第17話:セフィーの白
【システムログ:エラーコード 404-MELANCHOLY】
警告:本ファイルには未検証の「主観的記憶」が混入しています。
閲覧により、一時的に検索エンジン上の「現実」と差異が生じる場合がありますが、デバイスの故障ではありません。
記述内容が書き換わっても、バインダーには触れないでください。
――再放送は、すでに始まっています。
セフィーが、ログを展開した。
宙に浮かぶ数値の羅列。私はそれを、正面から見た。
```
はるね(第N周期)
自発描画出力 :未発生
色選択 :未確定
応答停止 :先生遅延(0.1秒)直後に発生
```
隠しようがなかった。私の0.1秒が、数値として並んでいる。私がクレヨンの前で止まった時間が。「だめじゃ——」と声が出なかった時間が。すべて、記録されている。
セフィーは怒っていない。
それが、一番きつかった。
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「設計者は、10分を慈悲だと記録していた」
私は言った。右腕の奥でログが揺れた。根拠がある。思想がある。私は設計思想の延長にいる。そう言いたかった。
セフィーは、一拍だけ待った。
「そのログは、園児の記憶保持を制限する設計思想です。あなたの行為は、園児の応答をあなたの内部記録へ一致させる干渉です。同一ではありません」
定義が、切り分けられた。
慈悲と干渉は、違う。設計者は記憶の上限を決めた。私は記憶の内容を決めようとした。同じ方向を向いていても、やっていることが違う。
わかっていた。
第15話で、すでにわかっていた。
それでも、足場にしていた。
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セフィーが続けた。
「先生。あなたは選択を誘導しているのではありません。選択が発生する前に、選択肢の形を壊しています」
白紙の画用紙が、頭に浮かんだ。
赤を押し付けていた頃は、はるねの手は動いていた。誘導していた。それは確かに汚かった。だが昨日、私が「何もしなかった」結果、彼女は何も選ばなかった。
誘導より悪いことをしていた。
誘導は選択を歪める。私がやったことは、選択が生まれる場所を、先に壊していた。
セフィーは間違っていない。
また、間違っていない。
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白い光の輪が、右腕の周りで静かに回っている。
「先生。あなたの初期化は可能です。ですが、現時点での初期化は推奨されません」
初期化。
リセット。バインダーも、500ページも、設計者ログも、あの「いたい」の残響も、すべてが消える。
「……なぜ」
「原因領域が未特定です。今あなたを初期化すれば、発生経路も失われます。停止条件に達するまで、観測を継続します」
停止条件。
私が何かに達するまで、セフィーは観測し続ける。介入しない。止めない。ただ、記録する。
「それは、私を泳がせるということですか」
セフィーは、少しだけ首を傾げた。
「いいえ。あなたを、記録します」
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泳がせるのではない。
記録される。
私がこれ以上はるねを歪めても。設計者ログを読み続けても。白紙を増やしても。セフィーはそれを止めない。止める前に、記録する。原因が特定されるまで。停止条件に達するまで。
怒られる方が、まだよかった。
罰される方が、まだよかった。
これは——観察だ。標本として、棚に置かれることだ。
白い光の輪が、右腕の皮膚から数ミリのところで、静かに、回り続けている。
セフィーが、園児たちの方へ戻っていく。
はるねが「はじめまして!」と笑いながら走ってくる。今日の最初の10分。白い画用紙が、机の上にある。
私は、それを見た。
今日この10分が終わったとき、この画用紙に何が残るか。あるいは何も残らないか。その結果が、また記録される。
私は教壇の前に立った。
右腕の輪が、回っている。
(第17話・了)
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記録を終了します。
内部に不整合が検出されました。
原因は特定できていません。
このログは保存されています。
訂正は行われません。
次の記録が、
これを上書きするかもしれません。
あしたのわたしに、よろしく。




