015・ピンチと撤退で、汗と涙のハンカチです!
大量のネズミたちがゾロゾロやってきて、すぐそこまで迫ってきています。
大ピンチです!!
「水、今、捨てちゃったのに……! それにもう、MPが……!?」
善野さんが、いつになく慌てています。
それを見たボクは、ヘルメットをクイッと被り直し、ネズミたちに向かって3歩ほど前に。
「大丈夫ですよ、善野さん」
「ユメヒコ君……?」
「ボクが時間を稼ぎますので。善野さんはこれを飲んで、なんか上手いことできそうな脱出案を考えてください!」
ボクは所持品の中からマナポーション(低)を取り出して善野さんに手渡し、ピロピロ笛をくわえます。
「ほらほらネズミども! 笛の鳴るほうへ〜! ピロピロピロピロ〜〜!!」
「ユメヒコ君!?」
ボクは笛を吹きながらネズミの群れに向かって突っ込み、ネズミたちの目の前でピョインと大ジャンプ!
新しいスキルの「ジャンプ」です!
普通にジャンプするよりも、はるかに高く飛び上がれます!
「ピロピロピ〜〜!」
ネズミたちのど真ん中に着地!
と同時に再びピョインと大ジャンプして、善野さんにネズミを近づけないように引きつけます。
「あわわわわ……!? ユメヒコ君! ……んぐっ、んぐっ、んぐっ、ぷはっ! えっと、どうすれば、どうすれば……!!」
ピョインピョイ〜ン、とバッタのように飛び跳ねつつ、ネズミの群れを引きつけます!
「……さっき捨てた水! 量が多いから、まだ完全には混ざり切ってないかも……! でも、泥水を動かしても向こうには渡れなかった。渡るのに必要なのは……、足場?」
ピョインピョイ〜ン!
あ、ちょっとズボンの裾を噛まれました!
というか靴も!
なんか着地のたびにガジガジされてます!!
「深さは、さっき見た。向こう岸まで10メートルぐらい。水面ギリギリ、幅もギリギリ、脚はアーチ状を3本で、必要な部分だけ液温変化させて……!」
飛んで、跳ねて、着地と同時にくるっとターン!
……あ、普通に跳ねたほうが良かったかも!
いたたたたたー!?
足に噛みつかれてますーー!?
「ユメヒコくーーん!!」
ぴょい〜んと空中に逃げながら声のするほうを見ると、なんと善野さんが、いつの間にか泥沼の向こう側に渡っていました!
「善野さーん! どうやってそちらに!」
「氷の橋を作ったの! 橋脚部分だけ少し上に伸ばすから、そこを踏んでジャンプしてきて!!」
そう言われて泥沼を見てみると、確かに3か所ほどにピョコっと飛び出た氷の足場があります。
ボクは、再びのジャンプでネズミたちの群れの中心から飛び出すと、たたたっと泥沼に向かって走り、
ぴょん、ぴょん、ぴょ〜〜ん!
とジャンプを繰り返して、泥沼の中の足場を飛び跳ねて渡ります。
対岸に着地!
ボクも、MPがギリギリな気がします!
「今のうちに、ネズミたちを引き離そう……、って、嘘でしょ!?」
なんと、ネズミたちはそのまま次々と泥沼に飛び込んで、パチャパチャと水面から顔を出したまま、泥沼を泳いで渡ってきています。
ネズミって、泳げるんですね!!
これってピンチ続行でしょうか!?
ボクは、あらためてバットを握り締めます。
すると、善野さんがビックリしたような顔をしました。
「ユメヒコ君、脚が……!?」
言われて見てみると、靴とかズボンの裾がボロボロになっていて、赤く滲んでいました。
どうりで痛いわけですね!
けど、走ったり跳んだりはできたので、大丈夫でしょう!
ボクは、追加のマナポーションを取り出して、飲もうとしました。
再びここでネズミたちを引きつけて、善野さんが逃げる時間を稼ごうと思ったのです。
「……許せない」
「善野さん?」
「ユメヒコ君、それ、もらうね」
なんと、飲もうとしていたマナポーションがぐにょぐにょんと動き、善野さんの目の前に浮かびます。
【今、自分の涙を動かしてポーションに混ぜた?】
【ツユリ氏、発想が強いんだなもし】
そして空中に浮かんだマナポーションをゴクゴクと飲み干した善野さんは、泥沼に向けて両手を伸ばしました。
「水面から、30センチまで!」
瞬間、こちら岸の泥水の水面がコポリと泡立ちました。
そこからコポコポと泡立つ範囲がどんどん広がり、水面から熱い蒸気が立ち昇って視界がぼやけます。
あ、あつい……!?
熱気がここまで届いてきます!
「これ、泥水をアチアチにしてるんですか!?」
「煮えたぎれ!」
「ヂュヂューー!?」
「ヂュヂューー!?」
「ヂュヂュヂューー!?」
あとからあとから突っ込んでくる奴らもまとめて、ネズミたちの大群がマナ石になっていきます!
一網打尽です!
善野さん、すごすぎます!!
