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閑話 ~ 警告、そして 2 ~ 

ちょっとホラーっぽくなってしまいました。

流血表現もちょっぴりあります。

苦手な方はブラウザを閉じてくださいな。


 元々この話は裏社会を取り仕切っている幹部から流れてきたのだ。よほど大きな借金かミスをやらかし、追い詰められて遺産があると言い訳したから、それならと解放されてきただけだ。登記事項証明書を見てこれなら何とかなると確信して乗り込んできたのに。


(馬鹿なやつだ。己の事しか考えていない)


 離婚した挙句、捨てた子供に親子の情などあると思ったのか。事実、相続人を名乗っている若造の眼には何もなかった。まるっきりの無関心、道端の石ころを見ているような目つきだった。


 それが変わったのは公正証書を見た時だった。

 本物と思いたくない一心で、作成そのものを疑ったのだが、見事に言い返されてしまった。


「弁護士先生なら公正証書の形式、ご存じだよな? 後ろに公証人の証明があるのも判ってるはずだよな? そしてそれを偽造することがどれだけの罪になるかってのも?」

 そう言ってきた若造の眼は何とも冷たい目の色だった。


(こいつはひょっとして知っているんじゃないだろうな!?)

 それは考えたくない事態だった。


 今言った公正証書の偽造、群治はそれに関わり……今のところ成功している。

 その事実が明るみに出れば、群治が最も大事にしている弁護士資格さえ停止されかねない。

 暴露された時の現実に身震いしてしまった。


(こいつはヤバい、相手にするには危険なやつだった!)


 口をつぐんだ群治に不利を悟ったのか男が泣きついてくる。目の前の若造を危険視した群治は関わりたくなかったが、死に物狂いの男は戸籍の復活を願い、遺留分云々と言いだしてきた。


 正直なところ、遺留分について知っていることには驚いた。だが、このご時世、ドラマや何かで取り上げられる話題だけに、知識があることはおかしくない。

 だが、それを見越したように公正証書が作成されていたとは!


(これ以上はここに居ても何もならない)


 群治は話を打ち切った。心の中でこれは戦略的撤退だと繰り返したが、若造二人にうっちゃりを喰わされた事実は揺るがない。


 ふと、相続手続きを依頼した弁護士事務所に目がいった。それは群治と同期の弁護士だった。

(俺がここで屈辱をなめてるのはこいつにも原因があったんだ!)

 八つ当たりではあった。だが、イライラを何かに向けないと、どんな失言を仕出かすかわからないほど、ストレスが溜まっている。


(戻ったらネットでデマを流してやるか。そう、公正証書の偽造なんかの、な)


 ネットの世界は嘘と虚言に満ちている。真実でなくとも、ホンの一滴、毒を垂らしてやればいい。後は何もしなくとも、噂が噂を呼んで広がっていく。

(あの事務所が落ち目になったら、こっちに引っ張り込んでやろう)

 その時の顔を想像するだけで胸がすく思いだった。


 だが、別れ際に若造が釘を刺してきた。

「先生、もう二度と会うことはないでしょうから、一つ忠告しておきます。今日の話を元に何かしでかしたら保証はしませんよ」


(こいつ、脅しをかける気か……っ!)


「冗談で済むうちにやめた方がいいですよ。怖い思いをする前に」


 淡々と口にする若造の眼に、今は何もない。だが、掛けられた言葉は重い。

 何ができると思いながらも、その言葉は心に残った。




 来た時と同様に乗り継いで群治は帰ってきた。途中、トイレに行く素振りであの男はどこかに消えていたが、群治は気にもしなかった。裏社会が目を付けた人間を逃がすとは思えない。


 自分の部屋に戻ると、群治はノートPCを立ち上げた。まずはメールチェックを行い、急ぎの仕事がないか確かめる。連絡事項や簡単な指示待ちの連絡を出すと、当面はフリーになった。


「さて、と。では始めるか」

 知らず口元に浮かんだ笑みを深めて、群治はデマの準備をする。遠回しに、足が付かないように十分注意して文章を作成、二度見直した。

「うん、これなら絶対釣れるな」

 そうしてうわさを流すサイトへアクセスしようとしたところで、PC画面がブラックアウトした。


「ん? どうしたんだ?」

 キーを叩いても何も反応しない。


 当惑しているうちに、画面にぽつりと赤い点が現れた。

 それは線となり文字となり……ひとつの文章となった。


     『これは警告です。

       あなたが今からやろうとすることは犯罪です。

       すぐに中止して忘れなさい。

       この警告は今回のみの特例です。

       再度始めた場合は、保証いたしません。

       賢明な判断を望みます。』


「な、何だ、これは……」

 見ているうちに画面の文字が溶け崩れ、まるで血のように下へ流れ、そして画面からあふれてくる。

 キーボードの上に広がり、手前にどんどん侵食してきて、遂に群治の手指にまで達する……


       バン!


