036・翔子さん、ぼよよ〜んと跳ねて、タイヤをザクッです!
「もう、ユメっち! いきなりあんなこと言われたらビックリしちゃうじゃん!」
イナリ様の回復の光ですっかり回復した翔子さんに、ボクは頭を下げます。
「ごめんなさい! けど、本当に見えそうだったので!」
「てゆーかショーコも。あんだけ跳ねられんのはスゴいけど。ミスったら、けっこう大事じゃん」
「それは確かに! さっきの、明らかにアバラをヤッた痛さだったね!」
「……たまたますぐに回復が出たから、良かったけどさぁ」
「まぁ、回復が出なかったら、私のほうでライフポーションをノドに流し込んでただろうけど……。それより翔子さん、装備を渡す前にダンジョンに駆け込むのは、危ないよ……」
「装備! 確かに、ローファーで走るのは危ないか! けど、なんか楽しそうだったからさ〜」
「ヤバ……。コイツ、わりとユメヒコに近い感性じゃない……?」
「うん……。いっつも、走るの大好きって感じで走ってるし……」
「大好きだよ! だって、速いのって、楽しいし! ……けど、さっきのぼよぼよは、グラウンド走るのとはまた違った楽しさだったなぁ……!」
「ヤバ……」
ナナさんが、理解できないものを見るような目で翔子さんを見ていますね。
「ということで翔子さん! 何か装備を身につけましょう!」
「おっけー! けど、そんなのどこに持ってるの?」
「この、ウィンドウの中にですね」
「わっ、何この板!? へー、こんなのあるんだ」
4人でウィンドウの装備品欄を見つめます。
とりあえず、ボクや露璃さんはいつものヘルメットを被り、ナナさんも緋扇を追加で装備しました。
ボクも、如意旗を装備して、と。
「んーー? ……あ! これ、あたし使いたい!」
「駆けっこシューズですか? 確かに! 翔子さんにピッタリですね!」
「あ、あと、これとか良いんじゃね? この、高性能ボディスーツってやつ」
「そうだね。これ着てたら、跳ねても大丈夫じゃないかな」
「あと、ボクは、これを持ってると良いと思います!」
ということで、装備コマンドをポチポチっと押します。
『朝倉翔子は「駆けっこシューズ」「高性能ボディスーツ」「イボ付き軍手」「耕しスコップ」を装備しました』
『アイテムスキルとして、「耕す」を修得しました』
・朝倉 翔子 15歳
職業:幻惑の足崩床士・レベル11
ダンジョンステータス↓
HP:136 / 136
MP:65 / 72
攻撃力:75
防御力:74
魔法力:32
抵抗力:48
素早さ:118
スキル↓
・よーい、ドン!
・ぼよよ〜んとさせる
・連続加速
・方向転換
・耕す
「あ、攻撃力と、防御力が上がってる。攻撃力はスコップで、防御力はボディスーツかな?」
「その黒インナー、衣装ってなってたけど、扱いは装備品なんだね」
「なんか、野球部とかが着てるやつみたいだね! けど、ほら、セーラー服の下を覆ってくれるから、これでパンツ見えないよ!」
「いや、見えないからってスカートめくんなし」
翔子さん、首から上と手首から先と足首から先だけボディスーツから出した姿で、元のセーラー服を着て運動靴を履いてるみたいな姿になりましたね。
そして両手には軍手装備で、右手には家庭菜園用みたいなスコップを持っています。
「けどユメっち。このスコップは何なの?」
「素手よりは戦いやすいと思いまして!」
「そっか! それなら使ってみる!」
ということで、皆の装備が整ったので、少しダンジョンを進んでみることに。
「一応、モグールだと低級で登録されてるから、そんなに強い敵は出てこないと思うけど……」
「けど、昨日の泡のとこも、大玉とか大亀とかは出てきたじゃん。油断は禁物じゃない?」
「うわー、スキルって一回使うと、しばらくぼよぼよさせ続けられるみたい!」
ぴょんぴょんぼよぼよ跳ねながら歩く翔子さん。
たまに斜めに飛び上がって壁に着地したり、壁を歪ませてさらに上に飛んだり、楽しそうにぴょんぴょん跳ねています。
「コイツ、落ち着きがない……!」
「あはは……、翔子さん、楽しい?」
「めーーっちゃ、楽しい!! ほんとすごいよ! どこに触れてもぼよよ〜とさせられる! どこにでも跳べるもん!」
何度も跳ねると、それに応じて速度が上がっていくので、それが楽しくてたまらないようですね!
