019・家賃が高いので、皆で稼ぎます!
拠点を拡張とは、いったいどういう意味なのでしょうか?
「拠点って……、なんですか?」
「いや、知らねぇよ。……家とか、職場とか?」
「ゲーム的に考えると、クエストを受けるところだよね。集会所とか、ベース基地とか」
「皆で集まれる場所ではないでしょうか? 教室とか、図書館とか」
「じゃあ……、まとめると、ボクの部屋ってことですかね?」
確かに、あの6畳一間のボロアパートは、狭いとは思いますが。
【だいたい合ってる、……のか?】
【確かに、ダンストでもそういう要素はあったんだなもし】
【せやな。ユニット数上限を解放させたら、ホーム画面の背景が広くなるやつや】
なるほど、つまり。
「ボクの部屋を広くすれば、もっと皆が集まれるようになる、と」
「広くっつってもよぉ……」
「ゲームみたいに、勝手に部屋を改造とはいかないだろうし」
「あ、それなら」
善野さんが、ひょこっと手を挙げました。
「私の父さんが、不動産屋をしているんだけど、相談してみますか……?」
ボクと斎藤さんと深森さんは、揃って「おお!」と言いました。
「それです、善野さん! さっそくお父さんにご挨拶しましょう! 案内してください!」
「えっ! 父さんに挨拶……!?」
「善野、そういう意味じゃないから安心しろ」
「善野ちゃん、純情過ぎる」
【ツユリちゃん、マジ天使】
ということで、皆で一階に降りてみると、どうやら店仕舞い間近だった善野さんのお父さんに会うことができました。
「ふむ。そちらのお嬢さんたちが、新居を探している、と」
善野さんのお父さんは、白髪混じりの黒髪に、豊かな口髭を蓄えたダンディなオジ様でした。
きゃぴきゃぴした様子のお母さんとは、なんだか対極な感じの方ですね。
「おい深森、大丈夫か?」
「ろ、ロマンスグレーのヒゲダンディ……! ……推せる」
「しっかりしろよ。……あー、ゴホン。お、いや、私たちは、露璃さんのお友達をさせてもらっています。私が斎藤、こっちのフラフラしてるのが深森、そっちの男の子が、ユメヒコ君です」
すると、ボクの名前を聞いた善野さんのお父さんの眉が、ピクリと動きました。
「ほほう。君が、ユメヒコ君か。初めまして。私が露璃の父の、善野 弾定です」
「初めまして! 歌方夢彦です!」
「……君の話は、露璃からよく聞いているよ」
「おや、そうなのですか?」
「と、父さん……!?」
善野さんが、なんだか慌てています。
「いや、失礼。その話は、またいずれかに。ところで、今より広い部屋を探しているという話だったね。具体的な条件などは、あるのかな?」
「ここから近くて、なるべく広くて、すぐに入れるところ、というぐらいです」
「ふむ。予算は?」
「えっ。あー……」
「仮に、今の条件をもとに絞るなら……」
善野さんのお父さんは、事務机からノートパソコンを持ってくると、カタカタと打ち込みました。
そして、画面に出てきた物件情報を見せてもらいましたが、
「家賃、毎月30万以上……!?」
「は!? いや、無理だろ……」
「ボクらのアパートの10倍ぐらい……」
とんでもないお値段ばかりです。
新しい家が建ちそう!
【いや、さすがに建たないだろ】
「これは、高額なものから出しているから、探せばもう少し安い物件もあるだろう。しかし、少なくとも月20万円以上。君の言う条件なら、そこが最低ラインだ」
「それでも20万……」
「年収いくらの人間が住むところなんだ……?」
「毎日1万円は稼がないとダメですかね?」
「……まぁ、今すぐ決めるという話でもなし。ウチで扱える物件情報を印刷してあげるから、持って帰って検討してごらん」
カタカタ、タン。
大きなプリンターがウィンウィン動いて、たくさんの紙が出てきました。
ボクらは紙束を受け取って、本日はアパートに帰ることに。
すると、見送りに出てきてくれた善野さんが、なぜか申し訳なさそうにしています。
はて?
「ごめんねユメヒコ君。その、父さんが……」
「ああ、はい。善野さんのお父さんのおかげで、次にすべきことが見えましたね」
「えっ?」
ボクは、もらった物件情報の紙束をポンと叩いて言いました。
「つまり、ここに載ってるお家に住めるぐらいのお金を稼げと、そういうことですよね!」
「相変わらず簡単に言う……。けどまぁ、それしかないよな」
「家賃30万円かー……。頭金だけで、最低いくら必要だ……?」
よく分かりませんが、たくさんです!