 前に勢いよくふたを閉める。うるさいくらいに動悸がして耳の奥で脈打っている。

 大きく息を弾ませ、群治は恐る恐る手を目の前まで持ち上げる。


「どこも汚れていない、よな……?」


 今見たことは正直信じられなかった。だが、さっき、確かに指の先に冷たいものを感じていた。

 あり得ない光景、あり得ない感触に、群治の心はパニック寸前だった。


 耳には声がエコーしている。


「冗談で済むうちにやめた方がいいですよ。怖い思いをする前に」


 頭を振って音を追い出し、恐る恐るPCのふたを開ける。 

 さっきの光景がよぎって手が震えたが、血が流れたような痕などどこにも見当たらない。ただ、さっきまで作成していたデマの文章だけがきれいさっぱり消えていた。


「一体、何がどうしたって言うんだ……あの警告は夢、だったのか?」

「よう、センセイ。どうしたってんだよ、呆けた顔をして」

「お前か。ドアフォンくらい鳴らせ」

「オレとセンセイの間柄で今さら水臭いぜ」


 いきなり入ってきたのは近藤という男。裏社会の一員で、この事務所へも連絡役でよく顔を出してくる。群治自身は知らないが、実は監視役でもあった。


「そういえばお前、プログラマーだったとか言っていたな。ちょっとこのPC、見てくれんか?」

「ん~? ウイルスでも入ったってか?」

「良く判らんが、頼む」


 場所を替わり、キーボードをたたいて履歴を表示させ確認していく。その間、群治は落ち着かない表情でコーヒーを口にしていた。

「センセイよう、特におかしなところはないぜ。今日やったのはメールの確認と返信、それに連絡待ちのところへ指示を出しただけだろ? そのあとは何にもやってないし……」


「何もない? ワードも残ってないのかっ?」

「え、ワードを起動したのか? そんな履歴はないが?」

「そう、か。そこからか……」


「どうしたセンセイ。あの相続の件なら気にしなくとも大丈夫だ。取れりゃ儲けものだっていうだけだし……ん? あの絡みでなにかあったのか?」


 問われるままに、群治は出先であった事、今しがたの出来事を途切れがちに語った。それを聞いた近藤は。

「へぇ、そいつは面白れぇ現象だな! そんなプログラムを組んだ奴がいるんだ!」

 と、かえって乗り気になってしまった。


「ようセンセイ。オレがさ、打つのも流すのもやる。センセイはそこで見ててくれりゃいい。そんでもってまたその現象が起きたらオレが突き止めてやらぁ!」

「だ、だが、アレは、あの警告は一度だけだと書いてあったんだ」

「そんなの、脅しに過ぎねぇよ。プログラムってのはそれほど自由度なんてないんだよ。オレにかかりゃ一発で見破ってやるさ」


 気が進まないながらも、群治はこの提案に乗った。近藤のPCを扱う腕は以前から見て知っていたし、いまだに腹が据えかねていたのもそれに拍車をかけた。


 そこでもう一度文章を作成するところから始め、流すサイトも3か所に増やすことにした。

「おっし、行くぜセンセイ」

 にやりと笑い、近藤はエンターキーを押し込んだ。



 同日同時刻。都内の電源が一斉に落ちて真っ暗闇になった。


 どこもかしこもパニックになり、怒鳴る声、泣きわめく声、叫ぶ声、声、声、声で闇が埋め尽くされた。

 だが、その数瞬後、何事もなく電源が復旧し、以前の状態に戻った。


 叫んだ人間は自分の狂態に顔を赤らめてそそくさと場所を移動し、泣きわめいた人間は慌てて顔を隠して逃げ出した。誰もが素知らぬ顔を決め込み、必要以上に急いでいつもの毎日へ帰っていった。

 翌朝のニュースでもこの件は取り上げられたが、停電の時間があまりに短かったことと、街頭インタビューでマイクを向けても一様に逃げ出す人が多かったため、いつの間にか立ち消えとなった。


 富味嶋群治からの応答が無くなり、不審に思った裏社会の人間が事務所を訪れたが、そこには人影もなく、机の上のノートPCが開いたままになっているだけだった。





最後の表現が思い浮かばず、何度か書き直して推敲していたら

遅くなってしまいました。

陳謝いたします。


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