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過去との邂逅 その1

ご無沙汰してました!

これからまたゆっくり更新していきます。

 オレ佐久和肇がじいちゃんの家に移り住んで、もう2か月たった。

 会社から送られる仕事をパソコンで処理して送り返す、そんなリモート業務にも慣れてきた。もともとプログラムを組んだり画像チェックのバグ探しなんかも得意だし、表計算やワードの応用もできる。プレゼンが苦手なために今までは裏方だったが、リモートならばなんとかなる。


 週に3日頑張ってこなせば、あとは自分のことに費やせる。都会にいなくてもできるこの方式は、オレにはまさに天職ともいえた。


 朝早く起きて畑の世話をし、その時に取ってきた野菜で朝食をとる。

 それから3時間かけて仕事をしたら後は田んぼと畑の世話、それと『はなみずき』での仕込みをする。このごろはたいてい予約で毎日開店することになり、結構忙しくなった。1日1組か2組なのでそう混雑するわけじゃないが、お客さん相手の商売って気を遣うんだと認識を新たにしている。


 『はなみずき』での時間の流れ方が違うことに気が付いたのも最近だ。どうもロットの思惑が絡んでいる、らしい。聞いてもごまかされるかシカトされて確定はしていないが。あいつ、何考えてるんだ。


 仕事のない日はのんびりと本を読んだり、散歩したり。『はなみずき』で使う漬物を仕込んだりしている。

 この間家の整理をしていたら、じいちゃんが作った料理メモが大量に出てきた。あのめんどくさがり屋のじいちゃんがちまちま作ったのかと思うと噴き出しちまったが、それでもオレにとっては大事な教本だ。暇なときにそれで料理を作り、じいちゃんの写真の前で食べている。


 街に居た時のあの追い立てられる焦燥感は消え、オレはのんびりと毎日を過ごしてきた。


 あいつが来るまでは。




「おーい、ハッジッメ~ッ!」

 能天気な呼び声に、引き抜きかけた大根をそのままにして振り返ると。

「また来たのか、お前」

「きちゃったよ、また」


 畑の横で笑うのは久木島海斗(くぎしまかいと)。街を出る直前に友人となった会社の同僚だ。

 生粋の都会っ子なのに、何が気に入ったのか月に二、三度この田舎へやってくる。そして、オレの手伝いと称して畑に入ってみたり、庭いじりをする。大概は大惨事になって後片付けに一苦労するのだが……オレに怒鳴られようが叩かれようが、却ってうれしそうに笑うものだから始末に負えない。


 近頃では隣近所のおばちゃ……ゲフンゲフン、姐さんたちの方が来訪を心待ちにしている。何せうまいのだ、乗せ方が。なんてことない毎日の装いがこいつにかかると渋谷の一流ブランドみたいなものになっちまう。


 『こんちわ~。あれ、今日はまた晴れやかですね。白地に小さな花柄が何ともチャーミングで。トップがそれで下に無地のグレーを合わせたんですね。良いセンスしてます。帽子の麦わら色が全体に抑えてくれて、極めつけが日よけの布! 濃い色でないのが冴えてます!』


 ……要するに野良仕事の格好だ。田舎のばっちゃんに「冴えてる」もないと思うんだが、照れひとつなく言い切るから、言われた方が本気にする。手に草刈り鎌を持ちながらほほを染める姐さん方。ちょっとシュールでもある。


「お前、先週も来ただろ。何やってんだ」

「大丈夫だよ。仕事は万全に済ませてるし、遊び仲間には伝えてあるし。何よりここは空気がうまい。リフレッシュには最高さ!」

「こっちにはストレスの元だけどな。お前が来ると畑仕事が倍になる」

「それは仕方がないな。何せ、生まれてからずっと街暮らしだからね」


「都会に居て畑いじりは無理だと分かるんだが」

「なら無理云うんじゃないよ、分かってるならさ」

「お前が来なきゃ問題ない」

「まったまた~、照れ隠しもいいけどたまには素直になれよ」

「あのな……」

 駄目だ、こいつに口で勝とうなんて100年たっても出来っこない。


「あらまぁ海斗クン、来てたんかい!」

「あ、こんにちはぁ。今日もおきれいですね~」

「まあやだ、海斗クンたら。こんなおばあちゃんからかっちゃ駄目じゃない~」


「いえいえ、まだ十分お若いですよ。その肌の張り具合! 十代の女の子と同じじゃないですか。やっぱりここの環境がいいんでしょうね、皆さんホントに輝いてますよ~」

「まあああ、嬉しいこと言ってくれるわねぇ~」


 こいつ、いつか後ろから刺されるぞ、きっと。

 お姐さん方と盛り上がる声を背景に、オレは黙々と作業の続きを開始した。



 畑の世話を終えて、家に戻る。抜いた大根は今夜の晩飯と『はなみずき』で使う分とに分けて棚にしまった。その間海斗は玄関先で鼻歌を歌っている。手伝うと悲惨なことになるってのに、何もしないで立っていられると理不尽な気分になる。こいつ、また昼飯を作らせる気だな?


 一言言ってやろうと口を開きかけたが、その前に、

「あれ、めっずらしいな~。車が来たよ、ハジメ」

「ん? くるま?」

 指さす方向を振り向けば。


「あれは……駅前のタクシー、だな」

「僕と同じだね。あれ、こっちを目指してるみたいだけど知り合いかい?」

「まさか。ここまでくるもの好きはお前くらいだよ」


 言いあっているうちに車は道を曲がって走ってくる。確かにここを目標としているようだ。

 見守っていると、やがて車は止まり、中から男が二人下りてきた。


「誰だろうな、あれ……って、ハジメ? どうしたんだい?」

「あいつは……」



 この世で一番会いたくない顔がそこにあった。







読んでいただき、ありがとうございます!

不定期更新になりますが、気長にお待ちください(汗、汗)

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