4級試験 後編
「じゃあな」
その言葉とともに奴は腕を上げる。ああ....死ぬのか。できればロースターを故郷まで送って、冒険者らしいことをしたかったな...
「なにしてるんじゃぁぁぁ」
出口の方から声が聞こえる。聞いたことのない声だ。
「悪い嬢ちゃん、近くの冒険者を集めてきてくれ、おまえは騎士団に連絡だ。いそげ!」
「大丈夫か、お前ら!タレッタ、お前どう言うことだ!試験官が職務放棄か?!」
「私は『豹』のメンバー、それだけです」
「うぅ...」
この声は莞爾だ、目を覚ましたか!大丈夫かと一言声を掛けてあげたいが、あいにく俺は腹を深く刺されたせいで声を出すのも辛い。
「反重力」
次の瞬間俺らは奴らから遠くの壁に飛ばされた。莞爾の重力魔術だ。
「おまえは、ここで死ねぇぇ」
そう言ってさっきの謎の声の人は敵の方に突っ込んだ。
「ま....それは....やば....」
次の瞬間その人はいきなり刺された。そう魔法陣の中に入ったのだ。だがその人は剣を振り切った。そして敵の剣士に切り傷を与える。だが、その傷は浅く致命傷には至らない。
その人は腹部を押さえていることからおそらくは致命傷なのだろう。
「大丈夫かぁぁ!ギルドマスター!」
後ろから大勢の声が聞こえる。おそらくはさっき集められた近くの冒険者なんだろう。それと、この人はギルドマスターだったのか。
「お前ら、よくもギルドマスターを!」
そうして冒険者集団は全員豹のメンバーに突っ込んだ。頼む勝ってくれ。そう願っている中、俺は視界がいきなり暗くなった。ああ、血を流しすぎたか....助かるかな....
目が覚めた、ベッドに横たわっているのがわかる。
「大丈夫かですか!豊さん!」
聞き慣れた声、ロースターだ。ああ助かったのか...
「みんな....は?」
「このパーティはみんな無事です!隣を見てみてください。」
言われるがままに隣を見るとみんながベッドで寝ていた。俺は心の底から安堵し、そして泣いた。
「よかった。ほんとに、みんな無事でよかった...」
そして順に目を覚まし、動けるようになるのは五日後のことである。
「ねぇ、あの後結構どうなったの?」
「その前に、なんでギルドマスターが来たの?試験官も豹のメンバーだったんでしょ?」
アレスが口を開く。
「それはですね、まず、敵が豹と名乗った時点で私がこっそり逃げ出して、ギルドマスターに伝えたんです。それで、ギルドマスターが装備を整えて駆けつけたんです」
ロースターは豹を知っているのか...それで助けを呼ぶとはしっかりした子だ。7歳くらいの子供とは思えない。
「で...あの後なんですがね....」
ロースターの言葉が詰まる。
「ギルドマスターは生きているのですが....駆けつけた冒険者36人中20人程度が死にました。瞬間移動されるので、対策も取れず....」
「そうか....」
言葉が出なかった....俺らを助けるためにきた冒険者が死んで、俺らは全員生き残ってしまった....
「その...いいか...」
聞き覚えのある声、ギルドマスターだ。
「その...なんていうか....よく耐えたな....」
「でも、俺らを助けたせいで他の人は....」
俺のこの罪悪感はどうすればいいのだろうか....ギルドマスターなら解決してくれるだろうか....そんなことを思っていたが、返ってきたのは意外な言葉だった。
「それが冒険者だ。冒険者はいつ死ぬかわからない。人であれモンスターであれ、格上と当たって死ぬのは当たり前だ。お前らはあの時まだ5級だから死ぬのは当たり前じゃねえが4級からはそれが当たり前になる。俺らの命は軽い。」
「そうですか...」
「それと、お前らは4級だ。胸を張れ」
「え、でも俺らは負けて...」
「馬鹿野郎、あんなの勝てる奴なんかそうそういねぇよ。あれは1級冒険者レベルだ」
そうなのか。なら4級に昇格してもいいのかもしれない。ここでふと気になった。そんなやばい奴らをどうやって追い払ったのだろうか?
「結局、あの後ってどうやって豹の奴らを追い返したんですか?」
「ああ、それか....全員やられたら出ていった....」
「全員ですか?」
「ああ、36人いたが、そいつら全員が倒れた...そしたら出口から堂々と去っていったよ....」
彼は怒っていた。あからさまではないが言葉の端々から感じ取れる。
「あ、あとこれ、詫び代だ。金貨50枚はある。ギルドとしての面目もある。受け取ってくれ」
そういうと彼は足早に去った行った。
とりあえず外に出る。
「せっかくだから美味しいもの食べましょ!」
アレスは目を輝かせて言う。
「このお金はこの先の旅でも使いますからあんまり高いものにしないでくださいね」
莞爾はいい静止役だ。
「まぁまぁ、いいじゃないか。ロースターちゃんは何食べたい?君が僕らを救ってくれたようなもんだからね。」
「なら...お肉が食べたいです」
「よし!なら決定だ!」
こうして俺らは肉を買いにいく。久々の肉に心が躍る。買いにいく途中の談笑でトレディアが聞く。
「そういや、いいペンダントしてるよね?」
「あ、はい。これは母からもらったものなんです」
「ふーん」
ロースターはあまり自分の話をしない。そしてトレディアは不思議な視線をロースターに向けていた。敵意ではない。だがなんと言うか....不思議な視線だった。
肉も買い終わりご飯も作った。そうして待ちきれないアレスが全員席についたと同時に肉を頬張る。
「おいしい!」
みんなも喰らいつく。さならがそれは戦場のようだった。一瞬にしてなくなった。うまいものと作る時間は反比例するのが料理の方程式だ。
一息した時、トレディアが口を開く。
「みんなに、一応話しておきたいことがある」
急になんだ。重い話でもするのだろうか。
「たいしたことじゃないんだけど、みんなは転生した時その姿からスタートだったんだよね?」
「ええ、そうね。私たちはこの姿よ?」
「私はなぜか赤ちゃんの姿からスタートだった。だからこの世界に来て23年になる」
「それだけなの?」
「うん。それだけ」
「ふーん」
アレスは不思議そうにトレディアをみる。まぁ、重い話でもなかったし、よかった。正直俺らとは転生方法が違うのは意外だったが。彼女は中身は人間だが、見た目は魔族だ。そこら辺も何かあるのかもしれない。
そして、そこには何かを話さなければならない顔をしたロースターの姿があった。




