聖騎士、思索している
では、彼らがそこまでして渇望する、メイガスラビリンスから得られる『利益』の正体とは何であろうか。その内訳は「三種」。
第一に挙げられるのは「未開の領域を拓き、未踏のメイガスラビリンスへの道を開いた」という不朽の名声である。
高難易度の魔物領域を制したという事実は、ゲーム内における絶対的な勲章となり、次なる迷宮への挑戦権を最速で得ること自体が絶大な宣伝効果を伴う。
第二には、それぞれのダンジョンにのみ生息する魔物『固有種』がもたらす、希少な戦利品。
もっとも、戦利品だけであれば、メイガスラビリンスと対をなす自然発生型ダンジョン『ネスト』、通称「巣穴」においても獲得の機会は存在している。
それゆえに、これは「ダンジョン」そのものが内包している普遍的な対価であり、「迷宮」と「巣穴」どちらもその対象である。
さて、実のところ、第三の『それ』が肝要。
ゲーム内最大手のクランがなりふり構わず求める『それ』。つまり、メイガスラビリンスのみが産み落とす『絶対的な利益』の正体。
その答えは、この世界に二つとして存在せぬ、唯一無二の代物たち。
その名は『オリジン』。古代文明が遺した魔導器群、その総称である。
『その輝きは、あまりに眩く——』
オリジンが出土されるのは、各地に存在するメイガスラビリンスのみで、同じ物は絶対に存在しない。オリジンそれぞれが、世界にただひとつだけ存在する、完全な一点物。
(私が入団した頃のエギルは、今の半分くらいの人数で……大手ではあったけど、そこまで躍起にはなってなくて……でも、最初にオリジンを手に入れた時から変わってしまった——)
そんな事情も相まって、時と場合によっては、血で血を洗う熾烈な争奪戦を招いてしまう。ゆえに、その渇きを癒やす施策を運営は投じた。
世界に唯一たる尊き遺物「オリジン」を模して造られた魔導器『レプリカ』の実装。
「オリジン」と「レプリカ」。この「古代の魔導器たち」こそが、プレイヤーの「金策」にも『切り札』にもなり得る、メイガスラビリンス最大の利益である。
(でも、半年くらい前から変わって……運営の課金煽りが酷くなって、治安も悪くなって——)
メイガスメイズにおいて「いずれかのオリジン」が誰かの手に渡れば、全土にその獲得を告げる福音、もとい[システムメッセージ]が鳴り響くように届けられる。
例えば[ダンジョンAより、開拓者Aさんが、オリジン『〇〇』を入手しました]といった具合。
そして、その熱狂が冷めやらぬ一週間以内に、模造品である「〇〇・レプリカ」が実装されるという流れが、メイガスメイズの日常であると同時に、現実世界と仮想世界が最も近づく瞬間。
何故ならば、「レプリカ」の入手方法のひとつが、「リアルマネー」を用いた「課金コンテンツ」、いわゆる「課金専用ガチャ」だから。
つまり「レプリカ」とは、メイガスメイズ運営にとって「金の卵」であり、それはプレイヤーたちにとっても同様だということ。
「レプリカ」の入手方法は以下のふたつ。
まず、ひとつ目。
「1回100円、11連1000円」の課金専用ガチャから「0.0025%」で排出されるようになる。ちなみに、ゲーム内に設置してある「ガチャ」の説明欄に「UR」と表記されていたことで、「オリジン=UR」と認知されている。
残る、ふたつ目。
ダンジョン最奥で待つ「ダンジョンボス」、次の階層への道を守る「エリアボス」、ダンジョンを不規則に徘徊する「ワンダリングボス」。このいずれかのボス級魔物討伐後の戦利品に、レアドロップ枠(0.001%)が追加される。
これが「レプリカ」の基本的な入手方法である。
(そう、基本的には、ね……でも実際は、基本的じゃないやり方が横行してる。オリジン狩りにレプリカ狩り、そんな狩りを主導する『GG』のプレイヤーキラーがどんどん過激になっていって……新規の人たちが少しずつ減ってるのに、運営は動こうとしない——)
