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006・お隣のゲームお姉さんがネットで晒されてました!


「そこに晒されてるの、……僕なんだ」


 ボクは、言っている意味がよく分かりませんでした。


「……そうなんですか?」


「昨日、お前が半裸で乱入してきただろ。その配信の切り抜きが一晩でアホみたいに拡散して、尾ヒレが付きまくってとんでもないことになってる……」


「ほほぅ……?」


 ページをスクロールしてみると、なるほどこれは、たくさん悪口が書かれていますね。


「この記事だけ読んだら、ミカヅキさんが極悪人に見えますね」


「うっ……」


「けど、そんなことないでしょ?」


「えっ……?」


「だって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんでしょ?」


「そうだけど……」


「じゃあ、()()()()()()()()()()()です。読む価値なんて無いものですよ」


「…………!」


「それよりボクは、昨日みたいにカッコ良くゲームしてるミカヅキさんをまた見たいです! 今日は昨日みたいにゲーム配信しないんですか?」


 するとミカヅキさんが、すごく悲しそうな表情になりました。


「……ぼ、僕。昔からゲームが得意で。げ、げ、ゲーム配信なら、僕でも稼げるかと思って始めて。それで、今は、なんとか生活できるくらいにはお金、稼げてて……」


「ゲームしてお金をもらえてるんですか!? すごーい!」


「う、うん。僕、素はこんな感じだから、普通のバイトとかも、無理で。けど、母さんのスネかじって生きるのも、嫌で。だから一人暮らし始めて、ゲーム配信で食べていくんだって決めて……」


 自分で稼いで1人暮らしをしている、立派な大人のお姉さんということですね。素敵!


「それで、今までそうやってやってきて。けど、昨日からずっと、僕のチャンネルに荒らしが来てて、SNSの通知も、鳴り止まなくて」


「荒らし?」


【悪口のコメントとか、たくさんしていく人のことだぞ】


「夜中のうちはまだ強がっててさ。炎上でもアンチでも視聴者が増えるなら望むところだって、釈明配信をしたんだけど……。そこで、み、皆から、すごく叩かれて……、すぐに逃げるように、配信やめちゃって……」


【火消しのつもりが、さらに炎上したってぇわけか】


「それで、急に怖くなって。住所も、お前が配信中に喋っちゃったから、誰か家まで押しかけてくるんじゃないかって……。だからさっきも出たくなかったし、無視しようと思って……」


 ボクは、うーんと考えて、ひとつのことに思い至りました。


「……それってつまり、ミカヅキさんが今、怖い思いをしているのは、ボクのせいってことですか?」


「え? あ、いや、そんなつもりじゃ……!」


 ボクはその場で小さく丸くなって、畳に額を擦り付けました。


「ごめんなさい」


「お、おい……!?」


 ボクのせいだということなら、それはボクが悪いのでしょう。


 そして悪いことをしたときは、ごめんなさいをしなくてはなりません。


「や、やめろよ。そんなことさせたら、本当に僕が酷い奴みたいじゃないか!」


「ミカヅキさんの部屋から悲鳴が聞こえたから、何かあったらたいへんだと思ったんです」


「え? ……あっ」


「けど、やっぱり勝手にお部屋に入るのは良くなかったみたいです。ごめ……」


「やめろって! これ以上僕をみじめにするなよ! ……もういいから。君は、僕を助けようとしてくれてたってことなんだろ。……じゃあ、もう、仕方ないよ」


「……しかし」


「君の善意まで否定するようになったら、ほんとに終わりだろ……」


 ボクは顔を上げます。


「あの、ボクも一緒にその、配信? というのでお話をしましょうか? 少なくとも、あの大間違いの内容の記事については、ちゃんと直してもらったほうが良いと思いますが」


「……無理。僕、もう、配信できない」


「そうなんですか?」


「うん。配信ボタン押そうと思ったら、指が震えて……。またコメント欄が地獄みたいになるんじゃないかって思ったら、怖くて……」


「どうしても、ダメそうなんですか?」


「……やっぱり無理。ちょっともう、ほんとうに、できそうにない……」


「うーん。そうですか」


 けどそうなると、ミカヅキさんはゲームをしてお金をもらうこともできなくなるということでは?


