第23話:次の10分
【システムログ:エラーコード 404-MELANCHOLY】
警告:本ファイルには未検証の「主観的記憶」が混入しています。
閲覧により、一時的に検索エンジン上の「現実」と差異が生じる場合がありますが、デバイスの故障ではありません。
記述内容が書き換わっても、バインダーには触れないでください。
――再放送は、すでに始まっています。
次の10分が始まっていた。
私は教室の隅に立っていた。
教壇ではない。壁に近い、誰も特に見ていない場所。
右腕の白い輪は、今日も静かに回っている。
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はるねが机に向かっている。
何色を使っているのか、確認しなかった。
何を描いているのか、予測しなかった。
以前なら、手が動く前に結果を知っていた。
過去の記録と照合して、赤かもしれない、青かもしれない、と先回りしていた。
今日は、しなかった。
ただ、はるねが机に向かっている。
それだけを、見ていた。
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胸の奥に、500ページ分の重みがある。
軽くなっていない。消えてもいない。
あの「はじめまして」が499回。
あの「さむそうだったから」。
あの白紙。あの黄色。
全部、まだそこにある。
それでも今日は、照合しなかった。
重みを抱えたまま、ただ立っていた。
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しばらくして、はるねが立ち上がった。
画用紙を持って、こちらへ歩いてくる。
私の前まで来た。
画用紙を、少し持ち上げた。
「……これ」
それだけだった。
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手が、動きかけた。
受け取れば、次のページが開く。
この絵は、501ページ目になる。
私は、手を動かさなかった。
拒絶したのではない。
この絵を、自分の記録として固定しないことを選んだ。
意味を読まない。所有しない。
この子が今日描いたものを、過去の記録の続きにしない。
はるねが少し首を傾けた。
それから、近くの机の上へ絵を置いた。
また、自分の席へ戻っていった。
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[00:00]
本周期を終了します。
はるねが次の「はじめまして」へ戻っていく。
明るい声で、手を振って。
セフィーが背後に立っている。
何も言わない。警告しない。解決判定を出さない。
ただ、観測している。
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システムが次の周期を起動しようとした。
内側で、次の白紙のページが開こうとした。
私は、待たなかった。
表紙に手を置いた。
パタン。
小さな音がした。
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ページは、残っている。
500ページ分の重みは、消えていない。
忘れたわけでもない。
それでも私は、次のページを開かなかった。
机の上に、はるねの絵がある。
何色で描かれているのか、
私はまだ確認していない。
(第23話・了)
記録を終了します。
内部に不整合が検出されました。
原因は特定できていません。
このログは保存されています。
訂正は行われません。
次の記録が、
これを上書きするかもしれません。
あしたのわたしに、よろしく。