「はぁ、はぁ、はぁっ……!」
やがて、全てのネズミたちが泥沼に飛び込んでマナ石になりました。
善野さんは泥沼をぐにょにょっと動かすと、マナ石をまとめて岸に運んできてくれました。
ボクは急いでマナ石を集めます。
1個100円ぐらいのが、何百個とあるのです!
ポケットがパンパンになるまで詰めなくては!
「……あっ」
「善野さん!?」
限界が来たようになって、善野さんが膝から崩れました。
ボクは最後のMPでズザーっとスライディングして善野さんの下に潜り込み、善野さんを支えます。
「大丈夫ですか!?」
「ユメヒコ君、脚……」
「ボクはへっちゃらですよ!」
ほんとはちょっと痛いですけど!
でも、大丈夫なんです!
「善野さん、ちょっと失礼しますね」
ボクは、斎藤さんみたいに善野さんを担ごうとして上手くいかず、なんとか背中に背負って立ち上がりました。
「善野さん、入口までの道は、分かりますか?」
「……こっちから、匂ってきてる」
「分かりました。よいしょ、よいしょ……!」
さいわいにして、泥沼を超えた先は入口すぐの道に繋がっていました。
ボクは、入り口門を逆に潜って、地上に戻ります。
「ここまで来れば、もう安心ですね」
「……ユメヒコ君、私のせいで」
「ありがとうございました、善野さん。すごく助かりました」
「ごめ、……えっ?」
今回は撤退となりましたが、マナ石はたくさん手に入りました。
善野さんのおかげで、ピンチもなんとか切り抜けられました。
「全部善野さんのおかげです。善野さんと一緒に潜って、良かったです」
「……うん」
「また明日……、は、さすがに早すぎですか? けど、また近いうちにリベンジしましょう。今度は、頼れる人たちとも一緒に来て、次こそはここをクリアしてやりましょう」
「うん、……うん!」
元気を取り戻してきた善野さんをそっと降ろし、ボクはライフポーションをぐびぐびと飲みました。
うーん、味はドカペとかモンエネよりも薬っぽいですね。
けど、おかげで脚の傷は治りましたよ!
ほら、とズボンの裾をまくって見せると、善野さんは安心したようにホッと一息。
ボクも、ふぅーっと一息ついて、額の汗を拭うと。
「……ユメヒコ君、汗、拭いてあげるね」
と、善野さんがハンカチを取り出して、ボクの汗を拭いてくれました。
「ありがとうございます、善野さん」
「ううん。これぐらい、ユメヒコ君の頑張りに比べたら」
「頑張ってたのは善野さんのほうですよ! それに最後の善野さん、とーーってもカッコ良かったですから!!」
ボクは、善野さんの目を見つめて正直な気持ちを伝えました。
善野さんは、照れたように目を伏せて、手にしたハンカチを握り締めてモジモジしました。
「あの、ちょっと私、そっちで心を落ち着けてくるね……!?」
そう言うと、たたたっと走っていく善野さん。
なるほど。
無事にダンジョンから出てこれましたが、内心はドキドキもあったのでしょう。
ボクは、ポケットに詰め込んだマナ石をカバンに移しながら、数を数えて待つことに。
そして、マナ石の数が300個を超えたあたりで、突然、
『ピロリン♫ 善野 露璃の絆値が+1されました』
『絆値ボーナスとして、単発ガチャチケットを1枚進呈します!』
という表示が現れました。
「ふむ……? あ、なるほど。善野さんは今、先ほどの冒険を思い出して、ボクとの絆の深まりを再確認したんですね!」
【いやまぁ、うん】
【ソウデスネー】
マナ石を数え終わってさらにしばらく待つと、ハンカチを握り締めた善野さんが戻ってきました。
「お、お待たせ、ユメヒコ君」
善野さん、先ほどよりもちゃんと落ち着いた様子ですね。
深呼吸でもしたのでしょうか。
「善野さん、この後も時間は大丈夫ですか?」
「えっ? 門限までは、まだ大丈夫だけど……」
「じゃあ、ボクの家に来ませんか?」
「…………へあぇっ!!?」
斎藤さんと深森さんを、善野さんにも紹介してあげましょう!
それで、今度は皆でネズミたちを倒しに行きましょう。
そのためにボクは、なんだかお顔が真っ赤な善野さんを連れてボクの住むアパートに戻ったのでした。
▶︎▶︎▶︎
アパートのボクの部屋に戻ると、頼れる仲間である大人のお姉さん2人が、大量の空き缶と酒瓶を転がしながら泥酔した様子でキン鉄′15で対戦をしていました。
「ユメヒコぉぉ〜〜!」
「うおぉぉーん! ユメヒコぐぅ〜ん!!」
そして帰ってきたボクを見るなり、2人して泣きじゃくりながらボクに飛びついてきて押し倒されました。
これは、どういうことなのでしょうか!?
「ゆ、ユメヒコ君。……この人たちは……?」
そして、ドン引きした様子の善野さんが、ボクたちを見下ろしています。
……とりあえず、ですね。
「お2人とも、ただいまです!!」
ユメヒコが、帰ってきましたよ!!