さて、尊き遺物たるオリジンと写し身たるレプリカとの性能差は、「初期状態」において一律「1.5倍」であり、レプリカは、本物の三分の二程度の出力しか持ち合わせていない。
そうであるにもかかわらず、「課金専用ガチャ」という集金装置の核に、性能の劣る「レプリカ」を据える「理由」とは何か。
それは、「レプリカ」という名の劣化品であっても、開拓者たちの魂に燻る欲望を激しく煽り立てる、最良の「薪」となるから。
その好例として、『ニーゼルレーゲン・レプリカ』という名の魔導直剣が挙げられる。
「最序盤」、もしくは「チュートリアル」、すなわち「初心者向け」といって差し支えない、そんなメイガスラビリンスがある。
ウッド級迷宮『湖畔の洞穴』。
ニーゼルレーゲンは、この迷宮のダンジョンボス『単眼小鬼 (ミニ・サイクロプス)』討伐の際にドロップしたオリジンである。
(だから、初心者狩りまで起こってる……エギルの中で、私とおんなじように考えてる人たちと一緒に見回りとかしてるけど……私たちだけじゃ、手が回るわけない——)
ところがこの剣、初期装備に毛が生えた程度の低性能。だが、この剣には、「好例」と呼ぶに足る、ある特殊な[力]が宿っている。
固有スキル[霧化]である。
[熱以外のあらゆる干渉を拒絶する]という初心者への慈悲と目されたその固有スキルはまさに「破格」であり、メイガスメイズのサービス開始から「1年」近く経った今でも「戦術の核」として、廃人たちが手放さぬ牙となっている。
(まだ何も知らない初心者に、[霧化]状態で襲いかかって、怖がらせて……あんな最低な使われ方、見たくないのに——)
『魂は写し身に再現し、器のみが削ぎ落とされる』
オリジンが放つ唯一無二の能力は、そのままレプリカという名の写し身へと継承される。削ぎ落とされたのは目に見える性能のみ。
その「特別性」を有している魂は、複製された模造品の中にも脈動しているのだ。
ちなみに、「ニーゼルレーゲン」とは、ドイツ語で「霧雨」を意味する。その命名の由来が開発陣の諧謔か、あるいは単なる気まぐれかは知る由もないが、この魔導直剣が愛される理由は、単なる語感の妙に留まらない。
特筆すべきは、写し身たる「ニーゼルレーゲン・レプリカ」が有する「供給の安定性」。
「レプリカ」は、「課金専用ガチャ」か、メイガスラビリンス内のボス討伐時のレアドロップ、そのどちらかで入手可能。
そして、カーム・ケイヴは、最低等級のウッド級。踏破もボス討伐も容易なこの迷宮は、開拓者たちの隙間時間の金策として人気が高く、需要と供給のバランスが非常に整っている。
それこそ、「ニーゼルレーゲン・レプリカ」は今なお「平均価格:2,000万エン」という高値で取引され、市場の熱源であり続けている。
(その金額設定も怪しいけどね……)
また、多少の差はあれど、メイガスメイズに存在する「すべてのレプリカ」が同じように高値で取引されている。もちろん、カーム・ケイヴと同じような他のウッド級迷宮産のレプリカを含んでの話である。
迷宮の難易度の低さは、レプリカの入手のしやすさとなり、敷居の低い金策となり、プレイヤーの装備の質向上に繋がっていく。
そのことを理解しているメイガスメイズ民が「メイガスメイズの良いところは何?」と問われれば、ほぼ全ての者がこのように答える。
「メイガスメイズに捨て武器無し」、と。
「ただし、地雷武器はあるから気をつけて」と続くのがお約束である。
(その地雷武器の中でも、トップクラスに地雷扱いされてるギロチンブーメランを選ぶなんて……ホント、お兄ちゃんらしい——)
だが、それらはあくまでも「武器種」の仕様自体に欠陥がありすぎるが故の放置。運営へのヘイトが高まる一因である。




