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モンタディル王国 動乱 その4

モンタディル王国の内部事情です。

サブタイトルのフラグ回収、とも言います。

「オレが知っている理由はだな、きゅうり、じゃない、キュリオス陛下が失踪した時、滞在していたのがオレのじいちゃんの家だったからだよ」


「な・ん・じゃ・と・ぉ!!」

「どういうことだ!?」


「どういう事も何も。陛下はあの腹黒AIの手を借りて、じいちゃんの家に逃げ込んできたんだ」

「逃げ、こむ……」

「あの時、陛下は危なかったんだよ。いつ何時どうなってもおかしくなかった」


「それはどういうことだ!近衛騎士や近習が周りを固めていたんだぞ、おかしな奴が入り込めたわけがない!!」

「ザル亀爺さんは近くに居たんだろ?その意味わかるかい?」


「……まさか、あの女狐、か?あ奴が手引きしおったかっ?!」

ジェイド先生の顔が怒りに染まり、オークのような形相になる。王宮の時にはこの顔の先生に近寄れるものは誰もいなかった。それほどすさまじいのだ。


けれど、店主は顔色一つ変えない。それどころか、

「残念だけど、爺さんの考えている『女狐』と『元凶』は違うんだよ」

更にとんでもない爆弾を落とした。


「何が違うというのじゃ、あの時の状況では疑わしいのはあ奴しかおらんかったのじゃぞ!」

「あまりにあからさまなのは怪しいと思わないのかい?」

「な、なんじゃとぉ?」

「もう一つ言うと、『女狐』という役目を持たされた『人形』だったんだ」

「ば、馬鹿な!!」

赤かった先生の顔から今度は血の気が一気に引いた。音がするかと思うくらいにその変化は激烈で、相当な衝撃だと察せられた。だが、私にはさっぱりわからない。

「先生、その『女狐』とは誰のことを指すのですか?」

話に割って入るのは野暮だと思いつつも、情報を求めて聞いた、が。


代わりに答えたのは店主だった。

「そうだな、身内のことだし、殿下も知っておくべきだろうな」

私が頷くのを見て、ゆっくりと口を開く。

「5年前だと殿下はまだ王宮に居なかったんじゃないかな」

「ああ。3年前に離宮から呼び出されて、部屋を与えられたんだ」

それまで私は王族の認識すらされていなかったのだ。だからこそ、隠れていられたとも思う。


「そうか、離宮なら手が届かなかったんだな。なら、わざわざじいちゃんに頼ることなかったのに、あのきゅうり親父め、面倒事に引っ張り込みやがって」

顔に似合わぬ言葉遣いでののしった後、取り繕うように咳ばらいをひとつ。


「あの時、王宮はある人間に牛耳られていたんだ。本当に隅から隅まで」

あと少しで陛下まで届くところだった、と、彼は語る。

「最もきゅう、いや陛下はうまくかわしていた。だからこそそいつらは実力行使に動き、寸前で陛下は辛くも生き延びたんだよ」

「君はその『人間』が誰なのか知っているのか?」

「陛下がじいちゃんの家に逃げ込んできた際に、話してた内容で強制的に教えられた、のが実態だな。もともと権力の中枢なんてのは伏魔殿になりやすいし、野心満々なやつらが集まるんだから当たり前ちゃあ当たり前なんだろうけど」


