032・ナナさん、ズバッと運命を斬り拓きます!
「赤髪のお姉さん、こんにちは! さっきぶりですね!」
「お前ら、マジで来てたんだな。しかも、中坊どもだけじゃねーか……」
「はい! 今日は斎藤さんも深森さんもいませんので!」
「いや、誰だよ……。お前らの保護者か?」
「最近の若い子は、怖いもの知らずだね〜」
「青髪のお姉さんも、こんにちは! お姉さんたちも若いと思いますよ!」
「え? あー、いやいや、私たちもう、アラサーだからさ」
「そうなんですか!? 全然見えませんね!」
「うえっ? えー、ほんとに……?」
すると、金髪ツインテールのお姉さんが、はあっとため息をつきました。
「雲水。アンタ、子どもに気を遣われてるんじゃないわよ」
「あはは〜……。すみません、土門さん。ちょっと、びっくりしちゃいまして〜」
「金髪のお姉さんと緑髪のお姉さんも、こんにちはです!!」
「はいはい、こんにちは。元気が良いわね、この子」
「こんにちは……。キミ、礼儀正しいね……」
お姉さんたち、先ほど統括局で見かけたときとは違い、しっかりとダンジョン用の装備を身につけていますね。
赤髪ショートカットのお姉さんは背中に2本の剣を背負っていて、ふわもこ青髪のお姉さんは腰ベルトの左側に短めの杖を2本差しています。
金髪ツインテールのお姉さんは2丁のショットガンを肩掛け紐で吊っていて、ツヤツヤ緑髪のお姉さんは十字架のようなものを首から提げて、迷彩柄のマントを着ています。
「お姉さんたちも、こちらのダンジョンに?」
「ああ? ……まぁ、ちょっとな」
「リーダー、いきなり聞かれて思わず教えちゃったダンジョンに、まさかあのあと3人だけで入ってないだろうな、って心配になっちゃったみたいでね〜。それで、急きょ予定を変更してここに来てみたんだ〜」
「なんと! そうだったのですね!」
「お、おい!」
「火蜂がポロッと答えるからいけないのよ。あとから心配になるくらいなら、統括局で追っ払ったら良かったのに」
「……はぁっ。来てみて良かったよ、マジで。ここは、確かに低難易度だが、それは死ぬ危険が少ないってだけの話だ。バウンドボールとかは耐久力が高いから倒しにくいし、大型のやつに踏み潰されたら普通に骨折するからな」
「え、そうなん? こわ……」
「あとは、浮かんでる泡の中には状態異常を誘発するやつもあるの……。不用意に触ったり近寄ったりしちゃ、ダメだよ……?」
「あー、はい……。なるほど……」
露璃さんが、バツが悪そうにしていますね。
「でも、大玉はナナさんの光の雨で倒せましたし、露璃さんのフラフラもナナさんがパタパタしてくれて治りましたよ」
「パタパタ?」
「あと、イナリ様も頑張ってくれたんですよ! 浮かんでる泡を、いっぱい割ってくれました!」
「コンコーン」
イナリ様が、自慢げに胸を張りました。
ボクはイナリ様の頭をヨシヨシと撫でてあげます。
「コイツら、大型のバウンドボールを倒せるぐらいには強いのか……? 光の雨ってのは、どういうスキルなんだ?」
「えーっと。イナリ様、ちょっと見せたげて」
「コンコン♫」
ジャラジャラポイっと出てきたおみくじは、3番の3本線でした。
これは確か、攻撃バフのやつですね!
