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ファーステン 交渉 その3

大人の会話ってなんだか陰険……。


「さて、ギンさん。いえ、管理者さんかな。どうされますか?」


出されたコップを手に取った格好で固まったギン婆さんに問いかける。


「……管理者、とはまたとんでもないことを言い出したね、この子は」

「そうでしょうか?当然だと思いますが」

「アタシのどこが管理者なんだい。ギルドマスターのカインの方がよっぽど適役だろうが。こんなばばあを捕まえて何を寝言……」

「世迷言ではないですよ。もともと、3人の中の誰かだと考えていましたから」


「…………」


沈黙が辺りを支配する。コップを傾け、ギン婆さんののどがこくりと鳴った。

「何の根拠があるんだね、あんたは」


「このレアアイテムがガチャで出たからです」

「ほおぉ」

「その時、カインとワレント、そしてギン婆さんに相談したと、マスターゼロは言っていました。そして、わからずじまいだった、とも」

「ああ、確かにそうだったね」


「マスターゼロは管理者へ連絡せずに使用を続けていました。それはすごく不自然ですよね。ゲームの世界は管理された世界、その中で分からないものはないはず、ではこの事態はなぜ起きているのか」


「……」


「真っ先に考えたのは、MMOの管理会社が関与したアイテムで、企業秘密であること、つまり試作品の提供だったのではないか。これだ、と思ったんですけど」

「よくわからないけどそれでいいじゃないか。なぜ疑問に思うのさ」

「この店の機能がオーバーテクノロジーだからです」


「…………」


「あまりにも人間に近い、近すぎるAI、ワープとしか思えない接続機能、構造変化に対応する機能。どれをとっても今の世代ではありえない機能です」

「そうかもね。でも、こういう進歩は秒単位で行われるじゃないか。それはあんたが知らないだけじゃないのかい?」


ギン婆さんの答えにふっと口元が緩む。


「その答えが欲しかったんです。やはりあなたが管理者ですね」

「!!ちっ、乗せられたか」

「今までの会話でほぼ確信してましたけどね。AIだの、機能だのという言葉に反応できるのは同じ世界の所属ですから」

「ふん、じゃ、あてずっぽうかい」


「半分はね。でも、役割から考えてもあなたが適任ですよ?ギルマスでは冒険者にしか目が届きませんし、鍛冶屋は外の社会とは触れ合う機会が少ないでしょう?その点、あなたの魔道具屋という店、鑑定眼という特技、どちらにおいてもこの世界の誰か彼かにつながりが持てるし目が行き届く。情報も入ってくるでしょうし、万能なポジションだと思っていました」


黙り込み、しばしののちにため息をひとつ。

「やれやれ、そこまで見抜かれてたとはね。恐れ入ったよ」


やった!と心の中で快哉を上げる。まずは第一ラウンドの勝利だ。しかし、これからが本番。


「で?あんた、何が言いたい?」

「ゼロが生きていたなら同じ問いかけをしていたでしょう。このAIをどうするつもりなのか、聞かせてもらえますか?」


「……どういう意味だい?」

「先ほど言ったでしょう?管理会社はすべてを把握できる。では、把握できないものはどうするのか。バグとして処理をする、それが一番簡単で安全な行為のはずです。それをしていない理由は何なんですか?」


「それに答える必要があるのかい?」

「聞いてるのはこちらです。答えないのなら、こちらにも考えがあります」

「ほお、どんな考えだね?」

「ここから引き揚げて二度と来ません」

「さっきの約束を破る気かい」

「破らせるのはそちらです」


そのまま数舜、にらみ合う形で時が過ぎる。


先に目をそらしたのはギン婆さんの方だった。

「ふう、手強いね、あんた。わかった、答えよう。まだ結論が出ていない」

「答えになっていません」


「そういいたい気持ちもわかるけど、これが実態だ。このアイテムが出た時から総力を挙げて解析を続けているけれど、さっぱりわからない。バグとして処理するのが一番なことは最初から提案されていた。でも、できない。親会社が色気を出してしまったのさ」


「あまりの高性能に欲が出た、と」

「正解だよ。それからは接続されるたびにデータをとる方向で動いてる。この件については、もう管理会社の手を離れちまってるんだ」

「……」


「だから、忠告しておくよ。あんたの身辺に気をつけな。ここではなく、リアルの方のね。そうしないと危険だよ」

「そうかもしれません。管理会社ならオレのことを調べるのも簡単でしょう。その内容が親会社に行くことも止められませんしね」

「そこまでわかってるなら、さっさと逃げな。アタシが言うことじゃないけど、命あっての物種だろ?」

「そう、ですね。でも、多分大丈夫ですよ」


「……あんたのその自信はどっから湧いてくるんだい?」

「このAI、腹黒なんですよ。それも超が付くくらいの」

「?よくわからないけど……?」

「こいつは登録者をマスターとして認識しその上で動くんです。自分で考えて」

「!それは……」


「登録者を守るためなら何をやらかすか、わからないんです、オレでも」


「…………」

「それを知ってるから、でしょうね。気にしようがないんです」

「あんた……随分と肝が据わってるんだね。アタシなら怖くて捨てちまうよ」

「鈍感なんですよ、きっと。さて、遅くまで引き留めてすみませんでした。どうぞお戻りくださいな」


「…また会えたら……呼んでくれるかい?」

「ええ、いいですね。またお会いしましょう。その時はごちそうしますよ」

「おや、楽しみだね。気長に待ってるよ」


そう言いおいて、ギン婆さんは戸を開ける。


     カランコロン    カラカラカラカラ・・・・・・


ドアベルの音が響き、軽やかな戸の音が後を追いかけていった。


「さて、店を閉めて終わりにするかな」

ひとつ延びをして、最後の片づけを始めるのだった。






言葉のバトルって難しいです。雰囲気が出ているといいんですが…。


『 私だけじゃないんですよ、腹黒は。  by ロット 』 

    

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