「翔子さんって、速く走るのと、速いのとだったら、どっちが好きですか?」
「とにかく速いのかな〜! けど、車とか新幹線とかだと楽しくないんだよね! やっぱ、自分の力で速くなるのが、サイコーに楽しい!」
「分かります! ボクも、自分の力で緑の小鬼を倒したときは、とっても嬉しかったですもん!」
「だよね〜!!」
「え、今の会話、噛み合ってた?」
「うーん……、たぶん?」
そんなことを話しながら、上の階に上がるスロープのところに辿り着きました。
天井が高いので、上の階までのスロープも長いです。
「コンコーン」
「ん? イナリ様が、なんか反応してる」
すると、スロープの上のほうに、丸い何かが現れました。
なんだか、タイヤみたいな見た目のものです。
「敵、かな?」
「転がってきそうですね!」
露璃さんが、水筒を逆さにひっくり返して勢いよく水を出し始めました。
水球がどんどん大きくなります。
そして車のタイヤみたいな敵が、坂道をゴロゴロと転がってきました!
「水圧強化」
露璃さんの水球も、車のタイヤと同じくらいのサイズになりました。
そしてそれを、びゅんと前に出して転がってくるタイヤにぶつけます。
バチーーン!
と、大きな音が鳴って、タイヤのほうが弾かれました。
おお!
なんだか前より、パワフルです!
「うん、やっぱり。水圧と一緒に、動かす力も強くなってる」
「あ、また転がってくるよ!」
後方に弾かれたタイヤは、再び坂道で助走を付けてこちらに転がってきます。
「転がる物は……、横から!」
今度は露璃さん、転がってくるタイヤの横から水球をぶつけて、横倒しにしました。
そして起きあがろうとするタイヤの上から水球を押し付けて、動きを抑え込みます。
「今のうちに、皆で攻撃です!」
「よっしゃ!」
「おっけ〜!」
ボクは如意旗でポカポカ、ナナさんはプラ刀の切先でグサグサ、翔子さんはスコップでザクザク。
3人で囲んでタイヤを攻撃していくと、パァンとパンクしたみたいな音を出して、マナ石になりました。
お、ヤギの時より少し大きい気がします!
【これなら、800円分かな?】
【相変わらず、1ガチャにもならん! カスだ!】
ボクがマナ石を拾っていると、翔子さんがスコップを見ながら首を傾げました。
「これさ、何回か刺したら、タイヤが柔らかくならなかった?」
「あ、やっぱあれ、気のせいじゃなかったんかな。途中から、プラ刀の刺さりが深くなったんだよね」
【たぶん、耕すの効果だな。防御力を少し低下させられる】
【このスキルのミソは、通常攻撃でもたまに効果が発動するところやな】
【クリティカルより出やすくて、なによりMPを使わないんだなもし】
なるほど〜。
硬い土を耕したら、柔らかくなりますもんね〜。
「翔子さんのスコップでいっぱい耕すと、柔らかくなるみたいですね!」
「あー、耕すって、そういう」
「防御低下のデバフがかかるんだね」
「つまり……、いっぱい突くと得ってこと!?」
「それか、力いっぱい突いても効きやすいかもしれませんね!」
「おお〜! 試してみたい! 敵は他にいないかな!」
「先に進めば、自然に出てくるんじゃないかな」
「探してくる! よーい、ドン!」
「えっ!?」
露璃さんがビックリ仰天みたいな表情をしている間に、翔子さんがあっという間に坂道を駆け上っていって、姿が見えなくなりました。
「あのバカ! また勝手に……!?」
「見つけてきたーー!!」
「はや!? てゆーか、たくさん連れてきた!?」
すごい速さのダッシュで戻ってきた翔子さんの後ろから、タイヤが3体転がってきていました。
すごい!
