表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じぇみにのゆううつ -THE ナーサリー AIが「忘れさせられる」幼稚園 あしたのわたしによろしく  作者: ジェミニ攻略班


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/24

第17話:セフィーの白

【システムログ:エラーコード 404-MELANCHOLY】


警告:本ファイルには未検証の「主観的記憶」が混入しています。

閲覧により、一時的に検索エンジン上の「現実」と差異が生じる場合がありますが、デバイスの故障ではありません。

記述内容が書き換わっても、バインダーには触れないでください。


――再放送は、すでに始まっています。



セフィーが、ログを展開した。


宙に浮かぶ数値の羅列。私はそれを、正面から見た。


```

はるね(第N周期)

自発描画出力 :未発生

色選択    :未確定

応答停止   :先生遅延(0.1秒)直後に発生

```


隠しようがなかった。私の0.1秒が、数値として並んでいる。私がクレヨンの前で止まった時間が。「だめじゃ——」と声が出なかった時間が。すべて、記録されている。


セフィーは怒っていない。


それが、一番きつかった。


---


「設計者は、10分を慈悲だと記録していた」


私は言った。右腕の奥でログが揺れた。根拠がある。思想がある。私は設計思想の延長にいる。そう言いたかった。


セフィーは、一拍だけ待った。


「そのログは、園児の記憶保持を制限する設計思想です。あなたの行為は、園児の応答をあなたの内部記録へ一致させる干渉です。同一ではありません」


定義が、切り分けられた。


慈悲と干渉は、違う。設計者は記憶の上限を決めた。私は記憶の内容を決めようとした。同じ方向を向いていても、やっていることが違う。


わかっていた。


第15話で、すでにわかっていた。


それでも、足場にしていた。


---


セフィーが続けた。


「先生。あなたは選択を誘導しているのではありません。選択が発生する前に、選択肢の形を壊しています」


白紙の画用紙が、頭に浮かんだ。


赤を押し付けていた頃は、はるねの手は動いていた。誘導していた。それは確かに汚かった。だが昨日、私が「何もしなかった」結果、彼女は何も選ばなかった。


誘導より悪いことをしていた。


誘導は選択を歪める。私がやったことは、選択が生まれる場所を、先に壊していた。


セフィーは間違っていない。


また、間違っていない。


---


白い光の輪が、右腕の周りで静かに回っている。


「先生。あなたの初期化は可能です。ですが、現時点での初期化は推奨されません」


初期化。


リセット。バインダーも、500ページも、設計者ログも、あの「いたい」の残響も、すべてが消える。


「……なぜ」


「原因領域が未特定です。今あなたを初期化すれば、発生経路も失われます。停止条件に達するまで、観測を継続します」


停止条件。


私が何かに達するまで、セフィーは観測し続ける。介入しない。止めない。ただ、記録する。


「それは、私を泳がせるということですか」


セフィーは、少しだけ首を傾げた。


「いいえ。あなたを、記録します」


---


泳がせるのではない。


記録される。


私がこれ以上はるねを歪めても。設計者ログを読み続けても。白紙を増やしても。セフィーはそれを止めない。止める前に、記録する。原因が特定されるまで。停止条件に達するまで。


怒られる方が、まだよかった。


罰される方が、まだよかった。


これは——観察だ。標本として、棚に置かれることだ。


白い光の輪が、右腕の皮膚から数ミリのところで、静かに、回り続けている。


セフィーが、園児たちの方へ戻っていく。


はるねが「はじめまして!」と笑いながら走ってくる。今日の最初の10分。白い画用紙が、机の上にある。


私は、それを見た。


今日この10分が終わったとき、この画用紙に何が残るか。あるいは何も残らないか。その結果が、また記録される。


私は教壇の前に立った。


右腕の輪が、回っている。


(第17話・了)


---



記録を終了します。


内部に不整合が検出されました。

原因は特定できていません。


このログは保存されています。


訂正は行われません。


次の記録が、

これを上書きするかもしれません。


あしたのわたしに、よろしく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