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過去との邂逅 その6

 あの後、遅くなった昼食を隣のおっちゃんのところで済ませて家に戻ってきた。


 部屋に入るなり、海斗は畳の上に寝っ転がった。

「ああ~っ、いつ来てもこの感触はい~な~。ほれちゃいそうだよぅ~」


 おい、畳にスリスリするな。今日はまだ掃除してないんだぞ。


「イ草の香りと入ってくる風、外のさえずり。日本人の原風景だよな、ここ」

「ああ、そうだな」

 言葉を返しつつ、オレは土間に下りてやかんと湯呑、お茶うけを持ってきた。

 井戸水でやかんごと冷やした麦茶は頃合いに冷えていた。


「ほれ、おまえの分だ。お疲れさんだったな」

「おおっ、うまそう! のどが渇いてたんだよ」

 湯呑を受け取って一気飲み。コンマ2秒の出来事だった。


「かぁぁっ~~。グッとくるねぇ!」

「むぎ茶でキてどうする」

 2杯目をつぎながらお茶受けのせんべいをかみ砕く。

 外からの風が気持ちいい。


 ささくれだった心が徐々に凪いで来た。


 これでやっと終わったんだと心に呟く。あと残るのは……。


「海斗」

「ん? ああ、さっきのやり取りならもう出来てるよ。後はプリントするだけだな」

「いや、そうじゃな…」

「え、プリントしろって? そりゃまあ、書類にするまでが僕の役目って言えばそうだけどさぁ、もうちっと後でいいかな? 今はこの雰囲気を味わいたいっ」

「おまえな」

「わかったわかった、すぐにプリントするよ。機械はどこに……」

「待て待て待て、少し落ち着け!」


 どうもこいつは暴走すると人のいう事を耳に入れなくなるようだ。会社を辞めたと勘違いした時もそうだったしな。

 オレは立ち上がりかけた海斗の腕を引っ張り、元の位置に座らせてから、頭を下げた。


「すまん、海斗。この通りだ」

「ハジメ」

「いつかはと覚悟していたが、今日あいつがここに来るなんて思ってもみなかった。お前を巻き込むつもりもなかった。それは本当だ」


「…………」


「こんな田舎にまで会いに来てくれるお前に、嫌なものを見せちまった。気分悪かっただろうと思う。友達の縁を切られても仕方ないと考えてる」


「…………」


「けど、今日お前がいてくれて、オレはうれしかった。心強かったんだ。あそこまで強気に出られたのも、海斗が横でPC叩いてくれてたから……でなきゃオレは何をしてたか。自分でも判らない」


 最初に頭が沸騰した時、海斗が声をかけてくれなかったら、オレはこの手で殴りつけていたかもしれない。あれほどじいちゃんがいろいろ考えて準備してくれていたことをすべて無駄にしていたかもしれないのだ。そう思うと今更のように身体が震えた。


 やらかしていた時のことを思い、うつむいていたオレの頭を誰かが撫でてきた。


 誰かって誰だよ、海斗だろ!?

 自分で自分に突っ込み、アワアワしながら顔を上げると。


「ハジメはまっすぐだね、ほれぼれするよ」

「どの辺がだ?」

「いろいろあるよ。言葉とか、動作とか。でも一番まっすぐなのは心、かな」

 頭から手をどけた海斗の顔は優しかった。


「僕ん家はさ、今でこそ普通だけど、昔はひどかったんだ。親父は女好きで、でもやり手で会社を大きくして、それに比例して女を何人も作って好き放題していたんだ。母さんはそれを見てて、ボクを厳しくしつけた。いわゆる過干渉、てやつだね。だから小学校の時の僕を見たら笑うよ。いっつも下を向いてて、口を利かずに誰かの陰に隠れてた。そのままだったらアブナイ方向まっしぐら、だったよ」


「本当か、それ? どう見ても嘘としか思えんが」

「あははそうだよね。でも、真実だ。そんな僕を心配して、母さんの兄貴、僕から見ると伯父貴が母さんを張り飛ばしてくれたんだ。


     『お前は自分の子供を潰したいのかっ!』


 ってさ。それでようやく母さんが正気を取り戻して、親父と離婚したんだ」

「そう、だったのか」


 過干渉。保護者が被保護者の肉体面及び精神面において過度に干渉し、自分の影響下に置いて監視すること、と、何かに書いてあった。親の操り人形なんて、ぞっとしない。


「母さんと僕は一緒に精神科医のカウンセリングを受けてさ、二人であれこれ努力したんだよ。今では笑い話になってるけど、当時は必死だったね。それでも頑張れたのは親子だったから。でも」

 そう言いさして、オレを見る。


「ハジメはその親に見捨てられたんだ。僕には想像つかない辛さだったろう。その分をお祖父さんが穴埋めしてくれたんだとは思うけど……そう考えるとハジメのまっすぐさは貴重だよ」

「それは多分、この村の皆のおかげだな」

「あははは、そうだね、間違いないよ! さっき見たあのパワーは圧巻だったな~」


 笑いながら再度畳にひっくり返る。オレも一緒になって寝ころんだ。見上げた天井板に長い年月の痕が付いていた。


「ハジメはさ、申し訳ないとか思ってそうだけど全然違うよ」

「そ、うか?」

「あったり前だよ! そんなこと考える前にもっと頼ってくれればいいんだ。何せ、友達なんだから」

「頼る、か。そうだな、友達、だな」

「そうだよ!」

 嬉しそうに笑う海斗の声が心にしみた。独りではないのだと、改めて感じた。


 いきなりやってきた嵐が過ぎ、今は心もゆったりと落ち着いてきた。昼過ぎの温められた風が吹き抜けて家の空気をかき回していく。


 そろそろ風鈴でもつるそうかな。





嵐が過ぎてまったりした情景を描いてみました。

日本の原風景、良いですね^^

読んでいただき、感謝です。

この後の閑話…2話程度かな。

ちょっとホラーチックにしようかと。

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