016・泣いて、笑って、ユメヒコ組結成です!
「いや〜、悪い悪い。まさかユメヒコが、女友達を連れてきてたとはな」
「うう゛っ、ひっぐ、ぐすっ……」
善野さんを見るなり台所の蛇口全開で頭から水を被ってシャキッとしてきた斎藤さんと、今もしくしくと泣いている深森さん。
折りたたみテーブルの前に並んで座った2人の対面に、すごく困惑した様子の善野さんが座りました。
「粗茶です!」
ボクは、近くの自販機で買ってきた「お〜い、粗茶」をコップに注いで3人の前に出し、3人の間に座ります。
「ひとまずお互いに自己紹介が必要かと思うのですが。ボクは歌方夢彦です」
「いや、お前は皆知ってるだろ……。俺は斎藤金衣鳥だ。よろしくな」
「ひっぐ、ずずっ……。僕は、深森初月ですぅ……」
「えっと、私は善野露璃です。ユメヒコ君の、クラスメイトです」
「お、そうか。アンタが善野なんだな」
「え? はい。あの、私のことを知ってるんですか?」
「ああ。隣の席の女の子で、いつもお世話になってるって、ユメヒコが言ってたからな」
おや、そんなこと言いましたっけ?
けど事実なので、たぶん言ったんですね!
「そ、そうなんですね」
善野さんがなんだか嬉しそうにソワソワしてます。
「しかも、ダンジョンにも潜れるって話なんだろ? じゃあ、これからは仲間だ。あらためて、よろしくな」
「は、はい」
「さっきまで、さっそく2人で潜ってきたんですけど、善野さん、すごかったですよ!」
「はっ……? お前はまた、そういう無茶を……」
「でもすごかったんです! こう、お水でヒョイっとしたり、ぐつぐつにしたり!」
「要領を得ねぇな……」
「あと、いっぱいくんくんしてました! おかげで道に迷わずにすみましたよ!」
「ゆ、ユメヒコ君……!?」
善野さんが、なぜか「しー!」と指を立てています。
斎藤さんは何かを察したように「まぁ、無事に帰ってきたならいいけどよ」と言いました。
「色々たいへんだったろ。コイツ、すぐに無茶するからな」
「あ、その、……はい」
「まぁ、そのへんも含めて、今後ともよろしくな。頼むぜ、善野」
「よ、よろしくお願いします」
ボクは、カバンを机に置いてチャックを開けました。
「マナ石もこんなに手に入りましたよ!」
「お、これはマジですごいじゃねーか! 安い粒だが、こんだけあればそれなりの値段になるな」
「これもほとんど、善野さんがゲットしてくれたんですよ!」
「そうかそうか。お前らも、頑張ってきたんだな。……俺のほうも、話はつけてきたぜ」
「お、それなら!」
「ああ。前のパーティーは抜けてきた。これからは、正式にこっちのモンだ。……つっても、向こうはむしろ喜んでたけどな。役立たずがいなくなってせいせいするって」
斎藤さんが、少しだけ寂しそうな表情を浮かべました。
「ツレで、ダチだって思ってたんだがな。どうやらそれは、俺だけだったらしい」
「斎藤さん……」
「……大丈夫だよ。俺の中でも区切りはついた。帰ってきたときはムシャクシャして、酒飲んじまったけど。……ユメヒコとか深森の顔見たら、なんか吹っ切れた」
「それなら、良いのですけど……」
「良いんだよ。俺のほうは。……問題は、コイツだ」
そう言うと、さっきからずっとえぐえぐ泣いてる深森さんの肩を叩きました。
「おい、俺が言うのか。それとも、自分で言うか」
「ひぐっ、……ぐすっ。……自分で、言う」
「そうか。頑張れ」
「今日……、僕も、あらためて釈明配信をしたんだ。ユメヒコくんは、大事な仲間なんだって。……けど」
深森さんは、自分のスマホをテーブルの上に置いて、こちらに向けました。
ボクと善野さんは、一緒に画面をのぞき込みます。
「……また、荒らされた」
「なるほど」
「え、これって……」
「配信の様子を、色んな奴が切り抜きしてショート動画にしてる。サムネも、タイトルも、悪意満載だろ……」
並んでる動画たちをたらら〜っと流して見てみると、確かにまた深森さんへの悪口ばかりが並んでいるように見えます。
「やっぱり僕は、ダメなんだ……。昔から見てくれてた奴らは、まだ信じてくれてたけど、それでも……」
でも。
「この動画とかは、深森さんをかばってくれてるのではないですか?」
「……えっ? ど、どれ!?」
ボクは「ミカヅキちゃん、無罪だった!」というタイトルの動画を再生します。
内容的には深森さんが、先日のことは誤解でボクはただの隣人、けど今は一緒にダンジョン探索する大事な仲間になった、ボクは未成年なのでこれ以上荒らさないでほしい、ということを泣きそうな顔で言ってくれてるシーンを集めたものでした。
そして、深森さんの発言に合わせて「ミカヅキちゃん誠実!」とか「今までで一番イケメソ発言!!」とかの大きな文字がバーンと出てきます。
「これ……、作ったの、星村ちゃんだ……」
「お友達ですか?」
「うん……、配信仲間で、何度かコラボしたことある……。あの時も、コメントしてくれてた……」
深森さんの目に、また涙が浮かびました。
「この動画のコメント欄、いつも来てくれてた皆が、コメしてくれてる……! 頑張れ、負けるな、一生推すよって……! う、うぅぅうぅ〜〜……!」
感極まったような様子でボロボロと泣き出した深森さん。
「良かったじゃねえか。見てくれてる奴は、ちゃんといるぞ」
「うん……、うん……!」
「あとはお前次第だ。荒らしのカスどもなんか、見返してやろうぜ」
「うん……!」
斎藤さんが、深森さんの背中を優しく叩きます。
深森さんは、ぐしぐしと涙を拭いました。
「ぐすっ……。ごめんよ、見苦しいところを見せちゃった」
「いえ、そんな」
「僕も、もっと頑張る。ユメヒコくん、善野ちゃん。僕は、泣き虫で頼りないかもしれないけど、それでも君たちに負けないように、頑張るね」
「深森さんは今までも、とっても頑張ってましたよ」
「うん。それでも。君たちと一緒に、頑張る」
「分かりました! これからも、よろしくお願いしますね!」
すると善野さんが、おずおずと手を出しました。
「あの、詳しいことは分からないけど。たぶん貴女は、戦ってきたんだと思います。……私も、まだあんまり自分に自信はないけど……、これからは、きちんと戦おうと思います」
「善野ちゃん……!」
「一緒に潜る、仲間になるんですよね。私のほうこそ、よろしくお願いします」
「うん!」
深森さんと善野さんも握手をしました。
それなら、ボクも!
