ソラス」も「ただの鉄の剣」も、非可逆性に関しては同じ条件であり、そこに例外は存在しない。
だが、そこに例外が存在しないからこそ、強化の方向性による独自性が生まれ、全てのものの価値が多様化していく。
そして、もうひとつ、看過してはならない純然たる事実が存在する。
「ただの鉄の剣」や「レプリカ」は再入手が容易に可能であり、事実上、「強化による自由なカスタマイズを何度も実行可能である」こと。
そう、最下級の迷宮からドロップする「ニーゼルレーゲン・レプリカ」という名の魔導直剣が、今なおメイガスメイズ廃人たちに支持されているのは、他のレプリカよりも比較的容易に手に入るから。
等級の差を覆す「下剋上」が、どんなプレイヤーでも可能な仕様こそが「薪の正体」。
メイガスメイズプレイヤーたちのゲーマー魂を激しく燃やしてくれる「レプリカという名の薪」である。
『ぼくのかんがえた さいきょうの魔導器作り』
それが、メイガスメイズの楽しみのひとつであり、メイガスメイズ民がのめり込む理由である。
(うんうん、わかる! 職人さんたちとあれこれ相談しながらカスタマイズするのが楽しいの!)
メイガスラビリンスという名の迷宮が産むオリジン、レプリカ共に、代替困難もしくは代替不可な代物が多く、ダンジョンの等級が低くとも稀有な性能を有するそれらがドロップ。その後、さまざまなカスタム品が世に出回ることに繋がる、この「流れ」もまた、神ゲーたる所以。
つまり、メイガスメイズというRPGの本質は、表面的な数字の多寡ではなく、そこに宿している力をどのように活かすか、どのように引き出すかを「創意工夫」することにある。
開拓者たちの狂熱を絶やさぬための「レプリカという名の薪」の存在は、開拓者たちを狂熱へと突き動かす。
無限に供給されるレプリカという名の薪を、独自の強化という名の火の中に投げ込み、「自分だけの唯一の器」を錬成する。
その「創意工夫」の熱量こそが、メイガスメイズという神ゲーの本質であった――本来は。
新規もベテランも、ライト層も廃人勢も。
全てのプレイヤーが、現実と見紛う異世界を謳歌できる人類最高の遊び場。
それが、メイガスメイズだったことを嫌になるほど理解しているからこそ、詩織は——
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会議室のメインモニターには、昨夜の『魔導ゴーレム:ギガ・バラスト』戦のログがリプレイ再生されていた。
シルヴァン・エギルが誇る千を超える精鋭たちが幾重にも陣形を組み、戦意を滾らせては一つの塊となって、「全てを貫く槍」となる。
その目標はもちろん「ギガ・バラスト」。
「白銀の巨槍」と「黄金の巨拳」が対峙する中、エギル自慢の魔導楽器隊の演奏によるバフと防壁が展開。
そして、指揮官たる『彼』の采配によって、一糸乱れぬ「大いなる反撃」が行われる。
そのドラマティックな演出は「ファンタジー世界における英雄譚の一幕だ」と、彼や彼を支持する者たちは酔いしれていた。
「FDVRスポーツの頂点にふさわしい芸術的な光景だ」と高揚しながら、まもなく与えられる喝采と賛美の声に心から期待していた。
そう、そこまでは順調だった。
画面の端から「鉄板土下座」が——否。
「儂ら」が乱入した瞬間、こやつらが待ち望んでいた「金の匂いしかせぬくだらぬ未来の全て」がものの見事に崩壊した。
そう、会議室では、こやつらの魂胆を儂らがぶち壊した瞬間を切り取るように、何度も何度も、その光景を映し出していたのだ。




