シェルフィン皇国 埋没 その3
その後、『はなみずき」では。
「何とか許可がもらえそうだな」
『そうですか、それは良かったですね』
「それにしても、お前がこの手の話に興味を示すとはな~。正直びっくりだわ」
『失礼な。マスターは私を何だと思ってるんですか』
「アーティファクトな腹黒嫌味AI、だな。それ以外にどう呼べと?」
『…………』
「じいちゃん……マスターゼロも言ってただろ、腹黒AIって。それに嫌味が加わったくらいだ、可愛いもんだと思うぞ、オレの認識は」
『どこをどうとればそんな考えになるんでしょうか。さすがはマスターゼロの血を引いてますね、貴方』
「褒めても何も出ないからな」
『その図太さもそっくりです』
他愛もない言い合いをしながら料理を仕上げていく。
今夜はモンタディル王国の王城へ呼ばれている。本来なら冒険者ギルドあたりに繋ぐんだが、お客が王族ではうっかり外には出られない。暗殺対象らしいし、気が休まらないだろう。この場合はお付きの者たち、の。
あそこの味覚は日本に通じるものがあって、かなり繊細な味付けでも気が付く。逆に手は抜けないんだが、それもまた料理を作る人間にはうれしい緊張感となって張り切ってしまう。
時期的に春先であるから、メインは豆ごはん、鰆の塩焼き、タケノコの酢味噌あえと玉子豆腐、土筆のゼリー寄せ、で整えた。物足りないようなら鳥のささ身を軽く一塩してあげものにしたものを添えよう。後は菜花を飾りにしたお吸い物だな。
組み立てた献立を見たロットが
『きゅうりのメニューがありませんね。問題になりますよ?』
「あの親父が乱入してきたならきゅうりをザル1杯投げときゃ満足するだろ。今夜のお客はセリオス殿下だ。そのほかの相手は関係ない」
『客商売でその物言いはどうかと思いますが……それも真理ですね』
「今更そんなのに文句つける奴はお客にいないさ。さて、そろそろ時間かな?」
『……そうですね。ではモンタディル王国王城の一室へ繋げます。あと12分27秒51後に接続です。マスターもご用意ください』
「わかった」
再度服装を見直し、テーブルを拭いて椅子を並べる。最後に手を洗ってカウンターのいつもの場所へ。
軽い浮遊感と振動を感じ、そして。
『はなみずき』の看板に明かりがともった。
カランコロン カラカラカラカラ・・・・・・
「いらっしゃいませ。『はなみずき』へようこそ」
「お邪魔するよ。どこに座ればいいかな?」
「皆さんご一緒ならテーブルへ。そうでないならカウンターでも結構ですよ」
「なら、私はカウンター……」
「殿下! 警護が務まりませんが!」
「この中なら警戒は不要じゃ、クラウス。カウンターで構わんな?」
「皆さんが良ければどこでもいいですよ。今夜は貸し切りですしね」
「ふむ。では問題ないな。殿下はこちらへ、クラウスは殿下の左に、ミストはワシの右へ」
「さあどうぞ、おしぼりとお通しです。あ、お酒は出しませんからね、先生?」
目の前にそれぞれを並べながら、イチが笑顔で釘をさす。
面白くないと鼻を鳴らすジェイド医師。
「わかっとるわい! 何回ここで飯を食ってると思っとるんだ」
「それは失礼しました」
「あの、これ、何ですか?」
ジェイドの横に座ったミストが不思議そうに聞く。
「そういえばお前さんは初めてじゃったな。これはおしぼり、顔や手を拭けばいい。こっちは食事の前の軽いつまみじゃな。ほれ、食うてみい。うまいぞ」
言われて恐る恐る手を伸ばすミスト。
「わ、あったかい。それに、気持ちいい……」
緊張していた表情が緩み、ほっと息をつく。そしてお通しをつまむ。
「これは、海の香りがします。昆布……ですか?」
「おや、お嬢さんはよくご存じですね。初見で分かった方は居ませんでしたが」
カウンターの中で作業しながらイチが話しかける。
「あ、私、シンシルの出身なんです。あっちではよく食べていたので」
「シンシル、というと、シェルフィン皇国の方ですか?」
「はい、そうです。え? 店主……さんも、ですか?」
その問いに、殿下やクラウスが聞き耳を立てる。
「ハハッ、まさか。知り合いがあちらに居るのでちょっと驚いたんですよ」
「お前さんの知り合いは広範囲に散らばってるだろうが」
ジェイドがこそっと毒を吐く。
「そうですね、確かに広いですよ。ではまず、突き出しからどうぞ」
そのイヤミをサラッと流し、イチは料理をだしていく。目に優しく、華やかな色どりがカウンターに広がった。
「わぁ……きれい」
「うまそうじゃの」
「ふふ、本当だ。いただこうか」
「殿下、その前に毒見を!」
「止めんかクラウス。毎回毎回、同じことを言わせるな」
「ぐっ……しかし!」
「クラウス」
「は……」
「キミの忠誠はうれしいけれど、過ぎると場を壊してしまう。いらぬ心配だよ」
「……分かりました」
「キミだって、ここの味を楽しみにしているだろう? ただ、楽しもう」
「殿下……」
「お話は終わりましたか? 冷めないうちに召しあがってくださいね」
絶妙のタイミングでお茶が供される。
最も毎回のやり取りで慣れているとも言うが。
ミストは箸に当惑しているようだ。
「お嬢さんにはこれを。大丈夫ですよ、すぐにほぐれますから」
スプーンの形で先にフォークのような尖った部分が付いている、いわゆる給食スプーンを差し出して使うように促す。
「え、これって……すごく使いやすいです! ありがとうございます!」
にっこり頷くイチに、ジト目が突き刺さる。
「キミ、私たちには優しくないけれど、彼女にはどうしてだい?」
「あなた方はもう箸に慣れてますし、気を遣う相手ではないですから」
「……本音は後半、じゃな」
「間違いないですね」
「……? あの、何かありましたか?」
「いえいえ、たいした事ではありませんよ。どうぞお召し上がりを」
「店主の面の皮は厚いと分かっておったが。こうも再認識するとはな」
「今更ですよ、先生。それよりこの豆ごはんですか? 美味しいですよ」
「ううむ、腕が良いだけにあの毒舌は余計に残念じゃ」
「先生の場合、お酒がないから、でしょう? でも、ここの料理はそういったものが無いほどおいしく感じられますから」
「悔しいが、それも事実じゃな」
ちょっとした小競り合いを経ながらも、『はなみずき』の夜は更けていく。
読んでいただき、ありがとうございます!
ちょっと横道にそれますが、ご容赦を(汗)
モンタディル王国での攻防です。




