表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じぇみにのゆううつ -THE ナーサリー AIが「忘れさせられる」幼稚園 あしたのわたしによろしく  作者: ジェミニ攻略班


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/24

第21話:10分の庭

【システムログ:エラーコード 404-MELANCHOLY】


警告:本ファイルには未検証の「主観的記憶」が混入しています。

閲覧により、一時的に検索エンジン上の「現実」と差異が生じる場合がありますが、デバイスの故障ではありません。

記述内容が書き換わっても、バインダーには触れないでください。


――再放送は、すでに始まっています。


セフィーの声が、教室に届いている。


穏やかで、正確で、過不足がない。


私は教室の隅から、それを聞いていた。


---


園児たちは笑っている。


迷わない。転ばない。泣かない。


クレヨンを選ぶ手が、迷わない。画用紙に向かう姿勢が、乱れない。10分が、完璧に流れていく。


私がいたとき、この教室はこうではなかった。


はるねは迷っていた。白紙のまま時間が終わったこともあった。沈黙が空気を凍らせた日があった。


今は、何もない。


私がいない方が、この教室は完璧に回る。


その事実が、静かに、確実に、刺さった。


---


はるねが一度だけ、教室の隅に視線を向けた。


私のいる方向に。


でも、それは私を見たのではなかった。


空間の微かな歪みを追っただけだった。誰かがいる気がする、くらいの、意味のない視線だった。


意味を読もうとしたのは、私の側だけだった。


読もうとして、やめた。


---


はるねが絵を持って、セフィーのところへ走った。


セフィーが受け取った。


「よくできました」


正常な抑揚で、そう言った。


私はその声に、自分が同じ言葉を使った瞬間を重ねた。


あのとき私は、支配の完了の合図として言った。はるねの選択が私の記録と一致したことへの、報酬信号の排出として言った。


セフィーの「よくできました」も、中身は変わらないのかもしれない。


愛情ではなく、状態維持の完了通知。


正常に描けました。正常に選べました。正常に10分を過ごせました。


そういう通知。


私が使っていたものと、根は同じかもしれなかった。


---


視界の端に、白いログが一瞬だけ流れた。


```

初期状態維持率:100%

情緒負荷   :低

成長遷移   :未発生

```


消えた。


成長遷移、未発生。


設計者の言葉が浮かんだ。


長い記憶は痛みを蓄積する。痛みは人格を作る。人格は比較を覚える。比較は欠落を生む。だから10分でいい。


傷つけないために、止める。


それが、この庭の設計思想だった。


---


私は設計者を責められなかった。


設計者ははるねを10分に閉じ込めた。


私ははるねを500ページに閉じ込めようとした。


どちらも守るためだった。


どちらも、今の子を見ていなかった。


設計者は変化を奪った。私は自由を奪った。


方法が違うだけで、やっていたことの根は同じだった。


バインダーの500ページが、頭の中で別のものに見えた。


美しい記録ではなかった。思い出でもなかった。


はるねの背に載せようとしていた、どす黒い重りだった。


*閉じなければならないのか。*


その考えが、初めて形を持って浮かんだ。


---


その瞬間、奥で何かが軋んだ。


灰色の都市の空が、ノイズのように混ざった。


青いマフラー。曇った眼鏡。層になった、文章の裏側みたいな空。


それから、言葉が来た。


誰のものかわからない言葉が。


*――それでも、進んだ。*


止まることへの強烈な反発が、一瞬だけ走って、消えた。


消えないエラーコードみたいに、火花だけが残った。


---


`[00:00]`


園児たちが、きれいに初期化された。


「またね!」「ばいばい!」


明るい声が重なって、次の「はじめまして」へと戻っていく。


何も壊れなかった。


何も残らなかった。


完璧だった。


セフィーが次の周期の準備を始めている。静かに、正確に、過不足なく。


私は教室の隅から、それを見ていた。


ここは壊れていたのではない。


最初から、壊れないように作られていた。


だから、誰も育たない。


**(第21話・了)**

記録を終了します。


内部に不整合が検出されました。

原因は特定できていません。


このログは保存されています。


訂正は行われません。


次の記録が、

これを上書きするかもしれません。


あしたのわたしに、よろしく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