「明日からは、皆でたくさん稼ぎましょう! えい、えい、おー!」
そうして、今日のところは6畳一間のアパートに帰ったのでした。
▶︎▶︎▶︎
翌日。
学校のお昼休み。
ボクは、善野さんと一緒に図書室にいました。
「善野さんって、ザ・図書委員って感じがして、素敵ですよね」
「ふえっ……!?」
委員会活動で図書室に行く善野さんについていって、ボクも図書室に来ているのです。
そして、何も読まないのも本棚に失礼かと思い、新刊コーナーに刺さっていた月刊現代ダンジョンという雑誌を読んでみます。
ふむふむ。
……漢字が、多い……!
「むむむむむ……!」
ボクはしばらく雑誌とにらめっこしましたが、気がつけば息をするのを忘れていて、あやうく気絶するところでした。
「ユメヒコ君、大丈夫?」
「はい、なんとか。けど、緑の小鬼より強敵でした……」
「そ、そうなんだ」
ボクもいずれは、スラスラと本が読めるようになりたいですね。
「それなら、これとかどう? かいけつジロリシリーズ!」
「あ、懐かしい! これならボクでも読めそうです!」
ボクは大喜びで善野さんが薦めてくれた本を読みました。
昼休みいっぱいまで本を読んでいたら、いつの間にか善野さんが、ニコニコ顔でボクを眺めていました。
はて?
ボクの顔を見て、面白いですか?
「え、うん。私が薦めた本を、熱心に読んでくれてるなって思って」
「当たり前ですよ! せっかく善野さんが薦めてくれたんですから! それに、面白い本って、素敵ですよね」
「……うん、そうだね」
それから、午後の授業があって、掃除の時間があってから、放課後。
ボクと善野さんは、ボクの住むアパートに向かいます。
「とりあえず、日中の間は斎藤さんたちも色々考えてやってみる、と言っていたのですが」
ただいまー、とドアを開けると、
「……ユメヒコおぉ……」
「ユメヒコぐうぅん……」
意気消沈した様子の2人のお姉さんが、真っ白な灰になって畳に寝転んでいました。
「2人とも、どうしたんですか?」
「俺……、短期の肉体労働バイト探して、飛び込みで働きにいったんだけど……。つい、そこのムカつく先輩殴っちまって、1時間でクビになった……」
【ウグイスちゃん、いくらなんでも手ぇ出すの早すぎるでしょ】
【そういうところは、マジヤンキーよな】
「僕も、久々にファミレスとかでバイトしてみようとして……、けど、面接でボロカスに言われて、雇ってくれなかった……」
【ハヅキっち、なぜ慣れないことに手を出すのか……】
【まともな人間になりたい、って気持ちの現れなんやろなぁ】
「つまり、お二人とも普通に働こうとして、上手くいかなかったということですか?」
「ああ……」
「うん……」
「あの、普通に働いたのでは、月20万の家賃は無理なのでは……?」
善野さんの言葉に、2人は揃って撃沈しました。
うーん、そうなると。
「今から皆でダンジョンに行きますか? なぁに、この4人でならどんな高難易度ダンジョンでも狙えますって」
「いや……、俺たちのランクだと、そんなたくさん稼げるところには入れねぇよ」
「少し調べたけど、休みの日に丸一日潜って、パーティー全体で10万円いくかどうかって感じらしいよ」
ふーむ。
頑張れば、いけなくはなさそうでしょうか。
「けど、ユメヒコ君。もうすぐテスト期間だよ」
「たしかに! お勉強も頑張らないとですよね」
ボクらの本分は勉学に励むことですもんね。
それに、善野さんにもお勉強を教えてもらわないとですし。
「もっと短期間で、たくさん稼げる方法はないでしょうか」
「うーん……。治験とかのヤバい橋を渡るのは、さすがに怖いしなぁ」
「き、キン鉄′15、……売る? ……いやいやいや、さすがに、やっぱり……! いや、でも……!」
「不要な物なら、フリマアプリで売ったりとか……?」
4人で頭を捻って、あーでもないこーでもないと意見を出し合います。
あ、閃きました!
「そうです。大金といえば、宝くじですよ!」
確か、一等が出たら6億円とかのやつがあるのでは!
「いや、スーパー夏ジャンボなら、当たればそうだろうけどよ……」
「販売は7月からだから、どの道まだ買えないよ」
「すぐ買えるものなら、スクラッチくじとか、ルト6とか……?」
そうですかー。
それなら、お馬さんとかは?
