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モンタディル王国 動乱 その3

新しいキャラクター登場です。

「さあ、こっちに来てくれ。口に合うかどうかわからないが、腹は膨れるはずだ」

カウンターの向こうから呼びかけられる。言われるままに向かい合うと、目の前に四角いトレーごと差し出された。


「さっきまで作っていた『豚汁』、いや、この場合は『ボア汁』かな。ファングボアの肉と野菜を煮込んでスープみたいにしている。それと『ご飯』だ。作法はいいから適当にどうぞ」


大きなボウルに茶色い汁、その中にどっさり入った肉と野菜がいいにおいをさせている。スプーンですくってこわごわ口に入れると、肉と野菜のうまみがはじける。ちょっと熱いが、それさえもごちそうだった。『ご飯』も掬って一緒に食べると、スープの味になじんで何とも言えない甘みが感じられた。


横にあった小さな皿には刻んだ野菜が入っていた。コリコリとした食感で、酸味と塩味がたまらない。

カウンターの向こうでも同じように食べているが、スプーンではなく2本の棒を使っている。かなり器用な食べ方だと感心してしまった。


しばらくは咀嚼の音だけが響いていたが、それも終わる。気づけば腹の虫も満足したようだ。

「おいしかった。感謝する」

「そりゃよかった。ごちそうさまでしたっと」

トレーを引き上げ、今度はコップを渡してくる。茶色の湯が優しい香りを立てていた。

「お腹納めだ。ゆっくり飲んで休んでくれ」

「わかった。ありがとう」

「紅茶が良かったら言ってくれ。あまりうまくはないが淹れるから」

「いや、これで十分だ」


ほんのりと甘く感じる風味を楽しんでコップを空にする。

いつも食べている物と比べて品数は無いし量も少ないのに、この満ち足りた幸福感はとんでもなく大きい。作法を気にすることなく、只管に飢えを癒やすだけ。そんな食事のもたらす効果にめまいさえ覚えた。


「さて。腹も膨れたし、移動すっか。今回は特別に、ザル亀爺さんの診療所につなげてくれ」

『了解しました。今の時間だと、まだ残っていそうですしね』

「ああ。ついでにこの二人も診てもらった方がいい」

『……接続完了しました。推測通り、いらっしゃいますね』


「そうか…じゃ、行くか。あんたも来てくれ」

「行く?ど、どこへ?」

「論より証拠だ。ついてきてくれ」

そう言って側近を抱き上げ、扉を開ける。


    カランコロン   カラカラカラカラ・・・・・・


『行ってらっしゃいませ』


扉の外は相変わらずの闇の中。だが、その正面に木のドアが見える。

ノブを握って開ける、と。


「こんばんは~っ。ザル亀爺さん、元気してるかい?」

「だあぁぁっっ!!ザル言うなあぁぁっ!!」

反射的に突っ込んできたのは、白衣をまとった赤ら顔の年寄りだった。


「お~お、相変わらず飲んでるなぁ。そんなに浴びてると体がイカレちまうぞ?」

「ふん、抜かせ小僧。これが楽しみでここに居るんじゃ。他人の声なんぞ知るか」

「口の減らない爺様だよ、ったく」


調子よく掛け合う言葉も耳に入らない。何せ目の前にいるのは…。

「ジェ、ジェイド先生、では?」

「あぁん?先生、だ、と?……!で、殿下ぁっ!?」

「やっぱり先生だ!お久しぶりです!」

「あ~らら、確定しちゃったよ、これは。どうするかな?」

静かだった診療所が一気に騒々しくなった。


「やはり、こうなりましたか」

あれからしばしの後。応急手当しかしていない足の治療と、まだ目覚めないクラウスの診療を行い、どちらも問題ないとわかったことから、これまでの経緯を伝えたところ、聞き終わった後の反応がこれだったのには正直驚いた。


