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014・水の踊り子さん、検証してたら強すぎて大ピンチです!


 善野さん、すごいです!


 ネズミがチューっと出てくるたびに、水球で捕らえてボクの目の前に持ってきてくれます。


 ボクはそれをしっかり狙ってボカッ、ボカッと叩くだけでマナ石がゲットできちゃいます。


「善野さん、全然戦えるじゃないですか! すごい!」


「そ、そうかな? でもこれ、ダンジョンに来るのやめてから考えたことだから、実際に使うのは初めてだし。……それに、これだけじゃあ倒せないから」


 そうなんですか?


「うん。例えば、そこのラットで実演するんだけど」


 善野さんは先ほどまでと同じようにネズミを捕まえて目の前に持ってきます。


「こうやって、動きを封じることはできるんだけど。水を動かす力って、水の量に応じて強くなるみたいで、水の重さの3倍ぐらいまでなんだよね」


 つまり、1リットルの水だと、3キロぐらいの重さのものまで掴んで持ち上げられるということですね。


「こういう小さい敵だと持ち上げて浮かせることもできるけど、大きい敵は、たぶんちょっと動きを邪魔するぐらいしかできないかな」


「へー。そうなんですね」


「あと、私だけだと倒すためのスキルがなくて。だからこうやってユメヒコ君に叩いてもらってるんだ」


「ふーむ……?」


 ボクは、目の前のネズミをポカポカしながら考えます。


「じゃあ、たくさん水を使えば、大きい力を出せるのですか?」


「それは、たぶんそう。お風呂のお湯を動かして包んだら、スチール缶でも握り潰せたから。たくさんをまとめて動かしたら、操作はたいへんだけど力は強くなるみたい」


「なるほど。あと、これはすごく不思議なのですが」


 ボクは、ネズミを殴るのをやめて聞きます。


「これ、普通のお水を動かしてるんですよね」


「うん、そうだけど」


「じゃあ、この中にチャポンと沈めたら、このネズミは()()()んじゃないですか?」


「……えっ?」


 善野さんは、ポカンとしました。


「…………確かに。言われてみればそうかも……」


「試しに、このネズミでやってみませんか?」


「う、うん」


 善野さんは、四足と腹のあたりを掴んで持ち上げていたネズミを、ドボンと水の中に引きずり込みました。


 ネズミはジタバタともがきますが、宙に浮かんだ水球から出ることはできません。


「……溺れてる」


「溺れてますね」


 やがて、ネズミが動かなくなると、スゥーっと消えてマナ石になりました。


「倒せ、ちゃった……」


「倒せましたね!」


 善野さんは、信じられないものを見たような表情で、水球の中のマナ石を見つめています。


「なんで私、こんな当たり前のことに気づかなかったんだろう……?」


【ゲームの時は、そういう挙動はなかったからだろうな】


【あくまで拘束技というか、単なるデバフ扱いだったもんね】


「やっぱり善野さん、ちゃんと戦えるじゃないですか!」


「……ほんと、だね。私も、戦えるんだ……」


 善野さんは、一度メガネを外しました。

 そしてハンカチで目元を拭うと、再びメガネをかけます。


「けど、溺れさせるだけだと時間がかかるから、溺れさせながらユメヒコ君にも叩いてもらおうかな」


「分かりました! 一緒に頑張りましょう!」


「……うん。頑張ろうね」


 善野さんが、可愛らしく微笑みました。

 うーん、これはメガネ美少女ですね。素敵♡


「ねぇ、ユメヒコ君。他にも色々思いついてきたから、試してみてもいい?」


「良いですよ!」


「ひょっとしたら、どこかでMPがなくなっちゃって、……途中で帰ることになるかもしれないんだけど、良い?」


「良いですよ! その時は、また明日再チャレンジに来ましょう!」


「ありがとうね、ユメヒコ君」




 ということで、迷路をてくてく歩きながら出てくるネズミ相手に色々試してみます。


 まず、液体操作というスキルについて、善野さんが何か思いついたようでした。


「私のジョブ、水の踊り子って名前だから、水しか動かせないって思ってたんだけど」


 善野さんは、カバンの中からヘアオイルとか液状の日焼け止めのボトルを出しました。


「スキル名が、()()操作なんだよね。だから……」


 それぞれ蓋を開けると、ヘアオイルも、液状日焼け止めも、同じようにうにょうにょと動かせました。


「おお〜〜、水じゃなくても動かせるんですね!」


「うん……。粘度で少し抵抗はあるけど、ちゃんと動かせるよ」


 再び動かしてヘアオイルや日焼け止めをボトルに戻してカバンにしまうと、善野さんは出てきたネズミを捕まえます。


「あと、液温変化ってスキルもあって、水量に関わらずだいたい1秒で5℃、温度を変えられるんだけど」


 すると、ネズミが溺れている水球が、みるみるうちに凍っていきました。


 そして、ネズミごと凍りきって、地面にカツーンと落ちて転がりました。


「凍結も可能、……けど、液体じゃなくなるから、操作できなくなるみたい」


 善野さんはもう1本分のお水を新たに出して、氷の塊を包みます。


 そして、どうやら今度はお水をお湯にして、氷を溶かしたようです。


 再びネズミは溺れ出し、やがてアチアチになったお湯の中でマナ石に変わりました。


「溶かしたら、また操作可能……。なるほどね」


 さらに、てくてく歩いていると、先のほうの道が、大きな水溜まりというか、泥沼というか。


 とにかく泥混じりの水が広がっていて、行き止まりみたいになってたんですけど。


「えーっと。操作できる水は、基本的に自分の水だけなんだけど。一部を切り分けてそこに混ぜると。……むむむむむ」


 なんと、水溜まりの泥水がゆっくりとウネウネ動き、左右に分かれて道を開けてくれました。


 すごいです、善野さん!