「競馬もなー……。あれは運じゃなくて、知識量の勝負だしなぁ……」
「パチンコとかも、毎回当たるもんじゃないんだろ……? あとは麻雀? ネット対戦ならたまにするけど、実牌は触ったことないし……」
「お2人とも、意外と詳しいんですね……」
どうしましょうねー。
とりあえずこの日は、深森さんにお願いしてルト6を一口だけ買ってもらいました。
【全裸教!!!】
数字は、お手製あみだくじを使って、全裸になって選んだ数字にしてもらいました。
当たりますよーに。
翌日。
またしても斎藤さんと深森さんはアルバイトに挑み、見事に撃沈したようでした。
「俺、やっぱ普通に働くのは無理だ……」
「僕も……。社会に適合できない……」
お二人は、ダンジョンに適合できてるから大丈夫ですよ。
「私も、なかなか良いアイデアが浮かばなくて」
「お金を稼ぐのって、難しいんですね……」
4人で揃って、はぁ、とため息が出てしまいます。
「……よし! ものは試しです! どこか、素早くクリアできるダンジョンに行ってみましょう!」
斎藤さん、良い感じのところは知りませんか!
「んー……。まぁ、そうだよな。俺たち、探索者だもんな」
「地道にダンジョンをクリアして、ランクとジョブレベルを上げていくのが、結局最短ルートなんじゃないか?」
「私たちなら、きっとどんなところでも大丈夫だよね」
ということで、ボクらは斎藤さんの案内で「コボルトダンジョン」という二足歩行の狼が出てくるダンジョンに行き、
「おらあっ!!」
と、狼たちをボコってクリアして出てきました。
『コボルトダンジョンのクリア達成!』
『初踏破ボーナスとして、10連ガチャチケットを1枚進呈します!!』
今回のアガリは!?
「……合わせて、1万と400円だ」
「やっぱり少ない……!」
「けどもう、こうするしかないもんね……」
とりあえず、毎日潜れるダンジョンに潜ってみて、今週末はまだテスト期間ではないので、土日とも、もう少し難しいダンジョンに潜ってみましょう。
そしてそこでの稼げ方を確認して、来週からの動きを確認してみましょう……!
「おう」
「うん」
「分かった」
ということで、この日もヘトヘトになりつつ、皆で一旦ボクの部屋に。
「そういえば深森さん。昨日買ったルト6って、いつ当選発表なんですか?」
「えー? ……あっ、今日だ。もう抽選した数字が発表されてるね」
ほんとですか?
どれどれ……。
ボクは、深森さんと一緒にスマホの画面を見てみます。
本数字
03、11、17、23、29、31
ボーナス数字
02
えーっと、ボクが選んだ数字のメモが、
29、02、11、31、03、17
「……ん?」
えーっと、同じ数字は、02と、03と……、
「…………んんん?? ……はっ? えっ……???」
11と、……17も同じ?
「いやいやいや……、えっ、……ええっ!?」
「うるせーぞ、深森」
「どうしたんですか?」
あとは、29とー……、31も同じで……。あー、そうか。
「残念、23だけ足りませんね。惜しくもハズレです」
「……いや、全部合ってるじゃん!!?」
「うわっ、びっくりしました」
「ユメヒコくん!! ユメヒコくん!!?」
深森さんが、スマホの画面を指差したまま目を見開いて口をパクパクさせています。
そして、ヘナヘナヘナ〜、と腰が抜けたように座り込んでしまいました。
「おい、本当にどうした??」
「えっ、今、全部合ってるって言いました……??」
「あた、当たっ、あたたたたたた…………!??」
「いえ、数字が一つ足りないので、当たってないですね」
「当たってるんだよぉ!!? これ、当たってるの!!!」
なぜか立てなくなってる深森さんが、ものすごい表情で斎藤さんと善野さんにスマホの画面を見せました。
「…………おい、マジか」
「えっ……、これって、どうなるの……??」
深森さんは、震える指先でスマホをスクロールすると、画面の一点を指差しました。
2等▶︎申込数字が本数字5個と一致し、更にボーナス数字1個と一致。
「2等……!?」
「に、2等って、……いくらになるんですか……!?」
そのまま、つい〜っとスクロールすると、
2等・当選者数、4口。
当選金額、10,020,100円。
「い、い、……1000万円、当たってるんだよぉ!!? ……あふぅっ」
そのまま深森さんはバターンと倒れて、泡をふいて気絶してしまいました。
……ふ、深森さーーん!?




