002・ハズレジョブのヤンキー姉さんをメニュー機能で魔改造してみます!
「な、な、な、……なんじゃこりゃーー!?」
という、クソデカ絶叫ボイスでボクが目覚めたのは、すっかり陽が昇った午前10時過ぎでした。
今日が土曜日でなければ学校に遅刻するところでしたね。
「なん、な、なんで!? はっ!? お前、昨日のは、夢だったんじゃ……!?」
「おはようございます斎藤さん!」
「つーかさっさと服を着ろぉ!?」
あ、そうか。
ガチャを回すために全裸になったままでした。
ボクはいそいそとパンツを履いて、パジャマを着ました。
そして、
「ほんとーーに、スマンかった!!」
着替えたボクの目の前には、畳に額を擦り付けて全力謝罪をする金髪のお姉さんがいます。
この人は斎藤さん。
我が家の左隣の部屋に住んでいる、ヤンキーお姉さんです。
「酔っていたとはいえ、あんなガッついたこと……! 詫びても詫びてもきれねぇ! スマン!」
「いえいえ、そんな」
「償いなら何でもする! だから、その、……け、警察沙汰だけは勘弁してくれ……、な? 俺、ただでさえカネがないのに、ブタ箱行きはマジでヤバいんだよ……」
ボクの心配と自分の保身が半々みたいなことを言っていますね、この人。
まぁ、けど。
「良いですよ。もともと気にしてませんし」
「ほ、ほんとか!?」
斎藤さんがガバッと顔を上げました。
キリッと美人なお顔に喜色が浮かんでいます。
「はい。なんならボクも、斎藤さんのカチカチ腹筋のポカポカを堪能してしまったので、おあいこですし」
「……カチカチと、ポカポカ?」
「ムギュッとされて、よく眠れました♡」
ボクがニコニコとすると、斎藤さんは少しビビった様子で「なんだコイツ、天使か……?」と呟きました。
困惑してても美人さんですね。
素敵♡
「ところで斎藤さん、お仕事というのは?」
「え? あ、ああ。俺、高校の時のツレとつるんで、探索者やってんだ」
「探索者! それってダンジョンに潜る、あの?」
「そうだ」
つまり、この世界は元々ダンジョン系ソシャゲなので、昨日のような勧誘チケットを使うと探索者さんを仲間にできるんですね。
そういえば、この世界の設定として、探索者は体のどこかに紋章が刻まれているという話でした。
「じゃあ、斎藤さんの左の首筋にあるそのト音記号みたいな形の紋章が、探索者の証ということなんですね」
「あ、ああ……。まぁ、そうだ……」
あれ、左手で首の紋章を隠してしまいました。
なんだかちょっと後ろめたそうです。
ボクの中の記憶たちも【あー】とか【あのマークってことは、ジョブが……】とか言っています。
ふむ……?
そういえば斎藤さん。
昨日の夜は、寝ながら泣いてしまっていましたね……。
……ふーむ?
「ま、まぁ、そんなわけだから。マジで悪かったよ。また今度、何かの形で詫びはするから、今日のところはこのあたりで……」
「斎藤さん」
「な、なんだ?」
「斎藤さん、さっき何でもするって言いましたよね?」
「え? あ、ああ」
「じゃあ、ちょっと試したいことがあるので、少し付き合ってください」
そう言うとボクは、ウィンドウを開きました。
そこには『ガチャ』のほかに『編成』『強化』『所持品』『着替え』などのコマンドが並んでいます。
「まずは斎藤さん。これ、見えますか?」
ボクは空中でスイッと動かして、ウィンドウを斎藤さんの目の前に持っていきます。
それから目の前でスッスッと左右に動かしてみましたが、
「なんだ? ……何の話だ?」
斎藤さんには全く見えていないようです。
「見えてない、と。次は」
手元にウィンドウを呼び戻したボクは、編成コマンドをタップします。
すると、編成可能ユニットとして、「UR:酔いどれ唄鳥・斎藤 金衣鳥」というアイコンがありました。
アイコンは、プリン気味の金髪ショートヘアに、眉がキリッとした美人のお姉さんです。
つまり、斎藤さんですね!
