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閑話 ~ 獣人たちの日常 ~

『氾濫』後のトートーの街の様子を描いてみました。

『氾濫』終了後の後始末も終わり、日常が戻ってきたトートーの街。

 冒険者ギルドはいつも通りの騒がしさに満ちている。


「今日の仕事は街の周りの伐採だ!気ィ抜くなよ、おまえらぁっ!」

「「「おうっっ!!」」」

「『氾濫』であんだけ引っこ抜いたのに、もう繁ってやがる。今度こそ徹底的にやってやるぞ!」

「「「おおおっっ!!!」」」


 恒例の「伐採処理」に大勢の冒険者が参加する。ここの森林地帯は木の成長速度が恐ろしく速く、手を抜いているといつの間にか隣り街との街道を占拠されてしまう。森林地帯の街の宿命だが、獣人にとっては大した仕事ではない。木を伐採し、飛び出てくる魔獣を狩り、昼はその魔獣を調理してバーベキュー大会を開催する。冒険者同士の絆を深める、一種のイベント扱いになっている感がある。


「おやっさん、今日のメシは一段とうめぇな!」

 ビッグボアの串焼きをほおばりながら、舌鼓を打つ冒険者たち。


「今日のこれって、タレがうまいんだよ。こんな味、いつ作ったんだ?」

「ちょい待て。これ、あの『氾濫』の時に食ってたものと同じような味だぞ。あの人族のさ」

「ああ~、そうか。そういや似てるな。おやっさん、そうなのか?」


「ん? まあそうだな」

 香ばしい匂いを辺りにまき散らす串焼きを並べながら、ボストムが答える。

「あんときと同じじゃないが、似たようなものを教えてもらったからな。いろいろ工夫してたれにしてみたんだが、イケるな、こいつぁ」


「イケるってそんなもんじゃない、うめぇよ! く~っ、どんだけでも入りそうだ!」

「おいおい、いい加減にしとけよ。あんまり腹膨らますと、午後から動けねぇぞ」

「こいつがうますぎるんだっ! 俺は悪くないっ!」

「こいつ、変な理屈こねやがって」

「おおい、そいつこっちに引っ張って来い! いっちょ揉んでやる!」


 ワイワイと騒がしくて、ちょっと荒っぽい獣人たちの昼が過ぎていく。




 同じころ、礼拝所にリンドが居た。

 この世界は死んだら火葬にして、その灰を風に流す。アンデッドになるのを防ぐためだ。そしてひと握りの燃え残りを器に入れ、霊安室に保管する。故人を悼む時はその上にある礼拝所で祈りを捧げるのだ。


 正面においてある入れ物に摘んできた花を入れ、見上げる。色とりどりのガラスの破片を繋ぎ合わせ、あたたかな春の陽射しとその風景を模した画が、ここに来る者の心を慰める。


「なあジャズル。『氾濫』も無事に乗り越えたぜ。お前も今は楽になってるか?」

 その風景画に語り掛けるリンド。画の中に小さなリスが居るのに気づいたのは最近だ。木の枝に座り、両手で木の実を抱える姿が、在りし日のジャズルに重なる。


「思えばお前は厨房でも、いや、街の中でも小さくなっていたっけな。もともと小柄だから気にしたことはなかったけど。……気にしなさすぎだったんだろうな、俺っちが」

 軽く唇をかむ。今更のように後悔が押し寄せてきた。

「もっと前からお前に気づくべきだった。お前のどもる癖も、何も言わない、ため込む癖も、俺っちの方がよく知っていたはずなのに。何もしなかったせいで、イチに向かって暴発させちまった」


 あの瞬間、厨房の入り口から見ていたリンドには何が起きたのか、正確には分からなかった。だが、ジャズルが短剣を振り下ろした瞬間、泣き笑いの表情を浮かべたのが目に焼き付いたままだ。


「お前、Dランクだったんだな。スゲェよ。俺っちなんてEだぜ。だから今日の「伐採処理」にも混ざれなかったんだけどよ、お前は毎回行ってたんだろうな」

 そんなことも気づかなかった自分のうかつさに笑ってしまう。

「まあ、そのおかげでお前とゆっくり話す時間ができた。知ってるか? ギルマスってさ、あんな能天気な人なのに、10日に一回、ここで黙とうしているんだ。俺っちも偶然知ったんだぜ?」


 ここで跪き、たっぷり1分間じっとうつむいたまま動かない。普段は陽気でいささかガサツなギルマスだけに、その様子は現実とはかけ離れて見えた。声をかけることもはばかられて、そっと離れたのだが。

「Aランクになるまで、楽しいこともうれしいことも、そして辛いことも味わってるんだろう。けど、それを呑み込んで生きてきたからこそ、ギルマスとしてここに居るんだと思ってる」

 下に言っていた視線を戻す。


「お前も、後ろじゃなくて、前を見ていたらな。せめて、俺っちがお前と話していたら違ったんだろうか。それが心残りだよ」

 繰り返す場面はあの瞬間。これからもまた繰り返すだろう。

「声をかけて、話を聞いていればわかったかもしれないのに、それをしなかったのは俺っちの罪だ。これからも罰としてずっと背負っていく」


 この痛みを忘れないようにしないといけない。そう思う。

 もう一度、見上げる。画の中のリスは木の実を抱えて幸せそうだ。

「せめて今のお前に安らぎがあるように。それだけを願う」

 あばよ。心で別れを告げ、リンドは出ていく。昼の陽射しが礼拝所に満ちていた。




「よっしゃ、これが最後の書類、ッと。終わったぜぇぃっ!」


「伐採処理」から戻って数時間。外はそろそろ暗くなり始めている。ローガルトは大きく伸びをした。同時に扉が開き、リリカが入ってくる。

「お疲れ様です、ギルマス。これが次の書類です」


「だああぁっ! 終わった瞬間にお代わり持ってくんなよ! どっかから見てるんじゃないだろうなっ!」

「誰がそんな悪趣味なことを。こちらも忙しいんです。早く片付けて帰りたいんですから」

「…………」


「あ、これは明日の昼までで十分です。今はまだ手一杯ですので」

「なに? じゃ、明日の朝持ってくればいいじゃねぇか。わざわざ今持ってくる意味は何だ?」

「出勤してきて机の上にあるとやる気が出ませんか?(にっこり)」


「こいつ、前に増して強気になってきやがった……」

 半目で睨むギルマスを完全にシカトして机の上を整理していく。処理の済んだ書類はひとまとめにして横によけ、持ってきた書類を目の前へ。


 そして、その上に乗せたものは。

「お? おおっ! 『じゃあきぃ』っっ!!」

 言葉と同時に手が伸びてひっつかみ、口の中へ。広がる至福の味に顔が土砂崩れする。


「あああああ~~~っっ! うンめぇぇっ~~!」

「さ、もうひと頑張りしてください。後で食堂の定食を持ってきますから」

「うんうん、オレぁ頑張るぞぉ~~!」

 生気の戻った顔で猛然と仕事を始めるギルマスを目の端にとらえ、部屋を出る。


「本当に効果あるわね、あれって。3日分の仕事が片付いちゃったわ」

 にんまりと笑いながら階段を下りるリリカ。

「イチ様に連絡して定期的に仕入れられないかしら。う~ん、悩みますわ」

 ギルマスをうまく使う方法を見つけたリリカ。その顔が怖い。





シャンガリアン王国編はこれで完結です。

この後を現代にしようか、別の国にしようか迷っています。

なので、しばらく更新を止めます。

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