028・ナナさん、運命の人だったみたいです!
「ナナさん! おはようございます!」
「えっ。……あー、おはよ」
「今日も偶然ですね!」
「偶然……? まぁ、そうかも」
ナナさんは、後ろ手でガチャリとカギを閉めます。
可愛らしいキツネのキーホルダーがついたカギを、カバンの中にしまいました。
「えっと。ユメヒコ、だっけ」
「はい! ボクはユメヒコですよ!」
「……その。昨日の占いで、アンタが引いたカード。あれ、どうやったの?」
「どう、とは?」
「だってアタシ、絶対に、ジョーカー2枚を外してたのに。なんで、アンタが引いた束に、ジョーカーが入ってたの? いつの間に、すり替えたのよ」
「……?」
なんだか、よく分かりません。
ボクは、落としてしまったカードを拾い直してめくっただけなんですが。
「……あ! なるほど!」
「え、なに」
「あれは、運命がそうさせたんですね!」
「は、はあっ? う、運命って、何?」
「運命は、運命ですね! ボク、運命を引き当てたので、たぶんそのせいです!」
「…………意味、分かんないんだけど」
でも、実際そのせいだと思うんですよね。
なんかこう、ぐぐっとした力がぐいっと働いたんだと思います。
「あ! いけません!」
「な、なによ……」
「今日も待ち合わせをしているんです! それではここで失礼します!」
「あっ、ちょっと……!」
ボクはバタバタと走って階段を駆け下りました。
そしてマンション横の公園の前に向かうと、メガネの女の子がすでにそこにいました。
「お、おはよう、ユメヒコ君」
「おはようございます!」
露璃さんです!
……おや?
ボクは露璃さんに駆け寄ると、なんだかどこか、素敵な感じがすることに気づきました。
「露璃さん、もしかしてですけど」
「う、うん」
「昨日プレゼントした香水、つけてくれてるんですか?」
「っ! そ、そうなの……。……どう、かな?」
ボクは、とても嬉しくなりました。
「とっても素敵です! ほんのり優しく香ってきて、露璃さんにピッタリ似合っています!」
「ほ、ほんと……?」
「はい!!」
露璃さんが、顔を赤くしてモジモジしています。
それから「それなら、今後もたまにつけるね……」と言いました。
「それじゃあ、学校に行きましょうか!」
「うん。行こっか」
ということで、昨日のダンジョンでのことを話したりしながら、2人で並んでてくてく歩きます。
「今日の1時間目の授業は、なんでしたっけ?」
「英語だよ、ユメヒコ君」
「英語! ボク、英語の授業って好きなんですよね〜。今よりもっとたくさんの人とお話できるようになるのが、嬉しくて」
「ふふふ。ユメヒコ君らしいね。でも、そのためにはちゃんと勉強して、テストで赤点取らないようにしないとだよ」
「はい! 頑張ります!」
さて、学校に着きました。
グラウンドのほうを見てみると、陸上部の方たちが朝練をしていました。
「今日も頑張ってますねぇ〜」
陸上部は、この学校で一番規模の大きな運動クラブなんです。
ボクと同じ3年生の皆さんの中には、1年生の頃から大会で活躍してる方が何人もいます。
そして、その中でも特に活躍をしているのが、
「あー! ユメっちじゃん! おっはよーー!!」
今、ボクと目が合って手を振ってくれている、明るい茶髪をポニテにした元気ハツラツ女の子の、朝倉さんなのです。
朝倉さん、すごいんです!
100メートルでも200メートルでも400メートルでも速いですし、800メートルでも1500メートルでも3000メートルでも速いんです!
それに高く跳んだり遠くに跳んだりも上手で、とっても軽やかなんです。
「朝倉さーーん!! おはよーございまーーす!!」
「あははー! ユメっちも元気だねー!」
「朝練、頑張ってくださーーい!!」
「おっけーー!!」
ボクもブンブン手を振り返すと、朝倉さんは他の部員たちの中に戻っていきました。
「朝倉さんも、今日もすごい元気だね……!」
「はい! こちらも元気になっちゃいますね!」
「ユメヒコ君は、元から元気だと思うけど……」
「なんだかボクも走りたくなってきました! 露璃さん、先に教室に行っておいてください!」
「えっ!? ユメヒコ君!?」
ボクは、近くのベンチにカバンを置いてから、たたたーっとグラウンドに向かいました。
そして、ランニングしている陸上部の皆さんに混じって、しばらくグラウンドを走ったのでした。
▶︎▶︎▶︎
「ねー、ユメっちー。今朝はなんで急にランニングに混ざってきたの?」
放課後前の掃除の時間中、ボクは朝倉さんに話しかけられました。
朝倉さんは、ボクと同じく北校舎西階段が掃除区域になっており、毎週火、金曜日には、一緒に掃き掃除をしています。
「朝倉さんを見てたら、なんだか走りたくなったんです!」
「そうなんだ! 走るのって、楽しいもんね!」
ボクは、階段の踊り場でちりとりを構えます。
上からゴミとホコリを落としてきてくれた朝倉さんが、ホウキでさっさっと掃いてゴミをちりとりに入れてくれます。
「楽しいですね! けど、最近は、さらに楽しいことを始めたんですよ!」
「なになに? 歌? 踊り?」
「ダンジョン探索です! ほら!」
ボクは、スマホのモグール公式アプリを開いて朝倉さんに見せます。
Fランク探索者という文字を見て、朝倉さんが「おおー!?」と驚きました。
「ユメっち、探索者してるの!?」
「はい!」
「めっちゃすごいじゃん!」
朝倉さんの目がキラキラと輝きます。
そういえば、とボクは思いました。
「朝倉さんは、ダンジョンジョブを持ってないのですか?」
「あたし? 持ってないよ!」
ふむ、そうなのですね。
「けど、もしかしたら、そのうちジョブをゲットするかもしれませんよ!」
ボクが、運命を引き当てましたので!
