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鉄板土下座、神ゲー(笑)を語る

この作品はフィクションです

実在の人物や団体などとは関係ありません

 今から「40年」ほど前。

 競合他社との熾烈なシェア争いによって経常利益が落ち込んでいた『エレメンタル社』は、起死回生の一手として、「ケルピーランド」、「ケルピーシー」に続く、第三の聖域となる新たなテーマパークの建設を発表。


 そして、「2055年」。


 社運という名のチップを賭けた一大プロジェクト「ケルピースカイ」、開業の日を迎える。

「陸も海も空も、キミたちのそばにいるよ」というキャッチコピーと共に、超大型複合レジャー施設『ケルピーワールド』へとその名を改め、壮大な再出発を果たした。

 そして、今この瞬間も「世界一のテーマパーク」として、不動の地位に在る——とのこと。


 そんなケルピーワールドとほぼ同等の敷地面積たる「約4平方キロメートル」もの広大な場所に建てられた立派な学び舎が、あさぎ研究学園都市に鎮座しておるのだ。


 次世代を担う人材育成に特化していると謳われる教育機関。運営の舵を取るのは、古より続く日本有数の名家であり、「エレメンタル社」の筆頭スポンサー。


  その名は、『九条院家』。


 その当主自らが学院長を務め、幼稚園から大学院までをノンストップで駆け抜けることができる「幼小中高大院」一貫の、超巨大マンモス校。


 学校法人『九曜学院』。


 小僧やお嬢ちゃんが幼少の頃より籍を置き続けている学び舎だそうだ……何故、儂がこんなにも詳しいのか、気になるかの?

 簡単なことよ……公式ホームページとやらに事細かく書いてあった、ただそれだけのこと。


 幼小中高大院、その全ての新一年生はもれなく、ケルピーワールドに遊びに行くのが、毎年恒例の行事。二泊三日だそうだ。



 2076/06/04(木) 16:19 九曜学院 旧部室棟


 九曜学院の一角佇む、古びた部室棟。

 その角部屋の扉に掛けられた木製プレートに、素人目にも尋常ならざる達筆であると理解できるほど力強く、そして、優雅な筆致で書かれていたのは、小僧も所属している『同好会』の名。