「……なんか、ちょっと光って身体は軽くなったけど、これだけなの?」
「イナリ様のおみくじ、ランダムだから、狙ったやつがなかなか出ないんだよね」
「はっ? そんなバクチみたいなスキルでダンジョン潜ってるの? えっ、メガネのアンタは?」
「私は、こうやって水を動かすのが主なスキルで……」
「元気なアンタは?」
「この旗棒で、ポカっと叩きます!」
「棍棒系の汎用スキルじゃないのよ!? アンタたち、まともな攻撃スキルはないわけ!?」
金髪のお姉さんが、めちゃくちゃ驚いていますね。
「一応、アタシのプラ刀なら、居合斬りがあるけど……」
「だから、それも刀系の汎用スキルでしょ! しかも効果の割にMP食うやつ!」
「え、そうなの?」
「どうすんのよ火蜂! この子たち、このまま進ませたら絶対マズいわよ!」
「そうだな……。おい、お前ら」
赤髪のお姉さんが、ズイッと一歩前に出ました。
「今からでも遅くないから、来た道を戻るのと、このまま前に進むんなら、どっちがいい?」
ボクは、即答しました。
「もちろん進みます! だって、こんなにフワフワでワクワクなところですから! 進めるうちは、奥に進みたいです!」
「どうしてもか?」
「はい! だって、赤髪のお姉さんも、前に出ていくの好きでしょう? ボクも大好きです! 一緒ですね!」
ボクがニコッと笑ってみせると、赤髪のお姉さんは一瞬怯んだようにしたあと、グッと表情を引き締めます。
「分かった。じゃあ、ここからはあたしたちも同行する」
「ほんとですか! やったあ! よろしくお願いします!」
「……ノータイムかよ。少しは悩むとか警戒するとか、ないのか?」
「何故ですか? だって、皆で潜ったほうが楽しいじゃないですか! それにボク、お姉さんたちが戦ってるところも、見てみたいです〜♡」
すると、お姉さんたちは無言で顔を見合わせ、それから揃って頷き合いました。
「分かった。じゃあ、ちゃんと見てろよ」
赤髪のお姉さんが、背中に背負った双剣を抜いて両手に持ち、
「まったく。とんだ出費になるわ」
金髪ツインテールのお姉さんがショットガンをガチャっと折ると、腰のポーチから取り出した筒をカチャカチャと詰めていきます。
「あはは〜。それじゃあ、ゆるゆる行こうか〜」
青髪のお姉さんは、腰に差した2本の杖を左手でそっと撫で、
「キミたちは、ワタシから離れないようにしてね……」
緑髪のお姉さんが、胸の前で十字を切りました。
ということで、生真面目そうなお姉さんたちと一緒に、泡ダンジョンを進むことになったのでした。
▶︎▶︎▶︎
「火蜂、そっちからもまとめて来てるわよ!」
「分かってらぁ! 雲水、流れ作れ!」
「はいは〜い」
現在、ボクたちは赤髪のお姉さん、火蜂さんたちと一緒に泡ダンジョンを進んでいます。
「オラオラオラオラあっ!!」
左奥の大きな噴水から一度に50個近くまとめて出てきた小玉たちを、火蜂さんの双剣が縦横無尽に動いて切り裂いていきます。
それまで火蜂さんが相手をしていた大きな泡吹きカニが火蜂さんを追おうとしますが、
「アンタの相手はこっちよ!」
空からやってきていたプロペラシャボンを全て倒した金髪ツインテールの土門さんがカニの前に立ち塞がり、2丁のショットガンを至近距離でブッ放しました。
ドパっ! ドゴンっ! ドパっ!
左、右、左と交互に発射し、カニの狙いが自分に移ったのを見たのか、素早く跳び下がりながらさらに右の一撃をドゴンと撃ち込みました。
カニの大ハサミを避けつつ、手慣れた様子で弾込めをする土門さん。
すごい。
手元を全く見ていないのに、流れるようにスムーズに弾込めができています!
「ブッ飛べ!」
トドメに右の一発を喰らわせると、カニは光になって消えていき、マナ石になります。
そして、次の獲物を探そうとしている土門さんの横を、青髪のお姉さん、雲水さんが放った水の矢が飛んでいきます。
矢は、別の大きな噴水に当たりました。
「土門さ〜ん。そこからの奴らをお願い〜」
「はいはい!」
「火蜂さ〜ん。風の壁行くよ〜」
ボクらと緑髪のシスター、島風さんより少し前に立った雲水さんは、腰に差したままの杖の間で左手を動かしつつ、右手を火蜂さんのほうに向けます。
「エアロウォール!」
ぽよぽよと大群で押し寄せてくる小玉の半分が、透明な風の壁にぶつかって止まりました。
残りの半分を火蜂さんが順番に切り裂き、火蜂さんの攻撃の合間を縫って雲水さんの水の矢や風の槍が小玉に刺さります。
