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005・突撃隣の配信中です!


 斎藤さんとは反対側の隣の部屋から、突然女性の悲鳴が聞こえてきました。


「あんぎゃああああああああああああああああっ!?」


 な、なんですかこのシメられてるニワトリのような悲鳴は!?


「なんだ、隣か?」


「やめてぇぇぇえええええええええっ!?」


 また聞こえました!


「たいへんです斎藤さん! これは、きんきゅー事態かもしれません!」


「え? あ、ああ」


「ボク、ちょっと行ってきます!」


「は? おい、待て!?」


 斎藤さんの声を聞きながら、ボクはぴょいんっと部屋を飛び出し、すぐ隣のお部屋の前に。


 僅かに開いたままの玄関。

 まさか、怖い人が中に乗り込んできているのでは!?


「こんばんは! 大丈夫ですか!」


 ボクは大きな声であいさつをしながら室内に入ります。


 すると、六畳一間のはずのお部屋の中に、さらに小さく区切られたスペースがあるのが見えました。


 そして、そのスペースの、僅かに開いたままになっているドアの奥から、ドカ、ドカ、バキという音と「ひぃぃいいいいいっ!!」というさらなる悲鳴が!


「どうかしましたか!」


 ボクは、バッとドアを開き、スペースの中に声を掛けます。


 すると、


「はぁあああああああっ!? 今のは絶対当たっただろぉ!? ズルだ! インチキ判定……、あ゛あ゛ああああああぁ!? そんなの有りかよぉ!?」


 スペースの中には、テーブルをバンバン叩きながら大きな画面でゲームをプレイしてる黒髪のお姉さんがいました。


 ……ゲーム?


「おいおいおいおい! お前だけ避けて僕だけ殴られるとかないんだが! ちょっ、待っ、あっ!? 一撃9割持ってくビーム!? ふっざけんなよぉぉおおお!?」


 画面の中で、大きな剣を持ったキャラと、杖を持った巨大幽霊みたいな敵が戦っています。


 あ、また吹き飛ばされた。


「があああぁぁあああああっ!? クソがっ! もっかいだ! 絶対倒してやる!」


「お姉さん、これは何のゲームですか?」


「ああ!? プラムソフトのダークソードだよ! ちょっと静かにしてて!」


 再び巨大幽霊に挑み始めるお姉さん。


 お、さっきよりは安定して攻撃できてますね。


「このっ、このっ、このこのっ……!」


「あっ」


「っ!」


 さっきのレーザーが来る、と思ったと同時にお姉さんのキャラも横跳びローリング回避。


 直後、一撃9割ビームが画面全体を薙ぎ払いましたが、無傷です!


「すごい、避けた!」


「ははーん! あんなミエミエの攻撃食らうのなんて初見だけだろ!」


「すごいすごい! 一転攻勢です!」


「これで決めてやるー!」


 ボクも応援しながらゲーム画面を見つめます。


 ハラハラします、ドキドキします!


 そういえばこの部屋、大きい画面のほかに、ポテチの袋や細長いジュースの缶、少し小さい別の画面なんかもあります。


 そして小さい画面では、同じゲーム画面とお姉さんの顔をアップで映した画面、「ミカヅキチャンネル」という文字と、てろてろてろ〜と縦に流れる文字の枠がありますね。


〈ミカヅキちゃん、また頭に血が登ってる〉

〈助かる〉

〈温まり助かる〉

〈まだ肌寒い日もあるもんね〉

〈けど、相変わらず反射神経良いわ〉

〈ね。さっきのたぶん、見てから避けたよね〉


 これは?


【ニコチューブのゲーム実況配信のコメントだなもし。同接250人。つまり、今現在ネット回線の向こうで250人くらいが、ミカヅキ氏のプレイを同時に見てるんだなもし】


 250人!?

 すごい、ボクの学年と同じくらいです!


 そうこうしていると、コメントの流れが加速しました。


〈お、行けるか〉

〈行ける行ける〉

〈油断するなよ〉

〈そのまま押し切れ!〉

〈今度こそ勝てー!〉

〈やれー!〉

〈がんばえ〜〉

〈ねぇ、なんか、絶対さっきから誰かいない?〉


 大きな画面を見直すと、巨大幽霊のHPが残り僅かになっていました。


 そして最後の悪あがきとばかりに大技を連発してきており、お姉さんのキャラが必死に回避しています。


「ほっ、はっ、よっ……!」


「頑張れ、頑張れ!」


「これで……、おしまいだぁ!」


 最後にブンと斬りつけ、パリーンと巨大幽霊が消滅していきます。


「やったぁ!」


 いやぁ、熱い戦いでしたね……!


