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閑話 ~ 警告、そして 1 ~ 

弁護士先生の事情です。

少し誤解を招きかねない表現がありますが、ご容赦願います。

「くそっ、目算が外れた」

 葉巻のふちをかみながら富味嶋群治は吐き捨てた。


 それほど難しい依頼ではなかった。出来の悪い子を排除して孫に全財産を譲る、良くある話だ。

「だが、法に照らしてみれば反論できんさ」

 法律に疎い田舎の人間に、相続の意義を説いてやり直させる。そのためには自分の肩書も有利に働くはずだ。

「ふふ、何せ弁護士だからな。普通のサムライ業とは違うんだ」


 建築士、司法書士、税理士等、語尾に「士」が付く人間を業界用語で「サムライ業」と呼ぶ。

 その中でも弁護士は別格だと、群治は思っていた。その思い込みに反するような事態には今まで遭った事がなかった。

 だからだろうか、あの男に危機意識を覚えたのは。


 依頼人だと引き合わされた男の郷里は遠かった。電車とバスを乗り継いで、行った先のバスはもう出た後だったために、そこから更にタクシーを使って着いた先。

 のどかな風景が広がる中での二人の邂逅。とても親子とは思えない会話に、心の距離がとんでもなく遠くなっていた事実が明らかになった。


(まあ、揉めるところはこんなものだな、どこでも)


 その二人に割って入って事を収める。今回はそれで終了だと高をくくっていたのだが。



     ウォンウォンウォンウォンウォンウォンンンン~~~!!!



 いきなり鳴り出した大音量のサイレン音と、屋根に取り付けた赤と青の回転灯がぐるぐる回りだしてから事態は急変した。


「うおぉぉっ!?」

「な、な、何なんですか、これは~~っ!!」

 慌てふためく群治と男を前に、相続人の男は

「すぐにわかる」

 と冷静さを崩さない。


 そして、手に手に何かを持った村人が一斉に群治たちに群がってきたのだ。

 おたまやなべふたはともかくも、包丁や鎌に至っては危なくて仕方がない。

 口々に男を批判し、けなし、挙句に説教をかまそうとしてくる。

「みみみ皆さんっ!おおおお落ち着いて、わ、わ、私の、は、はなっ、話をっきききき聞いてっく、く、くださっ」


 声をかけてもろくに聞いてくれない。いや、口調が上ずったのも一因かもしれないが。

「じゃかぁしいわい!! クソたれ坊主をしつけるのは年長者の義務じゃあ! そこどかんかいっ!!」

「ワルヨシのくそたれ!! 隠れとらんとこっち来んか!!」

「ひ、ひえぇぇっっ~~~!」


 ワルヨシとは誰かとか(あ、こいつか)、説教とは何の事かと尋ねようにも興奮しきって手が付けられない。

 カオスになっていたところに駐在が駆けつけてきた。さすがは田舎、どれほどもめていても公権力には従うようだ。

(これは使えるな)

 周りを囲まれて公民館へ移動中、群治は攻め方を考えていた。



 公民館の一室に入って待つほどもなく相手が現れた。まだ20歳代の若造二人と駐在が席に着く。


 一応念押しで第三者の介入を咎めたのだが、駐在からは立会人だと蹴られ、もう一人の若造は司法書士だと言ってくる。

(まあいい。ここに警察がいることを確認できただけで十分だ)

 内心ほくそえんで話をしようとしたら。


 司法書士の若造がいきなり窓と入口を開け放った。その向こうには人、人、人の顔が。


「な、な、何をするっ……!」

 口を開けたまま硬直した群治に、若造が言う。みんな身内みたいなものだから、と。

 でなければ傍聴人だとも言い、群治に反論を許さない。


(この若造が! 今に泣きっ面にしてやるからな!)


 懐中時計を見るのは群治の癖だ。裁判の最中でも、気分を変えるいいアイテムである。

 心中で毒を吐きながら、群治は姿勢を整えた。

 こいつらは無能な輩だ、法にのっとり、こちらの正当性を見せつけてやる!!


 そう息巻いて始めた論争は、思いもかけない方向へ転がっていった……。




 相続の順序を外して無茶をやっているのは相手のはずだった。

 だが、いざふたを開けてみれば、そこにあったのは正式な書類の束。


 まずは戸籍謄本。失踪宣告の上で死亡扱いされていたとは!

 これには依頼人の男……確か佐久和聖、だったか……も知らなかったようで、顔色を変えて驚いていた。

 群治にとっては痛手だ。


(せめて、戸籍を確認していれば……)


 悔やんでも後の祭りだ。それにたとえそうであっても、あとには引けなかっただろう。

 この男には裏社会に借金があったのだから。



読んでいただき、ありがとうです~^^

あと1話続きます。

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