「こっち終わったわよ!」
「よし、ぶっ放せ!」
そして土門さんがタタタタっと火蜂さんの隣に駆け寄ると、両手のショットガンをドパドパ撃って風の壁に張り付いていた小玉たちを一網打尽にしました。
すぐに退がりながらリロードする土門さんの代わりに再び火蜂さんが前に出ます。
火蜂さんは、残りの小玉たちを瞬く間にマナ石に変え終わりました。
「……ふぅ。どうやら、危機は脱しましたね……」
迷彩マントシスターの島風さんが、胸の前で十字を切って手を組みました。
ぽわわ〜んと薄緑色の光が現れて、前で駆け回っていた火蜂さんと土門さんを包みます。
「これは、疲れを減らす加護なんですよ……。特に火蜂リーダーは、たくさん動くので……」
【ゲーム的には、スキルのクールタイムを短縮するスキルだったな】
【そもそもクールタイムのあるスキルが少なかったんだなもし】
「島風、チビちゃんたちのカバーありがとうね〜」
「いえいえ。雲水も、前のカバーご苦労様……」
こちらに向かって手を振る雲水さんに、露璃さんが声をかけました。
「あの、雲水さん? どうして、杖を腰に差したまま使ってるんですか? しかも2本も」
「ん〜? あ〜、これ? ほら、いちいち杖を持ち替えるのってたいへんだからさ〜。使う時だけ触るようにしてるんだ〜」
「……え、それって?」
「あ、火蜂さ〜ん。私の指示、ちゃんと聞こえてた〜?」
「ああ、大丈夫だ。とはいえ、もう少し声を張ってもらいたいがな」
「あはは〜、善処します〜」
ヘラヘラっと笑っている雲水さん。
土門さんが弾込めをしながら「ま、慌てた火蜂は声がうるさ過ぎるんだけどね」と呟きました。
「というか雲水。アンタ、普通に指示出しできてるけど、もしかして今までも、やろうと思えばできたの?」
「いや〜? 今までは、私が言わなくても火蜂さんが全部言ってくれてたし〜? ……けど、さっきユメヒコ君に、言われちゃったからさ〜」
雲水さんが、少しだけ真剣さの混じった笑顔で、ボクを見てきました。
「ユメヒコ君。さっき私たちを見たときに、どうして私に指示を出すように言ったの?」
「? それは、雲水さんが、皆を一番見てる人だと思ったからですね!」
「見てる人?」
「はい! 皆を見て、気づけて、動ける人だと思ったから、手分けをするなら雲水さんが良いなって思いました!」
「……けど、私は、火蜂さんみたいに皆を引っ張るリーダーにはなれないよ?」
「それでも良いと思います! 引っ張るのは火蜂さんが頑張って、雲水さんは、火蜂さんが引っ張りやすいようにしてあげるのが良いんだと思います!」
「……ふーん。そっかぁ〜」
「はい!」
「……まっ、いつもはのほほんとしてる雲水が、少しはやる気を見せてくれてんだ。あたしとしては、言うことはないな」
というわけで。
その後も、何度か火蜂さんたちの戦闘を後ろで見ていましたが。
だんだんと、雲水さんの指示が滑らかになっていったような気がしました。
雲水さん、やっぱり皆さんをよく見ていますね!
それと戦闘のたびに、火蜂さんたちの戦いぶりにソワソワしてるナナさんが、ちょこちょこイナリ様のおみくじを空費で引いてみているのですが、
「……あー、ダメだ。また弱いデバフだ……」
ガラガラと引くたびにMPとおみくじ棒が減っていき、とうとう箱の中身は残り数本になりました。
そして、ここで。
「着いたぞ。ここがボス部屋だ」
泡ダンジョンのボス部屋前に、ボクたちはたどり着いたのでした。
▶︎▶︎▶︎
「良いか。ここのボスはバブルタートルっていって、要はデカい亀だ」
「デカいし、重いし、硬いのよね。甲羅は、私のショットガンでも火蜂の双剣でもほぼ傷付かないから、まずは首を出させるところからよ」
火蜂さんたちとともにボス部屋に入ると、確かに大きな亀がいました。
手足と首を全て引っ込めていて、すぐには動き出す様子はないのですが、
背中の甲羅の上には大砲のようなものが付いていて、それがゆっくりと動き、こちらを狙おうとしています。
「あの大砲から飛んでくるのは、少し硬めの、小型のバウンドボールだ。一度にだいたい5個ぐらいずつ撃ってくるから、まずはそれを順番に倒す」
「何度か倒したら、首を出して口から酔泡を吐いてくるわ。だから状態異常に気を付けつつ接近して頭を攻撃。首を引っ込められる前に撃てるだけ撃って、首をしまったら手足を出して回転してくるから距離を取り直す」
なるほど!