これを、編成中ユニット枠に移動させると、
『UR:酔いどれ唄鳥・斎藤 金衣鳥を編成しました』
『初編成ボーナスとして、単発ガチャチケットを1枚進呈します!』
という文字がウィンドウに浮かびます。
「は?? 急になんだ、その浮かんでるやつ……!?」
斎藤さんがボクの手元を見てビックリしています。
つまりこれ、編成した人には見えるやつなんですね。
けど、それでも触れるのはボクだけみたいです。
斎藤さんが手を伸ばしてもスカスカと空を切るばかりで、ウィンドウに触れることができません。
次に、編成中の斎藤さんのアイコンを長押しすると、斎藤さんのキャラ性能みたいなのが見えました。
・斎藤 金衣鳥 21歳
資質↓
知力:18
心力:19
技力:27
速力:37
筋力:45
体力:43
指揮官適正:20
幸運度:25
特性↓
・姐御肌
・頑丈
【あれ、これマスクデータのやつじゃね?】
【ほんまや。解析班がブッこ抜いとったデータやで】
ふむ。
詳しくは分かりませんが、これってフィジカルが強い人ってことですよね。
確かに腹筋カチカチですし、腕や脚もしっかり引き締まった筋肉がついています。
「斎藤さんって、何か運動とか格闘技をしてたんですか?」
「ああ。子供のときから空手と、最近はボクシングも少し」
つまり、殴ったり蹴ったりで、ちゃんと戦える人ってことですよね。
それを踏まえて斎藤さんのジョブ欄を見たところ、その表示は、
職業:歌のお姉さん・レベル8
となっていました。
「斎藤さんのジョブは、歌のお姉さんなのですね」
「な、なぜそれを!?」
「編成すると見えるようになりました。ほら」
ボクがウィンドウをくるっと返して編成画面を見せると、斎藤さんはひどく驚いたような表情をしました。
そして、慌てて表示を消そうとして、画面に触れられず断念しました。
「ぐっ……。……ああ、そうだよ。俺のジョブは、歌のお姉さんだ」
「どういうジョブなんですか?」
「大声で歌って敵の気を引いたり、応援歌で味方を鼓舞したり、……それだけのやつだよ」
「それって、もしかしてですけど。……斎藤さんには、合っていないのでは?」
斎藤さんの顔が、泣きそうな感じにグニャリと歪みます。
「ごめんなさい、言いすぎました」
「いや、いい。そのとおりだ。少なくとも、俺には合ってない。俺では、このジョブの良さを引き出せない」
【それ、本来はアイドル系キャラ用のネタジョブなんだよな】
【くくく、そのジョブはウグイスちゃんの恒常URの中でも断トツで最弱のカスジョブ……。いや、マジで運営の悪ふざけレベルのハズレジョブのやつなんよ……】
「……俺、バカで短気だから、すぐにバイト先のムカつく奴とケンカしてクビになるし、カネが入ったらパーッと使っちまうからいつもオケラだし……」
【ウグイス氏。あまりにもヤンキー適正が高すぎるんだもな】
「一攫千金夢見て昔のツレとダンジョン潜ってみたら、こんなハズレジョブ掴まされて何もできねぇし、歌って囮やって殴られても殴り返せるスキルがねぇし……」
斎藤さんの目が潤みます。
「ツレだと思ってた奴らからも、使えねぇってバカにされて……。けど、事実だから何も言い返せねぇし……」
右手で前髪を、ガシガシとかきました。
「嫌になってヤケ酒飲んで帰ってきたらお前にまで迷惑かけるし……。俺、もう、どうしたらいいか分かんねぇよ……」
そう言うと、斎藤さんの目からポロリと涙がこぼれました。
これは、あれですね。
昨日流していた涙と、同じ涙ですね。
つまり斎藤さんは今、悪夢を見て泣いてしまうぐらい、悲しくて、悔しくて、つらいということなのでしょう。
それは、いけません。
だって、悲しいままでいるのは、とっても悲しいことですから。
それに、ボクはこうして斎藤さんと仲良くなれて、とっても楽しくてハッピーな気持ちになりました。
だからボクも、斎藤さんを楽しくてハッピーな気持ちにさせてあげたいです。
だったら……、
「斎藤さん」
「……なんだよ、慰めならいらねぇぞ」
「先ほど、俺ではこのジョブの良さを引き出せない、と言いましたよね」
「ああ、事実だろ」
「逆では?」
「は?」
斎藤さんが、ポカンとした表情になりました。
ボクは、ウィンドウをポチポチ操作しつつ言います。
「歌のお姉さんというジョブが、斎藤さんの良さを引き出せていないのでしょう?」
だって斎藤さんって、体鍛えてて格闘技もやってて、どう考えても殴り合いに強い人ですよね?
でも、歌って応援するだけのジョブだと、それは活かせないのでは?
