表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/45

過去との邂逅 その2

「よ、よう、肇、だよな? 元気だったか?」

「…………」

「そんなに怖い顔して睨むなよ。お前の親じゃないか、ははは」


 親だって? 後ろで海斗が息を呑んだようだ。

 だが、オレにとっては寝言としか思えない言葉だった。


「……何しに来た」

「な、何しにって、親父が亡くなったんだろ? 線香でもあげようと思って」

「綺麗事はいらん。サッサと用件を言え」


「おい、いい気になって何を言ってるんだ。ここはおれの親父の家だぞ、息子が帰ってきたんだ。そこをどけ!」

「まあまあ佐久和さん、声を荒げるのは大人げないですよ。ここは私に任せてください」


 険悪な雰囲気に割って入ったのは後から来た恰幅の良い男性。

 パリッとしたスーツに撫でつけた半白の髪、脂ぎった顔がやけに自信満々で、オレに名刺を突きつけてきた。

「私、都内で弁護士事務所を経営している富味嶋群治(とみじまぐんじ)と申します。お見知りおきを」


 俺はちらっと名刺を見た。確かに仰々しい飾り文字で名前と事務所名が記されている。


「で? 弁護士の先生がこんな田舎に何の用だ?」

 オレが一向に受け取らないため、再び名刺をしまい込んでからこちらを見る。

「もちろん、相続のやり直しです。佐久和聖(さくわきよし)さんが正当に受け取れるはずの財産を、貴方が占有していることを認めさせるためにここに私がいるのですよ」

 このうすら馬鹿が、といった雰囲気を隠しもせずに言い切った。


「まずは正当な持ち主のこの方を家に上げるところから始めますか。さあ、そこを退かれた方がいいのではないですかな。でないと、警察沙汰になりますよ。お互いによろしくないでしょう?」

 ぐふふと笑いだしそうな顔に強烈な嫌悪がこみあげ、思わず手を握りしめたが、

「おいハジメ。どうするんだ?」

 後ろから聞こえた海斗の声で、沸騰寸前だったオレの頭が冷えた。


 そうだ、こいつの策にハマってやることはない。


「海斗、玄関の表札の脇にボタンがある。わかるか?」

 極力抑えた声で尋ねると、

「あ? ああ、この黄色いボタンか?」

 そう、返事が返った。

「それを押してくれ。力一杯、な」

「……分かった」


「一体何を、」

 するのか、という問いかけは口の中に消えた。


    ウォンウォンウォンウォンウォンウォンンンン~~~!!!


 大音量のサイレン音と共に、屋根のてっぺんに取り付けた赤と青の回転灯がぐるぐると辺り一面に不穏な光をまき散らしだした。


「うおぉぉっ!?」

「な、な、何なんですか、これは~~っ!!」

「すぐにわかる」

 目の前で慌てふためく二人を見据えたまま、オレは答える。


 そしてそのあとすぐに、

「肇っちゃん、ぶじか~~!!」

「なにがあったんじゃああ~~っ!」

「大丈夫かいっ、肇ちゃん、海斗クン!!」

「うおおおぉぉっっ~~~!!」

「不審者だああぁぁっ~~!!みんな、でてこぉいぃぃっ~~!」

「悪さしよるのはぁぁ、どこのどいつじゃあ~~っ!!」



 …………頼もしいご近所の人たちが、この家の前に駆けつけてくれたのだ。



「うおっ、そこに居るのはワルヨシのクソたれ坊主じゃないか! 今頃何しにきおった!!」

「こンの親不孝モンがっ、どの面下げてノコノコと!!」

「あんたがほったらかしにしたんだってね! 子供をなんだと思ってるのさ、このドアホ!!」

「今更来たってあんたの場所はどっこも残ってないんだよ!」

「儂たちの前に顔を出すとはい~い度胸だ! ずっと言えなかった説教を食らわしてやるからそこに座らんかぁっ!!」


 手に手に持った即席の武器を振りかざして二人に迫る。おたまやなべふたは可愛げのある方で、のし棒に包丁、草刈り鎌に至ってはもう、殺る気があふれかえっている。


 その集団を前に弁護士先生は蒼白で、

「みみみ皆さんっ!おおおお落ち着いて、わ、わ、私の、は、はなっ、話をっきききき聞いてっく、く、くださっ」

「じゃかぁしいわい!! クソたれ坊主をしつけるのは年長者の義務じゃあ! そこどかんかいっ!!」

「ワルヨシのくそたれ!! 隠れとらんとこっち来んか!!」

「ひ、ひえぇぇっっ~~~!」


 ますますカオスになっていく状況をオレはただ見ていた。


 その肩を海斗が叩く。

「ハジメ、ここのひとって……ウププッ、すンごい熱量持ってるんだねぇ。くくっ、こ、こんな、パワフルな田舎だったとはっ……!」

 そのまま、オレの背中に顔をうずめてくつくつ笑い続けた。


「し、しっかし、どう収めるつもり、なんだよ? 当分、無理、だろ」

「いや、大丈夫だ。もうすぐ何とかなる」

 笑いながら途切れ途切れに話す海斗に答えてやる。

「へ、へえ~~、どっから、湧いてくる、んだ、その自信」

「ああ。ほら、あれだよ」

「ん?」

 オレが顎で示すところには、きしむ自転車を必死で走らせて来る駐在さんの姿が。


「三木さんにはみんな従うからな。もう少し見てろ」

「そんなもんか? あ、ほんとだ」

「こういう時にこそ、国家権力を使わないとな」

「ハジメって結構腹黒だよね」

「失礼な」


 二人で話す間にも、どうやらカオスは収まったようだ。まだ剣呑とした雰囲気は残っているが、一応は小康状態、だな。


 汗を拭きつつ、駐在の三木さんが歩いてくる。

「佐久和の若亭主殿、この騒ぎは一体何事ですかな?」


 因みに若亭主とはこのあたりの言い方で代が変わった時に使う肩書らしい。未婚だろうが既婚だろうが区別しないんだとか。


「お騒がせしました。ですが他人が家に不法侵入しようとしてきたので、やむなく皆さんのお力を借りたんです」

「た、他人とは何だ! 俺はお前の親だぞっ!」

「静かにしてください。あなたの言い分は後で聞きます」


 三木さんもこの村は長い。事情は知りつつも村の人間を優先してくれるようだ。ありがたい。

「どうやら話し合いが必要なので、公民館をお借りできませんか? 家に上げるつもりは一切ありませんから」

「そうですな、それがいいでしょう。わかりました。あの二人を事情聴取がてら公民館へ誘導しますからできるだけ早く来てください」


「わかりました。書類をいくつか持ちだすだけなので時間はそうかからないはずです。お願いします」

 この村の公民館のカギは駐在さんが管理している。とはいっても、カギは駐在所の壁にかかっているので一言声を掛ければいいだけだ。


 今回は手順を踏んで駐在さんに案内してもらう。そうすることで正当な話し合いだったという印象を周りに見せるとともに、目撃者をたくさん用意できるからだ。


 この遺伝子上の父親はきっちり叩き伏せておかないと後で後悔することになる。


 オレは徹底的にやるつもりだ。




読んでくださり、ありがとうございます!

肇君の縁切り物語、始まります^^

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