皆さん、詳しいですね!
「まぁ、もう数え切れないぐらい倒してるからね〜。ちょっと時間はかかるけど、いつもの流れでいけば確実に倒せるよ〜」
「キミたちは、ワタシと一緒にこちらにおいで……。バウンドボールが届きにくい位置があるから……」
島風さんはそう言ってくれますが、ボクはくるっとナナさんを見ました。
先ほどから、何度もおみくじを引いては、末吉や小吉ばかりが出ていました。
ナナさんの表情、もう一回大吉を引きたい、という感じに見えますね。
「イナリ様。残りの棒の中に、大吉は残っていますか?」
「キューン? コン!」
「分かりました! それならナナさん、こちらをどうぞ!」
「え、何これ。ジュース?」
「マナポーションです! これを飲むとMPが回復するんです。それでですね……」
ボクは、ニコッと笑って見せました。
「残りのおみくじ、まとめて全部引いちゃいましょうよ」
「へ!? え、そんなのできるの?」
「できないんですか? だっておみくじって、大吉を引くまで何回引き直しても良いものなんでしょう?」
まぁ、ボクは、何回引いても大吉しか引いたことないんですけど。
「空費なしでまとめて全部引いたら、絶対大吉が出ますよ! それに、ここで大吉が引けたら、とっても楽しいと思います!」
「それって、運命的には、どうなん……?」
「? 大吉の運命を自力で引き寄せるわけだから、すごくカッコ良いんじゃないでしょうか!」
「運命を、引き寄せる……」
ナナさんは、数秒何かを考えたあと、マナポーションを受け取ってごくごくと飲みました。
「うわっ、ドカペっぽい味……! ……ユメヒコ」
「なんでしょう!」
「次の一回で、いきなり大吉引いたら。……運命的に、どうよ?」
ボクは即答しました。
「最強にカッコ良いと思いますね!」
「っ……! イナリ様、ゴー!」
「コンコーン!」
イナリ様が踊るように動きながら、楽しそうに箱を振りました。
すると、ナナさんの緋扇の鈴がガラーン、ガラーン、ガラーンと鳴り、
そのあと、おみくじ棒が出てきました!
『金村七奈は、1番のおみくじを引きました』
『赤線5本。吉凶判定は、大吉。……輝光剣が、顕現します』
まず、イナリ様の身体がぽわわっと金色に光りました。
そこから、光の粒がふわふわ〜っとあふれ出し始め、それがナナさんの手元に集まって、ひとつの形を作っていきます。
これは、光の剣……!
島風さんと雲水さんが、驚いたようにナナさんを見つめます。
露璃さんが「これ、光の雨を束ねたもの、ってこと……?」と呟きました。
やがて、キラキラとした光の剣が完成すると、ナナさんは柄の部分をゆっくりと掴みます。
「……ふぅーーっ」
目を閉じて、深呼吸をひとつ。
そしてパチリと目を開くと、キッと真剣な表情になりました。
「ユメヒコ」
「はい」
「アタシから、目を離さないでね」
「はい!」
ナナさんは、ボンッ、ボンッと小玉を発射してきている大亀に向けて、駆け出します。
飛んでくる小玉の相手をしていた火蜂さんたちが、大亀に近寄るナナさんを見て、ひどく驚いた顔をしました。
ボクは、ナナさんに向けて大きな声で言います。
「ナナさーーん! やっちゃってくださーーい!」
「うん!」
ナナさんは、大亀の斜め前、少し離れた位置で立ち止まると、光の剣を大きく振り上げました。
「おりゃあーーーーっっ!!」
そのまま力一杯剣を振り下ろすと、光の粒子が解けながら剣の長さが何倍にも、何十倍にも伸びて、
長く伸びた光の剣が、大亀の巨体をズバッッと通り抜けました。
「…………ええっ??」
島風さんが、呆気に取られたような声を出しました。
頑丈な甲羅を持つはずの大亀は、光の剣が通り抜けたところで真っ二つに一刀両断され、しゅわわ〜っと光の泡になって消えていきました。
「七奈さん、すごい……!」
露璃さんは、感動したような声です。
ボクは、目一杯大きな声で、
「ナナさーーん! めちゃくちゃカッコ良かったですよーー!!」
と伝えると、振り返ったナナさんが、
「でしょ? 運命、斬り拓いたっしょ?」
と言って、ビシッとキメポーズをしたのでした。