「それなら……」
ボクは、強化コマンドをタップしました。
そこには『ジョブレベルアップ』『アイテム装備』『スキル修得』などとともに、
『ジョブ変更』
の項目があります。
「変えちゃいましょうよ、ジョブ」
ボクは、変更可能ジョブ一覧にある『拳闘士』(ガチャで出てきたやつです)をタップしました。
そして『ジョブを変更しますか?』の後のイエスコマンドをタップしようとして、
「……斎藤さん」
「な、なんだよ」
「ボク、今よりもっともっと活躍して、キラキラと輝いている斎藤さんを見たいです。だから、……良いですか?」
斎藤さんの目が大きく揺れます。
何か言おうとして、けど、言葉にならず、
無言のまま、少しだけ頷いたように見えました。
「……ポチっとな」
ボクは、イエスボタンを押します。……すると。
『斎藤金衣鳥のジョブを拳闘士に変更しました』
「っ!? な、なんだ今、体の中を何かが通り抜けたような……!? 痛っ、右肩が、熱い……!」
首元のト音記号がスゥーっと薄れて半分ほどの薄さになり、代わりに右肩のところに、別の紋章(握り拳みたいな形です)が浮かんできました。
『SR:空手家ヤンキー・斎藤 金衣鳥を編成しました』
『初改職ボーナスとして、単発ガチャチケットを1枚進呈します!』
【ソウルを使えば、ジョブレベルを上げられるぜ!】
ボクの頭の中で、前世の記憶が叫びます。
さらにボクは、ジョブレベルアップでソウル(小)とソウル(大)を消費し、拳闘士のレベルをアップしました。
『斎藤金衣鳥の拳闘士がレベル6になりました』
『ジョブスキルとして、「右ストレート」「スタンアッパー」を修得しました』
『初上昇ボーナスとして、単発ガチャチケットを1枚進呈します!』
「な、なんだ!? 今度は、身体が軽く……!? 呼吸も今までよりずっと楽に……!?」
【装備アイテムは、装備しなくちゃ意味がないんだぜぇ!】
装備コマンドをタップし、斎藤さんに『鉄腕ナックル』を装備します。
『斎藤金衣鳥は「鉄腕ナックル」を装備しました』
『アイテムスキルとして、「鉄拳」「アームガード」を修得しました』
『初装備ボーナスとして、単発ガチャチケットを1枚進呈します!』
「はあああっ!? なんで俺の腕に、急に装備品が!? ……だがしかし、馴染む! すごく馴染むぞ、これっ!!」
斎藤さんはおもむろに立ち上がると、スッと構えました。
空手家とボクサーの中間みたいな構えになったあと、虚空に向かって
シュッシュッ!
シュパパッ!
パァンッ!
と素早いパンチを繰り出しました。
おおっ、早い!
拳を目で追えません!
「……なんだこれ。お前は、何をやったんだ」
「これが斎藤さんの本当の力です」
「これが、俺の……?」
斎藤さんは、じっと自分の拳を見つめます。
「なぁ、これ、夢じゃないよな? 昨日酔っ払ってた俺が、まだ布団の中で見ている夢じゃないんだよな……?」
「寝て見る夢もいいですけど、起きて掴む夢もいいと思いますよ。というわけで、斎藤さん!」
「なんだ」
「お願いがあります。ボクとダンジョンに行きましょう!」
「……なんで」
「その力、試してみたいと思いませんか? そしてボクも、ダンジョンに入って試してみたい力があります。ボク、ダンジョンに入るのは初めてなので、斎藤さんがいてくれると心強いです!」
「……俺がいると、心強い……」
斎藤さんが、ボクの目をじっと見てきました。
ボクも斎藤さんの目をじっと見つめ返します。
斎藤さんが、フッと笑いました。
「分かったよ。行くぞダンジョン。やってやんよ!!」
「行きましょう! おー!」
ということで、ボクと斎藤さんは、近場の低級ダンジョンに向かうことにしました。
待ってろよ、ダンジョン!
▶︎▶︎▶︎
なお。
これは余談なのですが。
【ユメヒコ氏、ユメヒコ氏。『着替え』コマンドも使ってみるんだなもし】
「これですか?」
脳内に響く声を頼りにポチポチっと操作してみると、目の前でダンジョンに向けて意気込んでいる斎藤さんが、パッと一瞬で可愛いメイド服姿になりました。
あ、これは念押しチェックボタンがないんですね……!
けど、これは……!!
「ん、何をじっと見つめて……、はっ!? なんだこの服!? メイド服か、これ!? な、おい、まさかこれもお前か! ユメヒコ!」
「めっちゃ可愛い! めっちゃ可愛いですよ斎藤さん!!」
「はっ!? ん、んなわけあるか! 俺に似合うわけないだろ!? こんな、なんかヒラヒラした服……!?」
【眼福】
【粗暴ヤンキーメイド。100点】
【顔真っ赤ウグイスちゃん、最高】
『初着替ボーナスとして、単発ガチャチケットを1枚進呈します!』
「斎藤さんは美人なんだから何着ても似合いますよ!」
「びっ……!?」
「かわいい! かわいい! 超かわいい!!」
「〜〜〜〜っっっ!!?」
『ピロリン♫ 斎藤 金衣鳥の絆値が+1されました』
『初絆値ボーナスとして、単発ガチャチケットを3枚進呈します!』
あ、すごい!
ガチャチケットいっぱいくれた!
「やったぁ〜♡」
「戻せ! 戻せ!? 早く元の服に、戻せよぉおおおおおおおっ!?」
最後には、顔真っ赤になった斎藤さんに、スカートを押さえながらのケツキックをもらってしまったので、しぶしぶ元の服に戻したのでした。
ちぇっ。残念。
「おらっ!! 遊んでないで、ダンジョン行くぞ!!」
「はい!!」
ということで、ダンジョンにゴーです!