 その部屋は、小僧やお嬢ちゃんの家の内装とも、先ほどまで小僧が学んでいた教室などの内装とも異なる、妙に古めかしい様子であった。


 だが、それは「仮の姿」。


 実は、部屋の奥に鎮座する無機質な棚の裏側には、物理的かつ隠密に、しかも、大した労力を費やすことなく階層移動を可能にする、秘匿されし科学技術が存在していたのだ。

 小僧曰く、「エレベーター」と呼ぶらしい……電気を用いた機械科学も、中々面白いものよな。

 巧妙に隠されていたエレベーターの先で待っていたのは、地上の部屋とよく似た、しかし、明らかに異なる空間。


 差異が何かを語るなら、それは「熱」だ。


 地上の部屋からも感じてはいたのだが、地下のこの空間に満ち満ちているのは、執着にも似た強いこだわりだ。

 正直なところ、何が何だかわからぬものばかり……困惑している儂に気付いたのだろう。


 小僧がこっそりと、脳内にて解説していく。


 壁一面を埋め尽くすのは、実物の木材を使用した書棚。そこに整然と並ぶカセット式の非VRゲームソフト。

 部屋の隅では、巨大なサーバーラックの横に佇む真空管アンプが淡いオレンジ色の光を放ち、「2070年代」の超高音質音源をあえてアナログなノイズと共に響かせている。

 中央には、使い込まれた本革のソファに、重厚なマホガニーのテーブル。そこには最新のホログラム端末と、一世紀以上前の意匠を再現したティーセット。


 地上階の偽装部室が可愛く見えるほどの、このレトロな空間は、例の「花凛」というお嬢さんのこだわりが詰まっておるそうだ……なるほど、中々面白そうな娘のようだな。


「お、ようやく来たか……『鉄板土下座』」


「鉄板土下座」と気軽に呼ぶその茶髪頭の少年は、小僧とは、十年来の付き合いの悪友。


 名は『猿渡(さるわたり) 勇太(ゆうた)』。


 小僧と同じ高校二年。クラスは違うようだ。

 その気安い態度に、小僧がまったく反応しないあたり、気心がかなり知れておるのだろうな。

 ただ、儂が気になるのは、小僧に目もくれぬ茶髪坊主が、何やら指を激しく細かく動かしていること。


 小僧の記憶によると、茶髪坊主は、半世紀ほど前の遊戯盤のような……む……なるほど、これは「ゲーム機」と呼ぶのが正しいのか。


 茶髪坊主は、このゲーム機なるもので、『赤き爆炎 (アームドレッド) ガンフレイム』という作品を遊んでいるようだ……ほう、なるほどな。


 この作品、どうやら長い歴史があるようだ。


 小僧によると——「大阪」に本社を置く、老舗ゲームメーカー『撃鉄』の作品だそうだ。

 ゲーマーたちから愛され続ける長い歴史の中、金字塔と称せるほどの功績を挙げた名作が「赤き爆炎 (アームドレッド) ガンフレイム」シリーズ。

 通常プレイであれば難易度はそこそこ、縛りプレイになると地獄すら生ぬるい難易度になることで一部界隈に有名なタイトルであり、第一作目から半世紀経った今でも、新作やスピンオフ作品が発売されている、長年ファンから愛されている作品であるとのこと。

 そんな名作の記念すべき第一作目であるそれを、公式推奨の極限設定による「RTA (リアルタイムアタック)」と呼ばれる競技のようなものを、茶髪坊主は研究しているらしい。


 ちなみに、現在の世界記録二位が茶髪坊主、三位に小僧とのこと……なるほど、ただの茶髪坊主ではないようだな。


「やっぱ、スレ見てやがるよな……ったく、あれはただの最適解だっての——」


 小僧が肩をすくめて歩を進めると、奥のダイブ・シート——最新の「N.N.I」ではなく、端子接続 (プラグイン)を『独自』強化した「D.D.D」改修機——から、一人の美しい金髪少女が、優雅に立ち上がり、小僧のもとへ。


 その少女の容姿は非常に整っており、並大抵の男なら、ついつい目を奪われてしまうだろう。

 特に目を見張るのが、その髪型。

 腰まで伸ばされた、これほど立派な「巻き髪縦ロール」、中々見れるものではない。

 数多の王侯貴族と肩を並べてきたこの儂が断言しよう——「甲乙つけ難し」、と……ほほう、そのように呼ばれておるのか。


「ドリルヘアー」……しかと覚えておこう。


「詩織さんにせがまれて始めたかと思えば、一晩で運営の顔を泥まみれにするなんて。乃亜さんさんらしいですわね」

「花凛さんも見たのか……」


 そう、この金髪ドリルヘアー少女こそ、例の「花凛」である。例によって例の如く、小僧の記憶からの参照だ。

 

 名は、『九条院 花凛(かりん)』。


 九曜学院高等部三年。日本有数の名家である「九条院家」の一員にして、九曜学院理事長の「娘」。そして、『レトロゲーム同好会』を創設した張本人であり、初代会長である。


「あら、偶然視界に入っただけですわ。わたくしたちレトロゲーム同好会が、万人向けタイトルに興味がないのはご存知でしょう?」

「……ホントは?」

「勇太さんから送りつけられた動画、存分に笑わせていただきましたわ! オーホッホッホッ!」


 実に素晴らしい……ともすれば傲慢とも受け取られかねぬ高笑いを、嫌味を感じさせることもなく、普段使いできるほどまでに、声帯をこうも巧みに操るとはな。


 並々ならぬ素養と気品の高さを窺わせる見事な振る舞い……この国有数の名家の生まれというのも納得である。

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