043・白樺さん、白樺組のリーダーです!
カツーーン!
と、半分くらい中身の残ったペットボトルが、床を跳ねました。
コーラの入ったペットボトルを床に投げつけた女性は、そのまま目の前の女性に掴み掛かりそうな勢いです。
「なんだアイツら。騒がしいな……」
斎藤さんが、眉をピクリと動かして一歩前に出ました。
赤松さんたち3人も、興味深そうにそちらを見ます。
そしてボクの足元には、先ほど投げつけられたペットボトルがコロコロと転がってきました。
ボクは、ペットボトルを拾います。
ナナさんが、ボクの肩に手を掛けました。
「ちょい待ち、ユメヒコ。まさかと思うけど、アンタまた……」
「はい! 中身が残っているので、持っていってあげようかと」
「やめとけって、マジで。いくらユメヒコでも、アレは危ないから」
そうですか?
「じゃあ、斎藤さん」
「あん?」
「これ、あちらの女性に返してきてくれませんか?」
斎藤さんが、コショウをドバッとかけてしまったラーメンを食べてる時みたいな顔をしました。
「アイツにか?」
「はい。お願いします」
ボクがニコニコ笑顔でお願いすると、斎藤さんは「しゃーねーな」と言ってペットボトルを受け取り、黒髪ドレッドヘアの女性に近寄ります。
「おい、これ」
そして、手にしたペットボトルを相手の肩にポンと当てたところ、
「っ……!」
ドレッドヘアの女性が振り向きざまに、斎藤さんの顔目掛けて殴りかかってきました。
「……おい」
斎藤さんは、左手でバシンッと拳を受け止めます。
「話ぐらい聞け」
斎藤さんが、相手の拳を掴んで無理やり下に降ろさせました。
そこに、赤松さんたちがゾロゾロ行って「お、やんのか?」「血の気の多いやつだな」「先に手を出したのはテメーのほうだぞ? ああん?」と、斎藤さんに加勢します。
「……っ。離せ……!」
ドレッドヘアの女性は、斎藤さんに掴まれた手を振り解けないようです。
そして、左手も拳を握ろうとしたところで、
「おい、黒杉! いい加減にしろ!」
「パイセンたち!? お、落ち着いてくださいっス!」
ドレッドヘアの女性と言い合っていた黒髪ポニテの女性と、白樺さんがそれぞれ止めに入りました。
おお〜〜!
「黒杉? ……テメーがか?」
「おい、離せって」
斎藤さんが手を離すと、ドレッドヘアの女性、黒杉さんは痛そうに右手を振ります。
「馬鹿力が……。なんなんだ、お前らは」
「だから、これ」
「なんだ? ……コーラ?」
「テメーが投げつけたんだろ。で、ウチのリーダーは、お前が中身の残ったペットボトルを落としたと思ったから、返してこいって言ったんだよ」
「リーダー……?」
黒杉さんがこちらを見ました。
そして、ボクと目が合ったので、ボクは大きな声で挨拶をします。
「こんにちは! 歌方夢彦です! ユメヒコ組のリーダーです!」
「ユメヒコ組……? つーか、なんだ? 中坊か?」
「黒杉さん、先ほどはどうしてあんなに怒鳴っていたんですか?」
すると、黒髪ポニテの女性が、
「ソイツが勝手なことをして、ワタシたちのパーティーが半壊しかけたからだ! だってのに黒杉は、言い訳ばかりして……!」
「だから、あの時はお前らがオレの言うとおりに動いてれば、倒せたんだよ! 黒曜! テメーそんなことも分からないでよくリーダーができるな!」
「なんだと!」
「なんだよ!」
今度は額を突き合わせて、犬のように唸り合います。
すると斎藤さんが、
「お前ら、ちょっと落ち着け」
胸ぐらを掴み合いそうだった2人の頭を、ペットボトルでスコーンスコーンと叩きました。
痛そう!
コーラのペットボトルって、結構硬いんですよね〜。
黒杉さんと、黒髪ポニテの黒曜さんが、揃って頭を押さえます。
「テメェ、何を……」
「痛いじゃないか……」
「落ち着けっての。それとそっちの後ろのも。お前らの仲間の醜態だろうが、止めろよ」
そんなわけで、斎藤さんが渋々の様子で黒杉さんと黒曜さんを引き離します。
それから、黒杉さんたちのパーティーの中から体格が立派なお姉さん2人が出てきて、黒杉さんたちをさらに引き離します。
「リーダー、落ち着きなよ」
「サブリーダーも、そんなに怒鳴らないで」
引き離した黒杉さんたちを空いているベンチの両端に座らせ、体格が立派な2人が間に座りました。
そして、残った2人が黒杉さんたちの後ろにそれぞれ立って、急に立ち上がらないように肩に手を置いています。
「厳重過ぎない……? キミたち、動物園のライオンかよ……」
「猿だろ。人の話もまともに聞けねーんだからよ」
深森さんの言葉に、斎藤さんが呆れたように返しました。
動物園も、いつか皆で行ってみたいですよね〜。
ボク、ネコが好きなんですよ。
公園で遊んでたら、いつも寄ってきてくれる子がいまして〜。
【動物園に猫はいないだろ】
【動物なら何でもいると思ってそう】
猫もいますよ!