「……小僧。それは……本当に、そうなのか……?」

絞り出すような声で先生がつぶやく。

「事実だ。あの後一気に改革があったろ?あれ、うちの腹黒AIが情報提供したらしいから間違いなく掃除ができたと思うよ」

「なんとまあ、とんでもない奴だ……!」

「だろう?あの腹黒AI、拘らない方が無難だと思うよ」

それに付き合っている彼も相当なものだと思うのだが、彼の認識では違うようだ。


「今の話から行くと、改革の中心が王妃を輩出した宰相の一族郎党を排除したことになると思うんだが」

「今でこそわかる真実って奴だな」

「本当、なのか?」


「ザル亀爺さんの顔色見ればわかるだろ?当時は清廉潔白で通っていた一族が、実は裏でヤバい稼業を仕切っていたなんて、笑い話にもならんからな」

「聞いた時はまさか、と耳を疑ったが……真実だったとはな。ははは、儂も老いたものよのう」

乾いた笑い声をあげた先生が、店主を見据える。

「まさかと思うが、すべて繋がっているとでも言うつもりか?」

「少なくとも5年前と今回の騒ぎは同じ根っこだと思ってるよ」

「何を根拠に言う!」

横で見る先生はいやに好戦的で感情に振り回されているようだった。はらはらしながらも、話の行く末に興味があり、止めるかどうか迷っていた。


店主は淡々と言葉を連ねている。

「5年前にすべての元をつぶせればよかったんだけど、あの時陛下の基盤はそれほど強くなかった。強力な証言と言い訳不可能な証拠があっても逃れ出た輩は居たんだ。そいつらが雌伏して力をつけ、反撃したのが2年前の暗殺未遂だった。今度は陛下も万全の態勢を敷いて迎え撃ったから、周りに緘口令を出すだけで収められたんだよ。でなかったらお家騒動再び!の事態だったんだから」


話の内容に驚愕する。隣近所の噂話を伝える口ぶりだが、宮廷内部の事情を知らないとここまで出来ないことを知る身としては、店主の存在が不気味にも思えてきた。


「それが今度の騒ぎにどう影響しているというんじゃ」

「それはさ、ある意味ザル亀爺さんのせいでもあるんだな、これが」

「なっ、馬鹿な事言ってるんじゃないっ!!」

またしても先生の癇に触ったようだ。彼は全然気にしていないが。


「爺さんの影響力って結構あるんだよ?居るだけで抑えになってたんだから。それが、2年前の騒ぎで毒薬の管理云々とか屁理屈つけられて、それに嫌気がさした爺さんが宮廷を飛び出しちまった。うるさい目がなくなってこれ幸いと動き出したのが真相だよ」


「……儂の後はケインツのはずじゃ。あ奴がそんなミスを犯すとは思えんが」

「爺さんの後釜に問題はないよ。困るのは殿下の関係で絡んでくる力だと思う」

「な!私の?」


いきなり飛び火した気分だった。元凶だと名指しされたようなものだったから。

だが、先生はひとつ頷く。

「なるほど。殿下のお血筋、ひいては隣国との綱引き、じゃな」

「先生、そ、れは……」

「事実ではありますな。そのことは殿下もお認めになられるでしょう?」

「…………」

確かにそうだった。先生に言われるまでもなく、自分自身は納得していたのだ。


だが、そうではなかった者もいて。

「殿下は悪くございません!!」

「うぉっ!?」

入口から乱入してきて私を背後にかばったのは、

「クラウス!」

「生まれだけで殿下を非難することは許されませんぞ!」

私の大事な友だった。額に包帯を巻かれ、あちこちに血をにじませながらも、彼は私をかばおうとしている。


そんな彼にのほほんと声をかける店主。

「なかなかの忠義だねぇ。見上げたもんだ」

「貴様は誰だ。殿下に近づくな」

「でもって狂犬かい?見境なくかみつくのはよくないよ」

「黙れ、平民が!」

「もうひとつ、貴族だ平民だと差別するのもやめた方がいい」

一息ついて、

「そんなありさまだと、すぐに潰されちまうよ」

目に憐れみを載せながら警告を発する店主に、私は心のどこかで怖れを抱いた。


「こいつ……!」

「やめろ、クラウス」

拳を握った手を抑えながら、私はクラウスを引き留めた。

「ですが殿下!」

「彼のいう事ももっともだ。第一、私も君も彼に助けられている。その礼も無しに、今の言い方はまずいと思う」

「ぐ!……わかり、ました」

渋々ながらクラウスは引き下がってくれた。その肩を叩いていたわりつつ、店主を見る。

「クラウスの暴言を含めて謝罪する。私たちを助けてくれたこと、先生の元まで送ってくれたこと、感謝に耐えない。今は無理だが、必ず礼を返そう。申し訳ない」


そう言って、頭を下げる。迷っていたようだが、クラウスも一緒に礼をしたようだ。頭を上げると店主の困った顔が目の前にあった。






「キュリオス陛下」⇒「きゅうり親父」

……自分の命名ですが、泣けてきました(ひどすぎて)

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