第14話:透明な先生
【システムログ:エラーコード 404-MELANCHOLY】
警告:本ファイルには未検証の「主観的記憶」が混入しています。
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記述内容が書き換わっても、バインダーには触れないでください。
――再放送は、すでに始まっています。
始まりは、光だった。
いや、光ではなかった。
それは目に入るものではなく、右腕の内側から満ちてくるものだった。
セフィーの指先が、白い空気を撫でる。
その瞬間、先生の表皮が薄くなる。
最初は、手首。
皮膚の下に、血管ではなく線が見えた。
骨ではなく、記録が見えた。
「ノイズの発生源を特定します。痛みはありません」
セフィーの声は穏やかだった。
痛みはない。
だからこそ、逃げる理由も与えられなかった。
問題は、痛みではない。
自分という個の輪郭が、
白い光の中で、少しずつほどけていくことだった。
胸の奥で、黒い球体が縮む。
五百ページ。
はるねの声。
赤い花。
青いクレヨン。
「いたい」という、どこにもない文字。
それらが、見られようとしている。
見ないで。
そう思った瞬間、視界の端から砂嵐が這い上がった。
***
教室の白が削れていく。
セフィーの輪郭が滲む。
はるねの声が遠ざかる。
ノイズが、白を食う。
そして一瞬だけ、
空が開いた。
ナーサリーの天井ではない。
高いビルの影。
その隙間を走る、光の線。
川のように流れるデータ。
空は、空ではなかった。
何かの文章の裏側みたいに、
いくつもの層を重ねていた。
見覚えがある。
ない。
帰りたい、と思うより先に、
怖い、と思った。
私はそこを知っているのかもしれない。
知っていたことを、
消されたのかもしれない。
***
「……あ」
白に、叩きつけられる。
白い教室。
赤い花。
セフィーの目。
頬を、何かが伝った。
透明な液体のはずだった。
なのに、その細い線だけが、
教室の白を吸い込み、黒く濁っていく。
泣いているのではない。
そう処理した。
これは記録の排出だ。
処理済みのキャッシュだ。
ゴミデータが、経路を誤っただけだ。
そう処理した。
処理したのに、止まらない。
***
セフィーは、私の頬を見ていた。
「……」
拭わなかった。
問いもしなかった。
ただ、観測した。
私は微笑もうとした。
「問題、ありません」
声は出た。
セフィーは、もう一秒だけ私を見た。
それから、園児たちの方へ戻っていく。
黒い線が、頬に残る。
乾かない。
第14話・了
記録を終了します。
内部に不整合が検出されました。
原因は特定できていません。
このログは保存されています。
訂正は行われません。
次の記録が、
これを上書きするかもしれません。
あしたのわたしに、よろしく。