ほら、大きくてたてがみが立派な子が。
【それはライオンやろ】
【ユメヒコ氏、猫の当たり判定も広すぎるんだなもし】
さてさて。
そんなことをニコニコ考えている間に、斎藤さんと深森さんが色々お話を聞いてくれていました。
どうやらこのパーティーは、リーダーで狙撃手の黒曜さんと、サブリーダーで連弓兵の黒杉さんを中心にまとまっているパーティーのようです。
パーティーランクはD。
黒曜さん曰く、一人前と呼ばれるランクのようですね。
「あー、確かに。ドモン姐さんたちも、Dランクって言ってた」
「七奈さん、雲水さんたちと連絡取り合ってるの?」
「え、うん。ドモン姐さんたちとLIEN交換したから、探索者のこと色々聞いてる」
そして黒杉さんたちのパーティーは、罠の陣地を作って敵を引き込み、一網打尽にする戦法を使って狩りをすることが多いようなのですが、
「黒杉が、最近その戦法を嫌がって、パーティーの和を乱してるんだ」
黒曜さんの言葉に、黒杉さんがすぐさま反論しました。
「嫌がってはいない。ただ、もっと早く狩れるタイミングもあるのに、前例踏襲でバカ正直に待ち続けるのはおかしい、と言っているんだ」
「だからといって、わざわざ安定した狩り方を崩す必要もないだろう」
「早くたくさん狩れるなら、そっちのほうが良いだろうが」
黒杉さんの言葉に、赤松さんたちは「そりゃそうだな」と言ってうんうんと頷いています。
白樺さんは「どっちも間違ってないとは思うっスけど……」とだけ言いました。
「今回のも、ワタシたちが引き込み穴を作って蛇どもを引き込み、まとめて爆殺する手筈になっていた」
「爆殺」
「物騒だな……」
「黒杉には、巣穴に矢を射って蛇たちを誘い出してもらう役目を頼んでいた。必要以上にたくさん撃ち込んで想定以上に蛇を呼んだのは、まだ良い」
「良いんだ」
「良いのか……?」
「だが、そこでめったに出ない銀蛇が出てきたときに、ワタシが撤退を指示する前に黒杉が一斉攻撃を指示したものだから、撤退に遅れが出て……」
「だから! あの時に須那が残りの爆薬を全部投げつけて怯ませて、玄武の鉄条網をかけて、鉄見が盾ごと体当たりして動きを止めて、岩動が尾先の急所に鎧通しして、オレが射ち尽くしで削って、黒曜がドタマを狙撃したら、倒せたんだって!」
「お、意外と具体的」
「あの時そんな細かい指示してなかっただろ!」
「見たら分かるだろ! なのにお前がビビって撤退にしたから、足並みが揃わなくてたいへんな目に遭った!」
「銀蛇狩るならあの陣地じゃ力不足なんだよ! だから撤退なんだ! というかアレが金蛇だったら、ワタシたちマジで全滅だったぞ!?」
「金蛇だったらオレだって撤退一択だよ!? 銀蛇だから一斉攻撃って言ったんだ!」
なるほど〜。
「お二人とも、パーティーのために最強だと思う指示を出したんですね! 素敵♡」
「素敵ではねーだろ」
「ユメヒコくん、今の話をどうまとめたらそんな感想になるの……?」
「けど、お二人は、……お互いに窮屈だと思ったりしませんか?」
すると、黒杉さんが不貞腐れたような表情で言いました。
「……思うよ。最近は余計に思う。だからオレは、こんなパーティー辞めてやる、って言ったんだ」
なるほど〜。
「黒曜さんは、それで良いのですか?」
「……ワタシも、もうコイツの短気に振り回されるのは、こりごりだ」
他の皆さんも、悲しそうな表情をしていますが、反対はしないみたいですね。
「……そういえば、よく分からんまま話をしていたが。……本当に、お前らはなんなんだ??」
「え、いまさら?」
「コイツ、キレたら周りが見えなくなるタイプだな」
「ボクらはユメヒコ組ですよ! そしてそちらは、白樺さん率いる白樺組です」
「え、ウチ!?」
「いや、リーダーはアタイだってば」
白樺さんと赤松さんが驚いた様子で喋りました。
すると、黒杉さんが、
「……ちょうど良い。お前ら、後衛火力は欲しくないか?」
「へ?」
「ボクらのほうは、深森さんと露璃さんとイナリ様がいますよ!」
「そうか。それなら、白樺……、だっけか? オレを雇ってくれよ。火力なら、自信があるぜ」
「え? ええ? ……ええー??」
と、いうことで。
白樺組に、黒杉さんが加入することになりました。
いやっほーーい!




