過去との邂逅 その4
「さて。ではこちらから提示させていただきますかな」
先ほどの慌てぶりと違い、堂々たる押し出しで発言する。
「ここへ伺ったのは、先年亡くなった佐久和全太郎さんの財産について。これは全太郎さんの子佐久和聖さんが受け継ぐべきものです。それがなんと、1代飛ばした佐久和肇さんがすべて相続されている。由々しき事態に佐久和聖さんがお気づきになられて、私のところに相談されてきたのが発端ですな」
嘆かわしいという感じで首を振る。役者やのう。
「相続は順序を守って行われるものであり、それが基本です。全太郎さんの財産を聖さんが受け継ぎ、それを肇さんが受け継ぐ。健全な形に戻すべく依頼を受けたわけです。今からでも遅くはない、私の権限でもって相続を正しい方向に持っていかれるのが法治国家の正しい姿勢だと考えますがね。どう思われますかな、駐在さんは?」
問われた三木さんは視線を向ける。
「ここで本官に問いかける意味合いは何ですか? 先ほど立場は説明した筈です。本官には答える意義も理由も見当たりません」
「っ! い、いや、そうでした。公的な立場から意見を頂戴できればと思ったんですが、それは望めないという事ですな。ですが」
「再度繰り返します。本官は立会人としてここに参加しております。どちらの立場へも偏ることはありません。無用な質問は控えてください」
「……失礼しました。こういった話し合いでは公的権力をお持ちの方から声をあげてもらう方が丸く収まることが多いので、お尋ねしたわけでして。こうなれば、法にのっとってお話させてもらいますぞ」
おお、遂に本音を吐いてくるな。
「佐久和肇殿。貴殿は正当な相続権を持つ佐久和聖殿の権利を妨害・無視し、本来の所有者である聖殿を排除したうえで相続財産を不当に占拠・占有している。ここに居る佐久和聖殿に、相続財産の一切を返還し、併せて慰謝料の請求を求める!」
ばばーん! という副音声が聞こえてきそうなくらいの勢いで返還請求書と慰謝料請求書を突きつけてきた富味嶋群治先生。鼻息が荒い。横にいる奴もにやにや笑いながらオレを見ている。
けれど。
オレにとっては痛くもかゆくもない。
というか、こいつらは大丈夫なんだろうか。
ここへ来るまでにどれだけの時間をかけたのか知らないが、必要と思われることを調べたうえで来ているんだろうか。調べたなら、今の物言いが通用するかどうか、判断できると思うのだが。
オレが何の反応も示さず、顔を見ているだけなのをどう解釈したのか、弁護士先生がどや顔をする。
「まあ、すぐにというのは無理でしょうから、立ち退きに1カ月の期限を設けましょう。それと慰謝料の金額にも相談に応じますよ。もちろん、規定の相談料はいただきますがね」
ああ、こいつ、オレが驚いて声が出ないと思ったのか。
確かに声は出なかったな、アホ過ぎて。
こんなんで弁護士の看板を掲げてるのか。これじゃ質の悪いカツアゲの兄ちゃんと変わらないな。
「な、なんとか言ったらどうなんですか、貴方は!」
こういう輩は自分の尊厳を貶める言葉や行為にすごく反応する。オレの視線が蔑みに変わったのを敏感に察知したようだ。
さて。反撃に移ろうか。
オレは脇に置いていた書類の束をちゃぶ台に積み上げた。
「まず根本の問題についての回答だ。佐久和聖なる人間は、この世に存在しない」
「えっ!」
「なっ!」
相手の驚愕した視線を無視して、上の書類を取り上げ、広げてみせる。
戸籍謄本だった。
佐久和全太郎の子、佐久和聖。その名前が線で消されていた。
「…失踪後7年を経過したため、死亡と認定して処理する………これ、は」
二人して書かれた文章を読んで息を呑み、上げた顔は血の気が引いていた。
「じいちゃん…佐久和全太郎はオレを引き取った後、あらゆる法的手続きを行っていた。こういったトラブルが起きることを予測していたんだと思う。警察に失踪届を出し、既定の期間が過ぎたことを確認して届け出をした。どうかな、ちゃんと法にのっとっているだろう?」
「バ、馬鹿な! お、お、俺は、生きている、生きているんだ! 死んだなんて、そんな、嘘だ!」
「もちろん、死亡を誤認だとして戸籍を復活させることも可能だ。そうだろ、弁護士先生?」
「あ、ああ、た、確かに、できる。が…」
「じゃあ、やればいい。けれど、相続に関しては動かせない。それは言っておく」
「どうしてだ! 俺は全太郎の息子だ! その俺がどうして遺産を受け取れないんだ!!」
「あんたがやった行為によって、だ。自覚もないのか?」
オレの声が冷え切った。怒りはもはや燃え滾るマグマではなく、永久凍土の中のつららのごとき鋭くとがっていた。
「あんた……自分の子供を拒否して捨てたじゃないか。それがすべてだ」
読んでいただき、ありがとうございます^^
失踪後7年で死亡認定されるのは規則としてあります。
ただ、確認等でどうなのか、その辺までは不明です。
なので、このお話のようになるのかは…?
フィクションとしてお読みくださると助かります(汗)