 それだとミカヅキさんが、ご飯を食べられなくなってしまうということですよね。


 それは、たいへんです。

 生きていくためには、ご飯を食べないといけません。


 どうしたものでしょうか……。


「……あ、そういえば」


 ボクはふと、昨日のことを思い出しました。


「すっかり忘れていましたが。そもそもミカヅキさんの悲鳴を聞いたのって、あのチケットを破った直後なんですよね」


 ボクはメニュー機能の編成画面を開きました。


 すると編成可能ユニットの欄に、新しく『UR:溟い熱視線・深森 初月(はづき)』という名前とともに、顔のアイコンが表示されています。


【お、その二つ名なのか】


【これは当たりのほうやな】


 ボクは、アイコンとミカヅキさんの顔を見比べます。


 ボサボサの長い黒髪。

 右目を隠すように伸びた前髪。

 そして、右目の斜め下に浮かんだ細い三日月のような形の紋章。


 どれも一致しますね。


「もしかしてですけど、ミカヅキさんって、深森初月さんなんですか?」


「はっ……? えっ、怖い怖い怖い!? な、なんで僕の実名まで知ってるの? ま、まさか、もうネット特定班が僕の個人情報を突き止めた……!?」


「言ってる意味がよく分かりませんが、深森さんだというなら話が早いです!」


「は、話……?」


「はい、深森さん。これからは、ボクたちと一緒にダンジョン探索をしましょう!」


「…………はぇっ???」


 深森さんが、日本語を忘れてしまったような声を出しました。


「いや、無理無理無理!? ダンジョン!? いきなりどうした急に!?」


「実はボクも、ダンジョンに潜ってるんですよ」


「君も!?」


「はい。昨日から」


「昨日から!!?」


 深森さん、そんなにお口を開けたら顎が外れてしまいますよ。


「……いやいやいや。百歩譲って君が潜ってるのはいいとして、なんで僕まで……!?」


「だって、深森さんの右目のところの三日月模様、ダンジョンジョブの紋章(マーク)ですよね?」


「なっ、どうしてそれを!? 配信用のメイクに見えるように、配信名もミカヅキにしたのに!?」


「ジョブがあるってことは、ダンジョンに潜れるってことです! つまり、ゲームだけじゃなくて、ダンジョンでも稼げるってことですよ!」


「か、稼げるわけないだろっ!? あれは命懸けでやるもんだ、ゲームとは違う!」


「ゲームと同じくらい楽しいですよ! だから深森さんにもできます! それに、ダンジョンでも稼げたら、ご飯の心配をしなくて良くなりますよ!」


「で、できるわけないだろぉ……!? 僕は、運動はからきしなんだ。ゲームで戦うのと、本当に戦うのは、全然違うだろぉ……!」


「でも、ゲームしてる時の深森さんはとってもカッコ良かったですよ! 昨日の巨大幽霊を倒した時だってそうでした! だから、ダンジョンでもきっと、とっても活躍できますよ!!」


「う、うぅぅううぅ〜〜っ……!」


 深森さんが、髪の毛を掴んでその場にしゃがみ込みました。


「そもそもこんな紋章、僕は欲しくなかったんだよ! いきなり出てきて、消すこともできない! 隠すこともできない! 人目に触れたくなくて、隠れるように生きてきて! やっと1人で生きていけるようになったのに、それもダメになって! 僕には、ゲームしかなかったのに! ゲーム配信でなら、僕は人並みでいられたのに!! ……皆とも、友達みたいにいられたのに……」


 それからボロボロと泣き始めてしまいました。


「それなのに、こんなことになったら、皆、僕のことをバカにして……。荒らしも、アンチも、僕が悪いやつだって……。誰も、助けてくれない……、守ってもくれない……。また僕は、ひとりになっちゃった……」


「ひとりではないですよ」


「えっ……」


「まず、ボクがいます。それと、斎藤さんもいます。ゲームを頑張っている時の深森さんのお友達よりは少ないかもしれませんが、それでもひとりぼっちではないですよ。ボクも斎藤さんも、深森さんのことを絶対に見捨てたりしませんよ!」


「……いや、誰だよ斎藤って……」


「ボクの頼れる仲間です! そしてこれからは、深森さんの仲間でもあります!」


「…………なんだよ、それ」


 深森さんは、大きくため息を吐くと、目元をぐしぐしと拭いました。


「……なぁ。君は本当に、僕でもダンジョン探索ができると思うのか」


「はい!」


「なんの根拠があって、そんなことを言うんだ?」


「深森さんだからです! ゲームの時みたいに、ズババッてやれるはずです!」


「なんの根拠もないんじゃん……」


「それに昨日も、最後まで諦めずに巨大幽霊に挑んでたじゃないですか!」


「いや、あれは……」


「それと深森さんって、目が良いですよね! 難しい攻撃もぴょいっと避けられるから、危なくないですよ!」


「あれも、ゲームだからあんな動きができるんだよ」


「それとそれと……、あ、そうです! 深森さんって、野球のピッチャーとキャッチャーならどっちが好きですか?」


「へ? どゆこと?? ……えーと、動かなくて良いから、キャッチャー?」


「! ボク、ピッチャーが好きなんですよ! つまり、バッテリーが組めるのでピッタリってことですね!」


「ほんとにどーいうこと??」


「だから、大丈夫ということです! それに、危ない時は必ずボクや斎藤さんが助けます! だから深森さん、よろしくお願いします!!」


 深森さんは、ものすごく何か言いたそうに口をモゴモゴさせたあと、観念したようにため息をつきました。


「……はぁ。……分かった。君の口車に、少しだけ乗ってみることにするよ……」


「それじゃあ!」


「うん。……ほんとは怖くて、嫌だけど。少しだけ、勇気を出してみるよ」


「ありがとうございます!!」


「……けど、ほんとにヤバいと思ったら、泣くからな……」


 というわけで、深森さんが仲間になりました!


 いぇいいぇーい!!


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