「え〜、そんなことあるかな〜?」
「未来は分かりませんので! 朝倉さんも、ジョブを身につけたらボクたちと一緒に探索に行きませんか?」
「えー? うーん。あたしは、行かないかなー」
「行きませんか?」
「うん。だってあたし、走ってるほうが好きだし!」
そう言って朝倉さんは、にぃーっと笑いました。
なるほど!
ボクも同じように、にぃーっと笑い返しました。
「ははは! ユメっち、変な顔!」
「朝倉さんは、楽しそうで素敵な顔です!」
「へへへへへ〜!」
そんなこんなで掃除が終わり、自分のクラスに戻るとホームルームです。
「お前ら、来週からテスト期間に入るからなー。来月頭の期末テストに向けて、しっかり勉強するんだぞー」
「はい!!」
「ユメヒコー。お前が勉強熱心なのは、先生もよーく知ってる。……だから、数字で現れる分かりやすい成果を出せるように、……頑張れ」
そうして今日も学校が終わりました。
露璃さんは、図書委員会の活動で少しだけ図書室に行くそうなので、ボクは校門前で待つことにします。
「……ねぇ。ユメヒコ」
いつもの如く黒板を綺麗にしてから教室を出ると、隣の教室から出てきたナナさんに呼び止められました。
「ちょっと、いいかな」
ナナさんが、カバンの中から何かを取り出しました。
見てみるとそれは、トランプカードの束でした。
柄が同じなので、昨日も使っていたやつですね!
「今からアタシが、カードをひたすらシャッフルするからさ、好きなタイミングで止めてよ」
「良いですよ!」
「それで、止めたら、一番上のカードをめくってみて。……いくよ」
そう言うと、ナナさんはカードをシャッフルし始めました。
ボクは、ナナさんの手元をじっと見つめます。
「……ナナさん。そういえば、今日は爪の色が違うんですね」
「えっ? な、なに急に……」
「いえ。昨日とは、違う色に塗ってるんだなぁと思いまして。けど、今日の色も素敵だと思います。ナナさんって、指先までスラっと綺麗なんですね」
すると、ナナさんが照れたように目を逸らしました。
「……いいから、好きなタイミングでシャッフル、止めなよ」
「あ、そうでした。んーー、じゃあ、ストップです!」
「……ここね。それじゃあ、めくってみて」
言われるがまま、ボクは一番上のカードをめくります。
「……うっわ」
出てきたカードは、スペードのエースでした。
「…………マジかー。昨日の今日でこれは……」
「これって、どういう意味なんですか?」
「んーー? あー……。ちょっと、待って。少しだけ、気持ちの整理をさせて……」
ナナさん、腕組みしたまま目を閉じて、うんうん唸り始めてしまいました。
仕方がないのでボクは、ペコリと頭を下げて校門前に向かいました。
靴に履き替えて校舎から出ると、グラウンド横で準備運動をしている陸上部の皆さんが見えました。
朝倉さんと目が合うと、手を振ってくれたので、ボクも手を振り返します。
そして校門前で10分ほど待っていると、とてとてと駆け足で露璃さんがやって来ました。
「お待たせ、ユメヒコ君」
「お疲れさまです露璃さん!」
ボクらは2人で並んで歩き出し、ボクの部屋に向かうことにしました。
今日こそは、皆で新しいダンジョンに潜ってみたいですね!
……などと思っていたら。
「……おやっ?」
後ろのほうから、たたたたたっと誰かが駆け寄ってくる足音が聞こえます。
そしてすぐに、後ろから誰かに抱きつかれました。
「ユメヒコ!」
「えっ、へっ……!?」
露璃さんがビックリした顔をしています。
ボクに抱きついてきた誰かは、ボクからパッと離れると、
「やっぱりアンタ、アタシの運命の人みたい」
「ナナさん?」
「これから一生よろしくね、ユメヒコ」
ボクのほっぺたに、ちゅっと軽い感触がありました。
「えっ、えええええええっ!!?」
露璃さんが、とても驚いた顔をしています。
……ふむ。
「なるほど、そうなのですね。それなら今後とも、末永くよろしくお願いします!」
「ユメヒコ君!!?」
ということで。
ナナさんがボクたちの仲間になりました。
いぇいいぇーい!!




