過去との邂逅 その3
駐在さんに、というより周りをご近所さんたちにがっちり固められて、追い立てられるように連れていかれる二人を見送ると、オレは家の中に引き返した。
じいちゃんの箪笥の引き出しから書類を何点か、それとノートパソコンを小脇に抱える。
そして、一緒に付いてきた海斗を振り返った。
「海斗はここで待ってて…」
「僕を置いていくつもりかい、ハジメは」
言い終わる前に言葉を被せてくる。
「だが、あまり面白いもんじゃないぞ? 罵りあいの末に殴り合いになる可能性だってある」
「それもまた一興。こう見えても空手の有段者なんだ。護衛だって勤められるくらいにね」
「面倒ごとに付き合わせてしまうが……いいのか?」
「いいっていいって。もっと僕に頼ってくれよ。友達だろ」
「ああ、そうだな。じゃ、これを頼む。今からの話し合いをメモしてほしいんだ」
「オーケーオーケー、聞き取りは得意なんだ。最初から最後まで一字一句逃さずにバッチリ完成させてやるさ!」
「先に行ってくれ。すぐに追いつく」
海斗が出ていくのを確認してから、机のPCに声をかける。
「ロット、聞いてるか?」
『はいマスター。お供します』
「頼む。相手がどういう手段で出てくるかわからないからな、お前も気を付けて見ていてくれ」
『了解です。それと……』
ロットの話に耳を傾け、指摘したモノを身に着けて、オレは家を出た。
さあ、決戦だ。
公民館の周りには人垣ができていた。
さっきの騒動には出遅れたものの、おっとり刀で駆けつけてきた人たちに、ご近所さんたちが話したんだろう。誰もが怒りを宿した表情をしている。
それはそうだ。みんなここでじいちゃんやオレを見ていてくれた人たちなんだから。オレにしてみれば、家族みたいな人達だった。今、この中にいる遺伝子上の親よりも、ずっと。
公民館に近づくと誰もがオレに笑いかけ、中へ進むように促してくれる。この上なく頼もしい親衛隊だ。
玄関から入った入口の10畳間、そこにちゃぶ台をはさんで座る。オレと海斗が並び、その前に二人が着席。
誕生日席に三木さんが陣取ると、
「おや、親族の話し合いに関係ない方が入るのは後でもめ事の素になりますよ?」
さっそくに弁護士から抗議が入った。
「駐在さんは公権力を持った立会人だ。どちらにも偏らない公正な人だから問題ない。海斗は」
「あ、僕は司法書士の資格持ってるからね。書類作成を任されてる」
「住民の権利と地域の治安を守るのが本官の職務です。ここで立ち合いを務めますので存分に話し合ってください」
言い分を潰されて苦い顔をする先生。
「逆に聞くが、関係ない他人というならあんたがその範疇だが?」
分かってはいたが一応聞いてみる。
「し、失礼な! 私は佐久和聖さんから正式に代理を委任されている!」
やっぱりね。さっきロットが耳打ちしてくれた中に、この先生の情報があった。弁護士会の中でも鼻つまみ者で嫌われているらしい。違法すれすれの法解釈や脅迫まがいの事にも手を出していると噂されているが、それでも決定的な証拠がないため処分にも至っていないとか。
蛇の道は蛇、みたいな人脈に入り込んでいるんだろう、この男は。
「なるほど。それでは」
オレは海斗に頷く。二ッと笑って身軽に立ち上がると、窓と入口を完全に開放した。
「な、な、何をするっ……!」
大声を上げかけた先生は、そのまま凍り付いた。
窓の外と入口に、たくさんの顔が並んでいるのを見たためだ。
それを見ながらオレは言葉を継いだ。
「みんなオレの身内みたいなものだからね。親族ならいいんだろ?」
「ばっ、だ、だがっ」
「血がつながっていないのは確かだ。ならば傍聴人だな。意見を言うわけでもなく、ただただ話し合いを見ているだけ。何か問題は?」
弁護士先生は二、三度口を開け閉めしたものの、への字に結んで黙った。
海斗はさっきから高速でキーボードに指を走らせている。ちらりと見ると、そこにはここに居る人間全員の名前が並んでいた。おい、すごいな!
ポケットから懐中時計を取り出して時間を確認した先生、気分を変えてやる気を出したようだ。
「これだけ大勢の人間の中で恥をかかせたくなかったんですがね、そちらがそのつもりなら仕方ありませんな。後で泣いても知りませんぞ?」
それはこちらのいう事だ。
心でつぶやき、目の前の男を見据える。
さて、何を言い出すか見てやろう。
読んでくださり、感謝です!
『マスターの傍が私の場所です by ロット』