 ただ、深さ1ユメヒコ(約1.5メートル)ぐらいの窪地だったので、ボクと善野さんでは向こう側まで渡れそうにありません。


 そうこうしていると、


「……あっ、ダメだ」


 左右に分かれていた泥水が急に元に戻り、中央でぶつかってザバーンと大きな波飛沫が。


 善野さんがとっさに水球を薄い膜状にして傘のようにしてくれたので、なんとか濡れずに済みました。


「大丈夫ですか、善野さん?」


「うん……。どうやら、自分のものじゃない水は、長くは操作できないみたい……」


「いえ、それもそうかもなんですが。お顔とか服とかは汚れていませんか?」


「えっ?」


 善野さんがかばってくれたので、ボクは汚れませんでしたが、善野さん自身は大丈夫でしたか?


「あっ、えっと、うん。大丈夫だよ。……ありがとうね、ユメヒコ君」


「お礼を言うのはこちらですよ! おかげで、洗濯物がたいへんにならずにすみました」


「……ふふっ。そっか、良かった」


 善野さんは楽しそうに笑いながら、水を集め直して水球を作りました。


 しかし、泥水が混じってしまったのか、なんだか濁っています。


「水が汚れちゃったね。手を洗いたかったんだけど、もう新しいペットボトルも無いし……」


「あ、それなら。良いものがありますよ」


 ボクは、所持品の中から、前回の探索でゲットした「湧き出し水筒」を取り出しました。


「これ、綺麗なお水が出てるんですって!」


 蓋を開けて傾けると、ジョボジョボ〜っとお水が。


「わっ、もったいない。……あれ?」


 慌てて手を洗った善野さんですが、そのままどんどんお水が出てくるのを見て、首を傾げました。


「えっ、こんなに入ってるの? というか、……えっ? ちょっと、見せてくれない?」


「良いですよ。どうぞ!」


 ボクが水筒を渡すと、善野さんは水筒をマジマジと見て何かを確認しています。


「……1000エル、スラッシュ、1ディー。5エル、スラッシュ、1エス」


 ふむ?

 何かの呪文でしょうか?


「毎日1000リットルも……? あの、ユメヒコ君。これ、すごく貴重なものなんじゃ……?」


「ダンジョンの隠し部屋にあったものなので、そうかもしれません!」


「え、ええー……」


 あ、そうだ!

 これを善野さんが装備したら、もっとたくさんお水を操れるのではないでしょうか?


 ボクはさっそくウィンドウを開いて、善野さんに湧き出し水筒を装備させました。


『善野露璃は「湧き出し水筒」を装備しました』


『アイテムスキルとして、「浄水生成」を修得しました』


「えっ? なんだかこの水筒が、私のものになった感覚があるんだけど……?」


「善野さんに装備してもらいました! 使ってみてください」


「えええーー……!? これ、すごく貴重な、……いや、ありがとうね、ユメヒコ君。ちょっと試しに使ってみる」


 善野さんは水筒を逆さにして水を出します。

 小さな水筒から、


 ドババババババババーーー!!


 と大量の水が出てきて、それがそのまま水球としてまとまっていきます。


 すごい!

 とっても大きな水球です!

 空中でたゆんたゆんと波打ちながら浮かんでいます!


「……40秒で、だいたいお風呂一杯分(200リットル)? 一応、動かせるけど……」


 善野さんが水球を動かしますが、先ほどまでと違って動きがノロいです。

 形も、あまり複雑な形にはできていません。


「やっぱり、たくさんの水を一度に動かすのは、ちょっと難しいかも」


「そうなんですか?」


「重いものを、頑張って押して転がしてるみたいな感覚があって、速さとか細かさを気にする余裕がない感じなの」


「多ければ良いということではない、と」


「うん……。よいしょっと」


 善野さんは、大きな水球をゆっくりと動かして、泥水の中に混ぜました。


「ふぅ……」


 ちょっと疲れたように息を吐くと、オレンジ色のラベルの制汗スプレーを取り出して、シュッと一吹き。


 あ、これは柑橘系の香りですね。


「これで、ここの道は来ないほうが良いよってことが分かるから」


「石鹸は正しい道で、柑橘系はダメな道ってことですね」


「うん。とりあえず、戻ろう……、あれ? ……なんか、たくさんの臭いが、こっちに……?」


「チューチュー!」

「チューチュー!」

「チュチューチューー!!」


 なんと、通路の向こうから、()()()()()()()()()がやって来るではありませんか。


 しかも、反対側は先ほど渡れなかった泥沼です。


「えっ……、あ!? もしかして、さっきの波音で……!?」


 前からはネズミの群れ、後ろは泥沼。

 これって、挟み撃ちされたのでは!?


 ……ピンチです!!


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