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結末 ある会社での出来事 その1

少し胸糞の表現があります。ご注意を。

「まだ突き止められんのか!」

「接続が複雑で突き止めるのに時間がかかるんですよ!」

「泣き言なんぞ言う暇があったらさっさと解析しろ!」

「管理者37号が接点を離席します!接続が切れますっ!」

「もたもたするんじゃないっ、接点解析を急げ!それと痕跡の調査も併せていけ!」

「あ、切れますっ!……接続領域消滅しましたっ!」

「すぐに追えっ!痕跡はどうしたっ!」

「痕跡が見当たりませんっ!領域消滅と共に消えましたぁっ!」

「くっそぉぉっ!にげられたかっ!」


MMO形式のオンラインゲーム『Another Life』、その管理会社である『Q&M'sコーポレーション』の一室では阿鼻叫喚の騒ぎとなっていた。



「どうしてだ?!どうして捕まらないんだ!?」

オンラインゲーム『Another Life』の管理室長 木崎はチーフ室の椅子を蹴り飛ばし、テーブルの天板を殴りつけて怒鳴る。


1年前、木崎は親会社からここへ派遣の形で出向してきた。親会社では課長補佐を任されていたが、いくつかの案件でミスを繰り返したのと先方からの苦情が重なり、この措置となった。


曰く『補佐という身分でありながら上司の意見に口をはさむ』『顧客の立場を考えない利益優先の行動が目に余る』挙句に『挨拶のない相手には尊大になり、判明した時点で手のひらを反すさまは滑稽を通り越して不気味である』とまで言われた。


『あの社員を上位に据える貴社と誠意ある取引が継続できるとは思えない』こういった苦言を呈してきたのが長く付き合いのある会社役員ならば、取るべき方向は決まったも同然だろう。

だが、いかんせん本人に伝えられることは滅多にない。


木崎本人は『先の見えない耄碌爺いに冷や飯を食わされた』とありもしない仕打ちに憤り、『こうなったら手柄を上げて見返してやる!』と決意しつつもやることは横暴の一言に尽きた。

とにかく実績を上げろとばかりに管理室の社員を小突き回し、叱り飛ばして、うまく回っていた社員の和を乱すだけ乱していながら何も頓着せず、逆に『周りの無能なやつら』と見下して一向にかまうことがなかった。

当然誰からも嫌われて、ますます評判を落とすだけになっているのも『才能がある人間は恨まれるからな』などと、自分を肯定する材料にしかとらえていなかった。


そんななか、見逃されていた『はなみずき』を拾い出してしまったのが今の狂騒状態になる原因だった。


当初はバグとして早く処理するようにせかしていたのだが、管理者からの情報を精査するうち、その高性能に気づいて『これを手に入れて制御出来たら……!』という妄想に取りつかれ、追い回すこととなった。


「一体、こいつのどこに秘密があるというんだ」

木崎は手元の資料に目を落とした。

「バグ処理一覧」と題されたそれは、このゲームが起動を開始してから巻き起こったいろいろなバグや不手際を処理し、訂正していった内容が書かれている。『処理済』の赤字で埋められているなか、『ファントム』のみが残されていた。


『ファントム』。まさしく幽霊のごとく現れ、追いかけるものの手をあざ笑うかのように痕跡一つ残さずに消えるシステム。『はなみずき』のことを管理会社はそう呼びならわしていた。

『ファントム』に気づいてから約半年の間、木崎は解析しようと試みているが、今のところ全戦全敗なのがいたく癇に障っている。

このような状態なのだから、親会社へは知らせていない。自分の手柄を取られると視野狭窄に陥ってしまって、どんな手段をとってもと思い詰めるまでになっていた。


「こうなったら搦め手でも何でも使って絶対に手に入れてやる!」


蹴られて遠くに離れていた椅子を引き寄せ、手元のPCを起動する。

最後に接点となっていた管理者番号37番、相川美智代を呼び出す。


「はい、相川です」

「『ファントム』に関する情報をすべて渡せ」

「…それは個人情報も含めて、という意味ですか?」

「そうだ。『ファントム』を捕まえるにはあらゆる手を使わないとだめだ。リアルからも接触を試みる」

「室長……ですがおすすめはしません」

「なに?どういう意味だ」

「『ファントム』と接触した時の内容から導き出した判断です」


「……」


「あれは、手を付けるべきではありません。変に刺激したなら、手ひどいしっぺ返しを食らいます」

「ふん、管理AIがしっぺ返しだと?なんの寝物語だ?」

「おかしい話ですが、実際に管理できていません。前室長もそのお考えでした」

「確かにAIとしたならすごいだろう。だが、リアルの人間側から接触すれば何ということもない。そこから突破して見せる。さっさと情報を渡せ」


「…了解しました。ですが、危険だという事は再度お伝えします」

「うるさい!しつこいぞ!」


その会話から数秒、『ファントム』関連の情報が表示された。


「ふむ、ガチャイベントで入手した登録者は『ゼロ』。本名は佐久和全太郎……死んでるのか?なら、次の登録者は……いない?ゲーム関係者ではないって事か。なら、あとは家族だな」


インターネットに接続してキーワードを打ち込み、検索する。木崎の特技でもあり、成り上がるための武器でもあった。すぐに反応があり、さらに絞り込むと、全太郎の後継者と思しき人物にたどり着いた。


「ふん、こいつか。佐久和肇、今はテレワークで田舎に引っ込んでいる。よし、こいつでほぼ決まりだな。こんな若造、あっという間にひねってやるさ」


大物が網にかかった感触に木崎は笑った。



どこにでもいそうですね、こういう勘違い人間は。

でもって、一番迷惑です。

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