モンタディル王国 動乱 その1
異世界編始めます。
前の国とは違うところです。
モンタディル王国、マトゥリス地方にあるシュルナの森。
天に向かって突き出す勢いの竜骨山脈から流れ出す豊富な魔力に支えられ、うっそうと繁る恵み多き大森林のすそ野に近く、さりとて害獣もそう多くないという人にとっては理想的な場所。
だが、今、その森の中では、血なまぐさい戦闘が行われていた。
狩人は12人。いずれも黒装束黒覆面の、いかにもアサシンと言わんばかりの剣呑な雰囲気をまき散らしている集団だ。
対して、獲物はふたり。いや、当初は何人かいたが、追い回されているうちにひとりまたひとりと削られていったようだ。
「くっ…!」
「殿下、こちらへ!」
大小ふたつの影がもつれるように下草をかき分けていく。走るというより音を立てないようにというべきか。
やがて現れた大きな岩に足をかけてのぼり、岩と岩の間の隙間に身を伏せた。
ほどなくして、追跡者たちが現れる。
「ここで途切れている、な」
「ふむ。遠くには行っておらぬだろう。お前とお前はこっちへ、お前たちはそっちを探せ。俺と後二人はこの方向へ向かう。10分後に再集合」
「承知」「了解した」「任せろ」
「散開」
いくつかに気配が分かれて遠ざかる。隠れていた二人はそっと息を吐きだした。かなり上までのぼったため、気づかれずに済んだらしい。
「つぅっ!」
「!、どこかお怪我を?!」
「い、いや、足をひねったらしい。今までは気が付かなかったが」
暗がりで分かりにくいが、足首が腫れているようだ。
「…では、殿下はここにおとどまり下さい。私が引き付けてきます」
「!!」
「この森を抜ければシーランの街です。連絡もできるはずです。それまでは見つかりませんように」
「ま、待てっ、それでは!」
お前が死ぬことになる…言葉にする前に彼は岩から飛び降りて走り出した。
姿が見えなくなった先で争う音がしたものの、それすら消えて、独りになった。
「この怪我さえなければ……くそっ」
ジクジクとした痛みはごまかしようもなく精神を苛む。大事な側近の心配と身に迫る刃の恐怖を抱え、叫びだしたいのを押し殺すのがだんだんつらくなってきた。
ふと、その鼻先に何かが匂う。
「ん、これ、は…?」
狭い隙間の中で苦労して身をよじり、背後を見る。行き止まりと思っていたそこの先に、ちらちらと漏れるのは明かり。
「?」
訳が分からず固まってしまったが、目をこすってみても、そこにあるのは確かな光源。逡巡はしたが、今の状況を考えて動くことに決めた。
穴の大きさからみて立ち上がっての移動は難しそうだった。ひねった足の問題もあり、四つん這いの姿勢で明かりを目指すが、そのうち、違和感を覚えて周りを見ると。
「え?ここはどこだ?」
魔力を鍛えていたこともあって、そこがいわゆる異空間であり、自分が紛れ込んだ異物であることも分かった。こうなった場合、すぐに排除されるのが普通だ、が。
「いい匂いがするな…」
木切れで組んだような扉から漏れ出てくる匂いが、胃袋を刺激していた。
捻った方の足に力をかけないよう慎重に立ち上がり、扉に手をかける。
カランコロン カラカラカラカラ・・・・・・
軽やかな音と軽い感触で扉が開く。中にあった匂いが彼を迎え入れた。
「え?どちらさま、ですか?」
奥から声がかかり、若い男性が出てきた。見たところ、自分と年齢もそんなに違わないようだが。
不思議な紺色の衣装に白い布を腰に巻き、頭に紺色の帽子をかぶった、見慣れない風貌の男。何かやっていたのか、手にはお玉を持っていた。
「え?あれ?お客様、かな?ロット、今日は予約なかったよな?」
『はい、最新のお約束は2日後の1800ですね』
「だよな~。オレ、予定を間違えたかと思ったよ」
『マスターが忘れても私にそんな機能はありません。第一、ここは独立空間ですから入られる方がおかしいんですけど』
「あ~はいはい、ロットは優秀。じゃ、なんでこの人はここに居るのさ?」
『なんででしょうね?案外マスターの料理に惹かれてかもしれませんよ』
「嘘つけ」
「だ、誰としゃべってるんだ!?」
最初はまともそうに見えていた彼が独り言を言い出した時には面食らった。
だが、その独り言に応えがあり、しかも的確に会話をつないでいると知ったときは驚きよりも畏怖が先立ち、思わず叫んでしまった。
「え?あ~、そっか。見えないとそういう対応になるんだよな。ま、仕方ないか」
「見えない相手と話すお前はい、一体何者だ!ここはどういうところなんだ!!」
「あらら、パニクっちゃったよ。どう見ても冒険者とは思えないし…ロット?」
『敵対行動を感知しました。後12秒で気づかれます』
「そうか。ではまず空間封鎖、それと外部モニター起動、音声含むやつを頼む」
『了解です…起動しました』
その言葉と同時に、空いたままだった扉が閉まり、表の明かりが消える。そして、扉の前面に映像が映りこんだ。
「こ、これ、は!」
「ああ、心配ない。外の様子を見てるだけで、こっちのことは分からないから。あと、その辺の椅子に座っててくれればいいよ」
「あ、ああ」
そこに映っているのはまさに先ほどまで自分たちを追い回していた集団が三々五々集まってきているところだ。
『いたか?』『いや、こっちには見当たらない。そっちはどうだ?』『一人矢で射かけたんだが、そこの崖から川に落ちた。目標とは違うと思う』『ここまでは確かに追い詰めていた。この周辺をもう一度徹底的に探して討ち取れ』『おう』『この岩の上はどうだ』『承知』
「い、いかん!見つかるぞ!」
「あ、大丈夫大丈夫。空間を閉じちゃったし、連絡路も打ち切ったからここまで来ないよ」
「くうかんふうさ?れんらくろ?とは何だ?」
「え~とだな、今いるここの空間…位置座標を連続する座標から切り離した…ってわからないよな。平ったく言うと、ここだけ別の袋に入れて口を締めちゃったようなもんだ。この画像はその袋に小さな穴をあけて外の様子を見ている。そんな感じだ」
「ますますわからない…が、向こうが感知できないらしいのは分かった。騒いですまなかった」
「謝罪はいいよ。どうやらのっぴきならない状況のようだし、何よりきな臭い…そうだろ、ロット?」
『どういう意味合いの同意を求められているのかわからないので即答は控えます』
「何をまた。本来ならあり得ない事態だろ、この人がいる時点で。なら答えはひとつだ。お前……分かってて招き入れたな?」
のっけから物騒な場面となりました。
イチの口調を少し変えました。ちょい悪風味で(笑)




