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003・ヤンキー姉さん、ジャブのワンパンでKO勝ちです!


 アパート近くのビルの地下に、目的のダンジョンの入口はありました。


 ボクは、せっかくだからもっと上の級のダンジョン(デカいヤマ)に挑戦しませんか、と言ってみたのですが。


「ダンジョンってのは統括局が管理してるから、そういうところは探索者登録とランク認定が必要なんだよ」


 ほれ、と言って見せてくれたスマホには『モグール(MOGUL)』という公式アプリが入っていて、斎藤さんはEランクになっていました。


 ちなみにボクは未登録なので、暫定(ゴミ)ランク扱いのようです。


「未登録の奴は、危険がほぼ無くてランク登録されてないダンジョンしか入れねぇ。だからここなんだ」


「なるほど!」


「そういやぁ、ユメヒコのジョブはなんなんだ? 紋章は、ヘソの下にあるのが見えたけど、見たことない形なんだよな」


 斎藤さんに聞かれたので、ボクはウィンドウを操作して、自分のアイコン(黒髪の男の子です)をタップします。


 そして表示を見せました。




歌方(うたかた) 夢彦(ゆめひこ) 15歳

職業:指揮官・レベル1




「指揮官、ねぇ……。やっぱ見たことねージョブなんだよなぁ。お前、ほんとに戦えんのか?」


「初めてなので分かりません! けど、大丈夫ですよ! ちゃんとバットとメットも装備しましたし、あとは打席に立ってホームランするだけです!」


 ボクは、ガチャで手に入った木製バットとヘルメットを装備し、ついでに動きやすいように体育の授業用ジャージに着替えています。


 どこからどう見ても健全な野球少年ですね。

 これはもう、三冠王を目指すしかないのでは?


「三冠王ってか、三振王だろ」


「トリプルスリーかもしれませんよ!」


「はいはい」


 そんなことを言い合いながら、ダンジョンゲートを潜ります。


 すると、潜る瞬間に薄い膜のようなものを通過する感覚がありました。


 紋章を持たない人は選別膜に弾かれてダンジョンに入れない、ということなのでしょう。


 入ってみると、不思議な空間が広がっています。


 タイル張りの床、コンクリと岩肌が混ざった壁、蛍光灯の灯る天井。

 地下通路みたいな空間が、ずぅーっと奥まで伸びています。


「本物ダンジョン! すごい! けど、あのビルにこんな地下帝国みたいな通路が?」


「ダンジョン内は、外の広さとは別だからな」


「なるほど〜!」


 しかし、これだけ長くて真っ直ぐな通路は、学校でもお目にかかったことはありません。


「これだけ長いと、全力で走ってみたくなりますね」


「いや、ここは低級だけどダンジョンなんだぞ。遊びじゃないんだ。不用意なことは……」


「……えいっ!」


 思わず駆け出しかけたボクでしたが、斎藤さんにジャージの襟を掴んで止められました。


「ぐえっ」


「言ったそばからお前は……!? マジでやめろ! 躾のなってない犬かよ!」


「ワンワン!」


「犬かお前は!? おらっ!」


「痛いっ!?」


 おしおきのデコピンをされたボクは、ひとまず斎藤さんと横並びで歩き始めました。


 てくてく歩いていると、少し先のところの壁にドアがついているのが分かります。


 10メートルほどの距離まで近づいたところで、壁のドアがガチャッと開きました。


 中から黄緑色の肌をした背の低い鬼みたいなのが出てきます。


「出たな、レッサーゴブリン」


「ブサカワですね!」


「クソキモだろ……」


 木の棍棒を手にした小鬼はボクたちを見つけると、ぐへへって感じでヨダレを垂らしながらジャリっジャリっと近寄ってきます。


 自然と斎藤さんが前に出ました。

 少しだけ緊張した横顔でしたが、ビビってるわけではなさそうでした。


「まずは俺がやる。ユメヒコ、手ぇ出すなよ」


 小鬼に歩み寄った斎藤さんが、鉄の拳をガチンと打ち鳴らして構えます。


 ボクは、手は出さずに口を出すことにしました。


「斎藤さん、ゴー!」


「っ!」


 ボクの声がゴングであるかのように、斎藤さんがキュッと鋭く踏み込みます。


 棍棒を振りかぶろうとしていた小鬼が、虚を突かれたように動きを止めました。


 先制攻撃です!


「オラあっ!」


 斎藤さんの左ジャブ。

 小鬼の鼻っ面にドガっと刺さりました。


 そこから返しの「右ストレート」を出そうとしましたが、後方に吹き飛んだ小鬼は床に倒れたまま動かなくなりました。


「……ははっ、マジか」


 そのままスゥーっと消えていく小鬼。

 倒れていたところには、小さなビーズのようなものが落ちていました。


「ジャブのワンパンで倒せちまった……。今までは、応援歌用のカラオケマイクで何度殴ってもダメだったのに」


「そんなので殴ってたんですか?」


「他に装備できるもんがなかったんだよ……。お、そうだ」


 斎藤さんはビーズのようなものを拾います。


 どうやらこれは、魔晶(マナ)石って呼ばれるものらしくて、これを集めて帰るとお金になるみたいです。


【今のやつなら200円分だな】


 小鬼、安い命なんですね。


【1ガチャにもならん! カスだ!!】


 とにもかくにも。


「斎藤さん! ナイスパンチでした!」


「っ……」


「めちゃ速で、カッコ良かったです〜!」


 ボクが斎藤さんのパンチを讃えると、斎藤さんが右拳を突き上げました。


「〜〜〜〜っ、よっしゃああっ!!」


 それからグッとガッツポーズ。

 誇らしそうな顔でボクの隣に戻ってきました。


「やったぜユメヒコ。俺は、やれる!」


「はい! 斎藤さんはやれます! めちゃ強です!」


「……ありがとよ」


 斎藤さんは照れたようにボクの肩をポンポンと叩き、ビーズサイズのマナ石を渡してくると「さぁ、ガンガン行くぞ」と言いました。




 そこからは、斎藤さん無双でした。


 そもそも低級ダンジョンということもあり、出てくるのは黄緑色の小鬼か、少しだけ強い緑色の小鬼だけです。


 どの小鬼たちも斎藤さんの華麗なパンチを浴びるとそのままダウンし、テンカウントを待たずに消えていきます。


 斎藤さんはどんどん前に進み、ボクは落ちてるマナ石をひょいひょい拾ってついていきます。


 さすが斎藤さん!