〈おつミカ〜〉

〈ナイスムーン〉

〈まだまだ先は長いけどね〜〉


「ははははは! ざまぁないねコンチクショー! ま、僕のプレイスキルにかかればチョロいもんですよ」


〈また調子に乗ってる〉

〈どうせすぐにまた泣き言言うくせに〉


「良いだろー! 勝った時ぐらい調子に乗っても!」


〈いつでもすぐに調子乗る定期〉

〈まぁ、そこがオモローなんだけど〉

〈ねぇってば。それよりその部屋、誰か入ってきてない? 知り合い?〉

〈確かに。男の声っぽい?〉

〈えっ、まさか幽霊……?〉

〈は? マジ?〉

〈こわ……〉

〈幽霊退治したから化けて出てきた?〉


「うん? 皆どした? 声ってなんの話?」


〈ミカヅキちゃん気づいてない?〉

〈マジ幽霊?〉

〈いや、思い返したらなんか会話してたぞ〉

〈そうそう。絶対誰かいるんだって〉


「は? んなわけないじゃん。僕の後ろになんて誰も……、…………???」


 椅子ごとくるっと振り返った黒髪のお姉さんと目が合いました。


 ボクは、ポカンとした様子のお姉さんにあらためて拍手を送りました。


「お姉さん、ナイスゲームでした!」


【ユメヒコ氏。そういうときはGG(グッドゲーム)なんだな】


「ジージー!」


「いや、お前誰だよ!!? しかも、はっ!? は、はだかぁっ!!?」


「えっ? いえ、パンツはちゃんと履いてますよ」


「パンイチでもおかしいだろぉ!!?」


〈ほんとに誰かいる!〉

〈ヤバい、事件!?〉

〈いや、なんか子どもっぽいぞ〉

〈子ども?〉

〈ミカヅキカメラの奥にちょっと写ってる。しかもたぶん、男の子〉

〈男の子ぉ!? ミカヅキに、男!?〉

〈ウッソだろ、お前だけは私たちを置いていかないと信じてたのに!!〉


「いやほんと、なんなんだお前!?」


「ボクはユメヒコです! ところでお姉さん、その、コメントってやつがすごい早さで流れてますけど、ちゃんと見なくてもいいんですか?」


「へ……?」


〈ほんとに男の子だ! しかも、け、けっこう可愛いぞ!?〉

〈声も可愛いんじゃないか!? え、天使系男子……?〉

〈いやこれ、だいぶ子どもじゃない?〉

〈年齢、大丈夫なやつ?〉

〈どういうことなのミカヅキ!?〉

〈待て、この子、服着てなくないか!?〉

〈えっ……、ホンマや!〉

〈ヤバ……〉


「わっ、わっ、わわっ……!? ヤバい……!!」


〈ヤバいとか言ってる! 自覚あるんじゃん!!〉

〈見損なったぞミカヅキ!〉

〈というかそんなの写してたらマジでBANされない?〉

〈ホントだよ!? 配信、配信切れミカヅキ!〉

〈アカウント完全凍結されるぞ!!〉


「わーー! わーー!! 変な勘違いするなよお前ら! この子は、その……、いや、ほんとに何なんだよお前ぇ!?」


「すみません、お姉さんの悲鳴が聞こえたので、きんきゅー事態かと思って勝手に入っちゃいました。けど、ボクは、この〇□△アパートの隣の部屋に住んでる者なので、安心してください!」


「いや、住所ぉ!? 今まさにリアタイ配信してるんだが!!?」


〈〇□△アパートって言った?〉

〈えっ、リアルアドレス?〉

〈こらアカン〉

〈大 事 故 回〉


「うわーーーっ!? わああーーーっっ!!! 今日はもうおしまい! おしまい!! じゃーな!!」


 手元のキーボードをカタカタタンッと押して配信画面を消したお姉さん。


 それから再びくるりこちらを向き直り、


「出てけーーーっっ!!!」


 と、部屋を追い出されてしまいました。ぴえん。


「おっ、出てきた。中、どうだった?」


 あ、斎藤さん。


「なんか、ゲームして遊んでたのを邪魔してしまったみたいで、怒らせちゃいました」


「ゲームぅ? なんだ、そんなことだったのか。つーかお前、そもそも知らん奴の家に勝手に入るなよな」


「それは、そうなんですが……」


「ま、たかがゲームだってんなら、大丈夫なんだろ。戻ろうぜ」


「……うーん」


 なんか、コメントっていうやつがいっぱい流れてたんですけど。


 あれは、大丈夫なやつだったのでしょうか……?




 ▶︎▶︎▶︎


 翌日。日曜日。


 昨日のことが気になったボクは、近所のコンビニで買った炭酸ジュースと苺大福を手土産にして、隣のお姉さん宅の呼び鈴を鳴らしました。


 ピンポーーン。


 ……しかし、出てきません。


 もしかして、あの後さらに徹夜でゲームをして、疲れ過ぎて倒れているのではないでしょうか。


 少し心配になったボクは、1秒間に17連射の速度で呼び鈴を連打しました。


 ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポーーンッ!!


「ゲームのお姉さーん! おはようございまーす!」


 ドンドンドンドン!


「朝ですよー! ゲームのお姉さーん!」


 ピンポンピンポーン!


「起きましょー!」


 ドンドンドンドン!


 3分ほどピンポンしたりノックしたりし続けると、中からドタドタという足音が。


「いや、うるっっさいから!? 何度も何度も押すなよぉ!?」


「あ、出てきた。良かった。おはようございます! もう朝ですよ?」


「知ってるよそんなこと!! なんだよ、昨日の今日でいったい何の……」


 ボクは、コンビニのビニール袋を両手で持って前に出しました。


「昨日は後ろで見てて、とても面白かったです! これ、つまらないものですが……」


「…………ほんとになんなんだよぉ、お前。というか、ドカペと苺大福は絶対合わないだろ……」


 はぁ、というため息とともに、出てきたときの険しかった表情がくしゃっと歪んで泣きそうな表情になりました。


 それから無言で部屋に戻っていったのですが、玄関ドアが開いたままだったのでボクも部屋に入ることに。


「お邪魔します!」


「え」


「お邪魔します!!」


「あ、うん……」


「昨日のやつ、続きやらないんですか?」


「…………」


 お姉さんは、すごく何か言いたそうな表情をしたあと、自分のスマホをボクに渡してきました。


 画面を見るとネットの記事のようなページが表示されています。


 見出しは、


「ゲーム配信者ミカヅキ氏、未成年者略取誘拐及び常習淫行か!?」


 というものでした。

 これは?


「そこに晒されてるの、……僕なんだ」


 …………晒される、とは??


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