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020・新しいお部屋が拠点になりました!


 翌日、金曜日。

 放課後になって、4人で善野不動産に向かいました。


「ただいま、父さん」


「やぁ、おかえり。……それと、いらっしゃい。物件は決まったのかな?」


「こんにちは、善野さんのお父さん! これ、つまらないものですがー」


 ひとまずボクは、善野さんに教えてもらった、善野さんのお父さんが好きなお店の手土産用お菓子セットを差し出し、深々と頭を下げました。


「……ふむ。ありがたくいただくよ」


 そして、善野不動産の事務室内に入り、斎藤さんが切り出します。


「本日は、お時間をいただきまして、ありがとうございます。あらためて、物件の相談に来ました」


「相談、というのは?」


「はい。まず、予算が決まりました。家賃は1部屋あたり月25万円以内。場所はなるべくここから近いところ。築年数は気にしませんが、広さは少なくとも3LDK以上。三階以上で、けどあまり高層階ではない部屋を、横並びで()()()借りたいです」


「……なるほど」


 善野さんのお父さんは、()()と財布が入ったカバンの紐を、命綱みたいに握り締めてガチガチになっている深森さんをチラリと見ました。


「露璃から、少しだけ聞いたよ。君たちは探索者のようだね。そして、露璃も君たちと一緒に、ダンジョン潜りをしている、と」


「はい」


「……親としては、露璃にはそんな危ないことはやめてほしいと思っている。だが、それと同時に、ここ数日の露璃の様子を見ていると、君たちと過ごす時間が、この子にとって何にも替え難い素晴らしいものとなっていることも、分かる」


「善野さんは、すごいんですよ! ボク、善野さんと探索するの、とっても楽しいです!」


「……楽しいのは、良いことだ。だが、君たちは。……もしものことがあっても、露璃を守れるのかい?」


「? もちろんです。斎藤さんはガシンと守りますし、深森さんはギランと守りますし、ボクも、ポコンと守りますよ? それに、善野さんもボクたちをぐにょーんと守ってくれるので、おあいこです!」


「……ぐにょーん?」


「はい! それに、ボク、ちょっとお勉強が苦手なので、今度善野さんにテスト範囲のことを教えてもらおうかと思ってます。善野さん、教えるのがとっても上手なんですよ! この間も、善野さんに薦めてもらった本がとっても面白くて、お昼休み中ずっと読んじゃいました!」


「……そうか」


 善野さんのお父さんが、善野さんを見ました。

 善野さんは、すごく真剣な表情をして、頷きました。


「それなら、露璃の父として、君たちには最大限に協力しなくてはね。……少し待っていなさい。条件に合う物件を、いくつかリストアップしよう」


 そうして、善野さんのお父さんから、数枚の物件情報を手渡されました。


 そして、その中のひとつに、赤ペンで花丸がついていました。


 これは?


「いくつか候補を出したが、……総合的に考えれば、ここが一番良いと思う。1部屋あたりの家賃も、共益費等込みでギリギリ予算内だ」


「なるほど!」


「ちょうど、内見用の鍵も預かっている。今から皆で、見に行ってみるかね?」


「はい! ぜひ!」


 ということで、その物件とやらに行ってみることにしました。


 場所は、善野不動産から徒歩2分。


 というか、善野さんの家のほんとに目と鼻の先ぐらいに建っている、少し古びたマンションでした。


「建物はやや古いが、内装は最近リフォームが入っているし、なによりセキュリティがちゃんとしている。防犯カメラやオートロックはもちろん、管理人兼ガードマンの方が常駐しているからね」


 3つ並んだエレベーターの1つに乗って、三階へ。


 ボクらが案内された部屋は、306と書かれた部屋でした。


「ここならちょうど、隣の305も空室だ。横並びで貸せるよ」


「奥にも、もう一部屋あるんですね」


「そちらの307には、別の方が住んでいるね」


 なるほど。


 確かに、部屋の前にJUNGLEとか楽珍とかの小包みがたくさんあります。

 あと、外国語が書かれたぶ厚い封筒とかもありますね。


 とか思っていると、善野さんのお父さんが、306号室のカギをガチャリと開けてくれました。


「さ、どうぞ。上がってごらん」


 そんなわけで、306号室に入ってみました。


「おおー! 広いですー!!」


 短い廊下を奥まで抜けると、広々としたリビングが!


 窓は天井近くから床まであって、お日様の光がたっぷりと入ってきています。


「床はフローリングか。天井もたけーな」


「壁も厚いぞ。これ、わりと防音もしっかりしてる?」


「あ、キッチンは対面式のオール電化だよ。食洗機も付いてる」


 ボクは、トイレをガチャっと開けて、感動しました。


「すごいですよ! お風呂とトイレが別で、トイレはウォシュレット付きです!!」


「なにい! マジか!」


「おおー、文明だ。僕らのとこ、ちゃちなユニットバスだもんな」


 他にも色々と見てみましたが、ボクたちの意見は一つでした。


「ここにしましょう!」


「そうだな」


「うん!」


「父さん、お願い」


 満場一致で、決定です。


「それなら、戻って契約の話だね」


 善野さんのお父さんとともに、善野不動産に戻ることにします。


 それで、一階に降りて郵便受けのところを通るときに、管理人さんらしき人が、307と書かれた郵便受けから大量のチラシやハガキを取り出しているのが見えました。


 管理人さんは、善野さんのお父さんにペコリと会釈をすると、エレベーターで上がっていきます。


「……おや?」


 なんか、頭の中の声たちがザワザワしている気がします。

 なんでしょうか……?