 強いな〜、憧れちゃうな〜。


「それほどでもねぇよ。つーかこれはお前のお陰だろ、ユメヒコ。なんか知らねーが、いつもより体が軽いんだよ」


「そうなんですか?」


「ああ。それに、最初の戦いのときはお前の声に合わせて踏み込んだら、先制パンチできたし」


「何言ってるんですか! それは斎藤さんが上手いからですよ! ぬるっといってガツンだったでしょ!」


「……意味分かんねーって」


 けど、満更でもなさそうな斎藤さんです。


 それに、斎藤さんの活躍を見ていると、ボクもちょっとムズムズしてきました。


「斎藤さん! 次の小鬼はボクにやらせてください!」


「あん? マジでやるのか?」


「ボクだってやれますよ! まぁ見ててください!」


 ということで、次の小鬼は満を持してボクのターンです。


 ふふふ。

 ボクだって斎藤さんみたいに、華麗にボカッとやってみせますよ!


 まずは先制攻撃だ。くらえー!


 ギュンと振りかぶってブンと振り下ろしたバットは、小鬼の肩に当たってポヨ〜ンという音がしました。


 ……あれ、なんか音が軽い?


「……グギャア!」


「うわあっ!?」


 そのまま普通に反撃されました。

 とっさにボクはスライディング(ガチャで出てたスキルです)をして回避し、シャカシャカと這って小鬼の後ろに回り込みます。


「虫みてーな動きすんなよ……」


「ええーい!」


 再び全力の振り下ろし。

 小鬼の頭にポカリと命中。


 また軽い音だー!?


「グギャギャ!」


「ひえーっ!?」


 ピョインと下がって棍棒を回避。


 けど、なんで全然効かないんですかー!?


「ユメヒコ! オラあっ!」


 ここで斎藤さんが乱入してくれました。

 スキルの「右ストレート」で小鬼をブッ飛ばします。


「あ、ありがとうございます……!」


「お前、なんか変じゃないか? もっかいステータス見せてみろよ」


「えーっと」


 あらためてボクのステータスを見てみます。




歌方(うたかた) 夢彦(ゆめひこ) 15歳

職業:指揮官・レベル1


資質↓

知力:5

心力:35

技力:15

速力:35

筋力:10

体力:30

指揮官適正:95

幸運度:56(+1)


特性↓

・メニュー機能

・IQ53億


ダンジョンステータス↓

HP:60/60

MP:68/70

攻撃力:3()

防御力:36

魔法力:2

抵抗力:32

素早さ:70


スキル↓

・ふわっと指揮する

・棒で叩く

・スライディング



 ……?


 …………??


 ………………攻撃力、3しかない!!?


「はっ?? ひっっく……。クソザコナメクジかよ」


「え、斎藤さんは!?」


「お前のそれ(ウィンドウ)で見てみろよ」




・斎藤 金衣鳥(うぐいす) 21歳

職業:拳闘士・レベル8


ダンジョンステータス↓

HP:172/172

MP:53/68

攻撃力:126

防御力:113

魔法力:15

抵抗力:45

素早さ:72




「強い! というか、ちょっとジョブレベル上がってません?」


「戦ったら普通上がるだろ。……いや、それにしては同じパーティーのお前は上がってねーな?」


「ええぇ……?」


 どういうことなのでしょうか。


 ボクと斎藤さんで、攻撃力が100倍ぐらい違います。


【正確には、42倍だな】


【そもそもダンジョン・ストライクって指揮官(プレイヤー)は戦わないゲームだぞ】


【戦えるステータスになってないんだなもし】


 なんですって!?


 それじゃあボクは、魔法少女に引っ付いて漫才するだけの愉快なマスコットポジってことですか?


【戦えへんけど、指揮する系のパッシブスキルがあって、おるだけで味方が助かるんや】


【そうだぞ!! お前は全裸でガチャを回すためだけの存在だ!!!】


 …………いやだーーー!?


 ボクも一緒に戦いたいですーー!?


「……なぁ、ユメヒコ。お前、前に出ないほうがいいぞ」


「なんでですか!」


「ステータスが低すぎる。当たりどころが悪かったら普通に死ぬぞ。俺が守ってやるから、後ろにいろ」


 ボクは、ショックでブルブルと体が震えました。


「ヤです! ボクだってやれます! もっかい、もっかいやらせてくださいよぉ!」


「いや、お前なぁ……」


「お願いです斎藤さん! ボクだって、斎藤さんと一緒に戦いたいです!」


 ボクは、渋る斎藤さんの足にすがりついてしばらく泣きマネをしました。


「うーん……。じゃあ、もう一回だけやってみろよ。ヤバかったら助けるから」


「ありがとうございます!」


 ということで、リベンジマッチが許されました。


 絶対に、絶対に、次こそ勝つぞ!!


 ……たぶん!!


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