「善野さん! ボクとも握手してください! お2人だけはズルいですよ!」
「ふふっ、良いよ。ユメヒコ君も、よろしくね」
「はい!!」
ということで、この日はそれぞれの家に帰りました。
そして翌日。
あらためてボクの部屋に集合し、4人でてくてく街を歩きます。
「統括局の窓口ってのは、ダンジョンを管轄する役場の中にあるんだ。だからマナ石の買い取りとかも、ここに持ってきてる」
市役所に着きました。
そして、裏手の広場を抜けて、別館に入ります。
斎藤さんは、昨日のネズミたちからゲットした344個のマナ石を換金してくるとのことで、換金窓口へ。
ボクと深森さんは、一度来たことがあるという善野さんの案内で、探索者の登録窓口に来ました。
用紙に必要事項を書いて、レジのピッとするやつみたいな機械で紋章を読み取ると、登録ができるようです。
「んーー? 君、なんか変なジョブだね!」
「ありがとうございます!」
「褒めてるわけじゃないけどなー! まぁいいや。ジョブはジョブだ。ほい、登録っと」
こうして、ボクや深森さんも探索者登録ができて、揃ってFランクになりました。
善野さんもFなので、Eランクの斎藤さんが最上位者ということですね。
「おおーい、換金できたぞ。ユメヒコ、善野。1万ずつな」
すごい!!
お年玉みたいな大金です!!
「ちょこちょこ良いのが混じってたみたいで、3万7500円になった。残りは深森が持ってろ」
「は!? 僕!?」
「パーティーとしてのカネは、別で管理するもんだからな。で、俺は金持ってるとパーっと使っちまうから、お前が管理しろ」
「ええっ……、まぁ、良いけどさ」
「さすが斎藤さん、ピシッとリーダーしてますね」
「あん? いや、リーダーはお前だろ、ユメヒコ」
「えっ? ボクですか?」
「ああ。俺はリーダーってガラじゃねーよ。それに、このパーティーはお前が集めたメンツだろ」
ボクが見回すと、深森さんも善野さんも頷きました。
「分かりました! じゃあ、今からボクたちはユメヒコ組ということですね!」
「ド直球だなぁ……。けど、分かりやすくて良いか」
そんなわけで、パーティー登録もします。
窓口に書類を出して、ボクも編成画面でお三方を編成しました。
すると。
『SR:空手家ヤンキー・斎藤 金衣鳥、UR:溟い熱視線・深森 初月、UR:水竜舞姫・善野 露璃を編成しました』
『同時編成ユニットが3体に到達しました。指揮官のレベルが上昇します!』
という表示が!
ボクは自分の顔のアイコン(もしゃもしゃ黒髪の男の子がニコニコダブルピースしてるやつです)をタップします。
・歌方 夢彦 15歳
職業:指揮官・レベル2
資質↓
知力:5
心力:35
技力:15
速力:35
筋力:10
体力:30
指揮官適正:95
幸運度:60(+5)
特性↓
・メニュー機能
・IQ53億
ダンジョンステータス↓
HP:80/80
MP:90/90
攻撃力:5
防御力:40
魔法力:3
抵抗力:35
素早さ:75
スキル↓
・びしっと指揮する
・棒で叩く
・スライディング
・ジャンプ
・くるっとターン
お、おおおー……!
攻撃力が、5になってます!!!
やった!
1.5倍以上だ!
「よし、パーティー登録も完了したぞ。……どうした、ユメヒコ?」
「斎藤さん! それに皆さん! 今から昨日のダンジョンに行きましょう!」
「は? マジでどうした??」
「行きましょう! 早くはやく!!」
「え、ほんとに行くの?」
「けど、昨日よりは大勢だから、大丈夫かな……?」
待ってろよ、ネズミたち!
今から皆で、リベンジです!!