「おいユメヒコ、ぼーっとしてないで行くぞ」


「あ、すみません。今行きます!」


 しかし、よく分からないのでとりあえず今は契約です。


 ボクはたったか走って皆さんに追いつき、善野不動産に戻ったのでした。




 ▶︎▶︎▶︎


「おおぅ……。これ、やっぱり僕名義の契約になるのか……?」


「あたりめーだろ。お前がウチの金庫番なんだからよ」


「さ、こことここにサインを」


「うぐぅ……。敷金礼金込みで、一度に100万超えの大金が動く契約……。毎月50万の家賃……」


 深森さんが、ちょっと青い顔で契約書を見つめます。


 それからゆっくりとペンを手に取り、カリ、カリと丁寧に、305号室と306号室の賃貸契約書にまとめてサインをしました。


「……あ゛ー! 名前、書いちゃった……!」


「次にこちらに、引き落としの口座番号と契約者名を。書けたら銀行印の捺印もね」


「えっと、通帳、通帳……」


 深森さんは、カバンから通帳とハンコを出しました。

 通帳には「ユメヒコ組 経理担当 深森 初月」と書かれています。


「ほう。D銀の口座か。しかもきちんとパーティー名義のものだ」


「えぁっ、はい……。今日の朝イチで統括局行って、作ってきました……」


 そのあとも、深森さんが何か色々な書類に名前を書いていましたが、ボクにはよく分かりませんでした。


 ただ、とても大切で、大きなお金の動く契約だということは、分かりました。


 そして翌日。土曜日。

 今日はお引っ越しの日です!!


 といっても、たくさん買ってきた段ボール箱にそれぞれの荷物をぎゅっぎゅっと詰めて、ボクの所持品コマンドにポイポイっと入れるだけなんですけどね。


「便利だなー、お前のそれ。業者いらずじゃねーか」


「限界とかないんだろうか」


【確かに、ゲームではいくらでもアイテム持てるもんな】


【こういうところは、普通にチートだよな】


 そして引越し先の新居に来ると、それぞれが選んだ個人用の部屋に荷物を置き、最低限の荷解きをします。


 ちなみに、305が斎藤さんと深森さんの部屋で、306がボクの部屋とユメヒコ組の事務所扱いです。


「あ、ユメヒコくん、配信用機材はこっちの部屋にお願い」


 305の空いてる一部屋は、深森さんの配信部屋です。

 実は、ボクの個人部屋の壁向かいなので、ベランダ側からひょいと様子を見ることもできます。


「もう使わない家具とか家電は、306の空き部屋にまとめとこうぜ」


「残りの一部屋は、お客様用ってことにしようか」


 使わない物なら、ボクの所持品コマンドに入れっぱなしでも良いのでは?


「いや、お前が学校の時とかもあるし、もし、実は限界があるとかで、ダンジョン内でのいざという時に邪魔になっても困るからな」


「なるほど」


「あと、俺はそういうのに甘えると、いくらでも預けっぱなしにしちまうからダメだ。そのうち生活ゴミまで預けだすのが目に見えてる」


「お前、そういうのは自覚あるのに、直せないんだな……」


【ウグイスちゃん、基本ガサツだもんな】


 そして、一通り荷解きをして、あらためて元のアパートの掃除をして、


 斎藤さんと深森さんとの3人で、近所の中華屋さんでラーメンを食べて、広くなったお風呂に入って新しい部屋でお布団に入ったところで、


『拠点が拡張されました。編成及び待機ユニットの総数上限が増加しました』


『拠点拡張ボーナスとして、10連ガチャチケットを1枚進呈します!!』


 という表示が出て、ボクは、ここがボクの新しい住処なんだな、という実感が湧いたのでした。




 さらに翌日。

 日曜日です。


 この日は可愛い私服姿の善野さんもやってきて、4人でお買い物です。


 というのも、


「せっかくだから、ユメヒコの部屋のリビングにデカいテレビとか置こうぜ! あと、新しい家具とかも買おうぜ!」


 と、斎藤さんが言い出したのです。


 なので、レンタカーを借りて、斎藤さんの運転で少し遠出して買い物をすることになりました。


「深森。クレカ貸せ。どうせお前のことだから、D銀の口座作る時にクレカ機能付きのキャッシュカード勧められて、断れなかっただろ」


「な、なんで分かるんだよ! というか、お前に渡すとなんでもポイポイ買っちゃいそうだから、僕が持っとく!」


「ちっ。まぁ、しゃーねーか」


 そんなわけで、皆でワイワイしながらお店を回り、新居用の家具や家電を買いました。


 ちなみに、全ての部屋のカーテンはボクが決めました。


 遮光カーテン、憧れてたんですよね。


 そして新居に帰ってきて、買ってきた棚やテーブルを組み立てて、ソファセットや、テレビやゲーム機を置いて、


 近くのスーパーでお菓子や飲み物を買って、宅配ピザを頼んで、皆で新居祝いパーティーをすることにしました。


 それでは皆さんご一緒に。


「かんぱ〜〜い!!」


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