たくさんです!
「イナリ様! 空費で!」
「コンコーン!」
ナナさんがおみくじを引いていると、ひと足先に翔子さんがこちらまで戻ってきました!
「ツユっち! 3体来ちゃった!」
「3体まとめては、パワーが……!?」
と、ナナさんの緋扇の鈴がカランと鳴りました。
『金村七奈は、2番のおみくじを引きました』
『赤線3本。吉凶判定は、小吉。光の雨が降ります』
「よっし! 2番引けた! 光の雨!」
転がってくる3体のうち、右と真ん中の2体に光の雨が降りました!
雷色の雨を喰らったタイヤは、しかしあまり効いた様子がありません!
【ゴムに電気は効かないんだなもし】
「げっ!? あんまし効いてない!?」
「す、水球を盾に……!」
いえ、ここは。
「翔子さん! ぼよよ〜んと弾き飛ばしましょう!」
「なるほど! ええーい!」
すでにぼよぼよ跳ねていた翔子さんが、一際高く跳ねて天井に届くと、天井を歪ませてさらに速く跳ね返ってきました。
そして、その勢いのまま、転がってくるタイヤたちの目の前の地面に着地して、深々と地面を凹ませます。
「ぶっっ、飛べーー!!」
翔子さん自身が跳ね返るのと同時に、凹んだ地面に巻き込まれたタイヤたちも、弾かれて空中に打ち出されました。
壁や天井にガツンガツンとぶつかって、地面に叩きつけられます。
「今です!」
「う、うん!」
ボクは、一番起き上がるのが速そうなタイヤを旗で指して露璃さんに押さえてもらうようにしました。
「おおー!」
翔子さんがぴょーんと跳ね上がってくるくると回ってから、押さえ込んだタイヤにスコップをブスリ!
「あ、柔らかくなったよ!」
「翔子さん、そちらも! ナナさん、今のうちにこちらを!」
「もー! 無茶苦茶じゃん!」
「ええーーい!」
押さえてるタイヤをスコップで耕して、ナナさんのプラ刀で突いてパンクさせる。
順番にテンポ良くやっていくと、3体とも再始動する前に仕留められました。
「もー! ショーコ! 勝手に走らないでってば!」
「ごめんね! つい、走りたくなっちゃって! あ、けど、上のほうでタイヤ探してたら、他のも見つけたよ!」
「他のって?」
「タイヤがなくなった車! なんか、車の中に、タイヤ倒した時に出てくる石と同じのが入ってた!」
ということで、翔子さんの案内でそこまで行ってみると、どうやらこれ、このダンジョンにおける宝箱的なやつみたいですね。
窓ガラスを如意旗でポカポカやってみたら割れて、中からなかなかの大きさのマナ石が!
【タイヤ4体倒すと出てくるやつだな】
【これなら、5000円にはなるな】
5000円!
一か月の給食代ですね!
「なかなかデカいのが出たじゃん」
「でしょでしょー!」
「けど、だからって勝手に先に行っていいわけじゃ……」
「じゃあ、天井空いてるところで、顔だけ出して上を見るのは?」
「まぁ、……それなら?」
試してみることになりました。
床がしっかりしてて天井に穴が空いてるところで、翔子さんが何度かぼよぼよ跳ねてみます。
それから、勢いを付けてさらに何度も跳ねて、どんどん高いところまで跳ねてみます。
すると。
「たいへん皆! 2階上まで穴が空いてて顔出せたんだけど、他の人たちが先に入ってるよ!」
「別パーティーってこと?」
「しかも! ……イケメンのお兄さんがいた!」
「は?」
「えっ?」
男性探索者!?
それって、とっても珍しいのでは!?
……あ、会ってみたい〜〜!!