「先生は、わかっておいでだったんですか?」

「近い将来、起こりうることだとは思っておりましたよ」

ため息交じりに老医師は語る。


「火種は十分にあり、それを煽る者も敵対する者もありました。そうならないための方策とてありましたが…いかんせん、力を持つ方たちが夢中になってしまいましたからな」


権力は抜きがたい毒のようなものです、そう言って肩を落とす姿を見て、この人も弾かれた側なのだろうと理解した。先生が消えた2年前、あの時に起きた様々なことが、今、ある意味で結実しようとしているのだ。ひっくり返すのは難しいのかもしれない。


「それにしても、お前さんがこういうことに絡むとは…何か心境の変化でもあったのかね?」

物思いにふけっている間に、先生が話しかけたのは彼、『店主』だった。

「いやぁ、オレも乗せられたクチでね。元凶はうちの腹黒AIだよ」

「ほぉお?そんなに言いたくないことかの?」

「睨んだって何にもないよ。オレだって聞きたいくらいなんだから」


「ふん。なんにせよ、おかげで殿下とクラウス殿の命が救われたのは事実じゃ。あ奴に礼を言っといてくれんか」

「そんなことすると、余計に調子に乗りそうなんだがな。ってことで、オレは帰るよ。もう遅いし、これ以上拘る気はないからな、あとは頼む」

「待ってくれ、あなたのしてくれたことに何の礼もしていないのは…」

「気まぐれってことで勘弁してくれ。じゃな」

「待て待て、小僧。せめて名前くらい置いていかんか」

「それが面倒ごとを引き寄せる元となるんじゃないか」

だから殿下のことも聞かないだろう?そういわれると何も言い返せない。


「せめてキュリオス陛下へと伝えたいのじゃが…」

そう呟いた一言に店主の動作が固まった。

「キュリオス…キュリ…あの、さ、すっごくぶしつけな質問だけど。キュリ…オス、陛下って金髪で、青い目で…語尾に『…だぞよ』って、つける人、かな?」

「「!!??」」

「違うよね、まさかあのきゅうり親父がキュリオス陛下と同一人物なんて、ねぇ?…え?」

「「きゅうりおやじぃ?!」」

再び診療所は狂乱の渦と化した。


「やれやれ、だからあいつ、干渉したんだな」

診療所の奥、普段の生活の場としている部屋で今、3人は座っていた。

紺色の帽子を取って、髪をかき上げる『店主』にジェイド医師が視線を向ける。

「答えてもらおうか。なぜ、お前さんがキュリオス陛下を、いや、陛下らしきお方の口癖を知っている?」

「それと、きゅうりおやじ、か?その呼び名は何なのだ?」

二人の質問に、頭をひねったまま唸る『店主』。


「そうだな、どういえばいいのか……まずは、だ。答える前に一つ、いやふたつ質問させてくれ。陛下は以前失踪か行方不明になったことないか?」

「う、うむ、5年ほど前じゃったか、姿が見えず大騒ぎになったことがあったの。まあ、5日後にひょっこり帰ってこられての。友人のところに遊びに行ったら大雨で橋が流されて困ったと言うておられたが、あの時は快晴の日が続いておって、一同首を傾げたもんじゃが」

「私はまだその時は王宮に居なかったからよくわからないな」


「あ~やっぱりねぇ。じゃ、あとひとつ、2年前に暗殺されかかったことは?」


「!!どうして知っておるんじゃ!」

「それは上層部で極秘扱いになっていたはずだ。どこで聞いた?!」

いきなり殺気立った二人を前に、顔をしかめる。


「あちゃ~、ビンゴだねぇ。これで決まりだな。ザル亀爺さんも殿下も落ち着けよ。オレが知っている理由はだな、きゅうり、じゃない、キュリオス陛下が失踪した時、滞在していたのがオレのじいちゃんの家だったからだよ」





「ザル亀」の意味ですが。

ザル……底抜けの呑兵衛  亀……これも呑み助の別名

総じて「底抜けのんベエの爺さま」とイチは認識しています。

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