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聖騎士、会議に出席する

「東にアルヴェイラ、西にル・ラジス、南にナルカド、北にリーティア。これ即ち、ゼスラーミアの四つの巨星なり——」


 これは、ゼスラーミアにて名の知れた歌、その始まりの一節……わかりやすい始まりであろ?


 そして、南のナルカドとは、簡単に言ってしまえばスタート地点である……小僧たちのような開拓者にとっても、かつて魔物の楽園と呼ばれたゼスラーミアにおいてもな。


 そう、ここは「始まりの地」なのだ——



「気の強い美女は好きだが、気難しい女は嫌い」という考え方は、果たして世界共通なのか否か。

 中々に考察しがいのある題材ではあるが、ひとまずは、ことの顛末を見守るべきであろう。

 む、なんのことかわからないだと?

 では、ともに見学していこうではないか。


 シルヴァン・エギルとやらの会議をな。


 場所は、ナルカド商国首都マンダイにあるクランハウスの最上階の会議室である。


「昨日の醜態、きちんと説明してもらおうかしら……シオ、まずは貴女からよ——」


 燃えるような真紅の長髪をなびかせる美女が、氷の刃を突き立てるような冷たい声を放っていく。

 切れ長な赤い瞳、その鋭い眼光は、円卓の向かいに座る詩織、もとい、お嬢ちゃんを射貫いただけでは収まらないようだ。

 気難しそうな美女の視線は、メインモニターに映し出されている「とある記録」に注がれていた。

 それは昨日(さくじつ)、『黄金遺骸の大平原 (エル・ドラド・ステップ)』で失敗に終わった『守護者』との戦い、その配信映像のようだ。


 その映像は、お嬢ちゃんにとっても、あまり気分がよろしくない記録であるはずだが——


(——まったく、お兄ちゃんったら……)


 どうやら、当の本人にそこまでの怒りはないようだな……呆れはあるようだが。

 む……儂が何故、お嬢ちゃんの考えてることがわかるのか、疑問か?


 端的にいえば「応用」である。


 そもそも、ギロチンブーメランに宿っていたはずの儂が、現実世界で小僧と意思疎通できること自体、おかしなこととは思わぬかね?


 そう、その答えが「応用」である。とはいえ、そこまで大したことではないのだが。

 そうだな……とてもわかりやすい表現をするならば『小僧にわずかでも関係のある者であれば感染するウィルス』とでも思っておけばよい。効果は……視界や思考の一方的な共有といったところか。


 無論、害をなす気など毛頭ないがな。


(はあ……カリカリしてる「イシュタル」さんは長いし……『スイッチ』しようかな——)


 それは、加速した脳を抱えた者たちが「低速な現実世界」で生きるための必須技術であり、大切な機能——『OSスイッチング』だそうだ。


 ()()はな。


 だが、お嬢ちゃんのような『バグ・チャイルド』からすれば、「N.N.I」で構築された場所もまた「低速な現実世界」と大して変わりはなく、ほとんど差異のない場所でしかないということなのだろうな。


(イシュタルさんへの相槌は『シオ』に任せて、『わたし』は……少し考えようかな——)


 そして、適切な『仮面』を付け替えるように、お嬢ちゃん自身は「永瀬 詩織」となり、赤髪の美女「イシュタル」の対応を『シオ』に任せて、思索に耽っていく——その過程を、儂は目撃させていただいた。


 くっくっ……くかかかっ! 流石は、あの小僧の妹君よ……「健気な少女」という印象は誤りではないが、どうやら正しくもないようだ。


 すまぬな、お嬢ちゃんの思考をさらに深く覗かせていただく……くれぐれも内緒にしておくので、安心しておくれ——



「黄金郷の残滓たる『黄金遺骸の大平原エル・ドラド・ステップ』は、我らが踏破してみせる」


 エル・ドラド・ステップという最前線を攻略する、その意を、クラン公式配信で大々的に伝えてから現実世界にて「1ヶ月後」——仮想世界内において「1年後」——の、つい昨日、シルヴァン・エギルは「そこ」へと到達した。

 彼らが辿り着いた「そこ」とは、魔物領域の頂に君臨する主、否、『守護者(レイドボス)』との戦いの場。

『魔導ゴーレム:ギガ・バラスト』討伐。それこそが「現在のシルヴァン・エギル、第一目標である」と高らかに謳っている。


(——でも、実際は違う……)


 彼らの真の目的は、討伐という荘厳な儀式の先に「顕現するもの」に有る。


『魔域を切り拓き、封じられた門扉を開放する』


 全域に散りばめられたギミック全てを解き明かし、その他の条件も併せて整えることで領域を拓き、レイドボスとの戦場を出現させて討伐し、隠されし遺跡への道、封じられし門扉を開く。

 それは、メイガスメイズという世界において、幾度となく繰り返されてきた『理』、コンテンツ追加の流れ。


『メイガス()()()()()』の開放。


 主を討って魔の領域を拓き、その深奥に眠る遺跡型ダンジョン「メイガスラビリンス」——「迷宮」の通称で呼ばれるそれを現世へと引きずり出す者たちを、人々は『開拓者』、プレイヤーと呼称した。


 メイガスメイズという名の箱庭は、開拓者という名の歯車が回しているのだ。


(違う……私が好きなメイガスメイズは、ただそれだけのRPGなんかじゃない!)


 さて、彼らシルヴァン・エギルが対外的に掲げた大義名分は、「荘厳なる一瞬を記録するためのロケーション撮影」という優雅な語り草である。

 事実、その「撮影」のために、彼らはクランメンバーの三割に相当する約千名の軍勢を、ゲーム内時間にて「1年間」、エル・ドラド・ステップへ動員し続けていた。


 だが、それは「虚飾」。


 観る者が見惚れてしまいそうな華麗な振る舞い、その裏側に潜む「真の企図」は、メイガスラビリンスの占有。すなわち「狩場の独占」という排他的な敵性行動に他ならない。


 メイガスメイズのシステムに、ダンジョンを私有化する機能など存在しない。しかし、それは裏を返せば、法による守護が存在しないことを意味し、いわば「無主の地」。


 そして、その「状況」を利用する輩がいる。


 それは、オンラインRPGの黎明期といえる「非VR時代」の頃から何も変わっていない「伝統的害悪」であり、他者からの非難を集める行為。


『入り口や内部に圧倒的な人員を配し、物理的に他者を排斥する実効支配』


 シルヴァン・エギルという最大手攻略クランが、一部のプレイヤーから毛嫌いされている理由が「これ」である。


(それも違う……一部じゃない。私みたいに、エギルの中にもたくさんいる……他にもたくさんいるの!)


 なにせ「メイガスメイズ運営」は、一部の大手コミュニティが魔物領域やダンジョンを寡占しているような「流れ」を見て見ぬふり。

 その結果として生まれたのは、一部の大手コミュニティに属すか属さないか、その選択をプレイヤーに強いる二極構造。属す者は富み、属していない者だけが不利益を被る図式が、目に見えて出来上がってしまった。


 それが、「()()」メイガスメイズである。

 

 そして、メイガスメイズにおける「富」、その『象徴』が眠るメイガスラビリンスという名の迷宮の独占こそが、彼らを次なる最前線へと突き動かす渇望の源泉であり原動力、何よりそれ自体が『とっておきの切り札』となる。


 最大手攻略クランが、表では華麗な振る舞いを見せておきながら、裏ではなりふり構わず牙を突き立てている。


 それだけのことをさせる『利益』が、メイガスラビリンスには眠っているのだ。

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