15話『新人味満載の騎士』
屋敷の外に出ると、門の前にはすでに馬車が用意されていた。騎士団の紋章が刻まれた、豪華な作りの馬車である。
あのあと改めて母親――エレノアのもとへと向かい、王都行きの許可を貰いに行った。エマと共に俺も行くことを伝えると、『アストラが一緒なら安心できるわ』と笑顔で快諾してくれた。
信頼されていることに喜びを感じる一方、一人にすると不安がられるエマを少し不憫に思う。まぁドジだから仕方がない。ドジだから。
そして俺は、外に出かけるということで、エレノアにある装備を用意してもらった。
顔元が少し隠れる程度のフードがついた、お出かけ用のローブである。俺の白銀髪が、王都だとなかなかに目立ちそうなためである。シルク素材でかなり肌触りが良いし、即気に入った!
そんな俺の隣には、エマが並んで歩いているのだが、
「いやぁっ、やっぱ貴族家の馬車は一味違いますね! 遠目でも豪華さがビシビシ伝わりますよ」
「あんまりはしゃいで、転ばないようにしてくださいね全く……」
既に楽しそうだなこの人。
さっきまでの悲しみはどこへ行ったのか、彼女の全身から、『ワクワクオーラ』が溢れ出ている。レイドへの贈り物を買いに行く、という事実がエマをそうさせているのだろう。
そんなピクニック気分のエマと共に、馬車へと向かっていく。するとその隣には、一人の人物が立っていた。
制服に、剣を携えた黒髪の青年――エレノアが依頼した護衛の騎士だろう。彼は俺たちの姿を視界に捉えるや否や、バチンッ! と大きな音を立てて、軍隊のようにガチガチの敬礼をした。
「はっ、初めまして! 本日の護衛任務を仰せつかりました、ラック・アレクシアと申します! アストラ様ならびにエマ殿の王都への道中、我が命に代えてもお守り抜く所存でありますッ!」
ビリビリと空気が揺れたかと錯覚するほどの声量。
これは緊張を声の大きさで紛らわせようとするときの発声法だ。そして姿勢が良すぎる。表情には「絶対に失敗は許されない」という悲壮感すら漂っているな。なんか、見てるこっちまで緊張してくる……。まだ二十歳そこそこといったところか。
いかにも「新人です!」という顔立ちの彼は、わずかに震えていた。
まぁ、そりゃそうなるか。
俺は内心で一人納得する。
彼からすれば、俺は『歩く最終兵器』の妹であり、泣く子も黙る超名門シレンティウム家の直系(しかも八歳の幼児)なのだ。もし俺の身に何かあれば、うちの家族たちによって、国ごと消し飛ばされかねない。そう考えると、このガチガチの緊張具合も理解できるというものだ。
そんな騎士――ラック・アレクシアの様子に気づいているのかいないのか、エマは満面の笑みで、何故か同じ動作で敬礼をした。
「よろしくおねがいしますラックさん! 本日は素晴らしいお出かけ日和ですね! あの、その服暑そうですけど大丈夫ですか? 鎧じゃないだけマシそうですが」
「えっ。は、はい! 大丈夫でございます! お気遣い恐れ入りますっ」
緊張の「キ」の字もないエマの天然っぷりに、ラックが一瞬呆気に取られたように目を丸くする。
エマも成長したなぁ……俺と初めてあったあの日は、とんでもなく緊張していた新人メイドだったのに。今は誰にもお構いなく距離を詰めるようになって……人って、変わるんだなぁ(良い意味でも悪い意味でも)。
俺は息をつき、ラックへと一歩近づく。
「そんなに硬くならなくて大丈夫ですよ。今日はエマのお買い物に付き合うだけですから。気楽に、ラックさんも楽しむくらいの勢いでいきましょう」
「……っ! は、はっ! ありがたきお言葉っ! (な、なんて寛大で大人びた御方なんだ……! さすがは名門のご息女……!)」
ん? 今なんだか凄い感動の眼差しを向けられた気が……まぁいいか。
色々と前途多難な気もするが、とにもかくにも。
俺たち一行を乗せた豪華な馬車は、賑やかな王都へと向けてゆっくりと走り出したのだった。
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「はいっ、じゃあ好きな食べ物で王都巡礼旅〜!」
馬車で進む道中、エマが突然とある『ゲーム』を始めた。
その名も『王都巡礼旅』……つまりあれだ、山手線ゲームと同じだと考えてくれていい。昔からある遊びだそうで、実は俺も何度かこのゲームをしたのだ。
ちなみに、その時もエマからの提案がきっかけである。
「エマ、本当にその遊び好きですよねぇ……」
「楽しいじゃないですか! 道中ただ景色を眺めるよりも、こうやってみんなと沢山話せるようなことをしたほうが、もっと仲も深まりますし!」
「それはまぁ、たしかに」
「お、おーっ! このラック、誠心誠意参加させていただきます、エマ殿!」
「ほらぁ! ラックさんも超乗り気ですよアストラ様!」
なんてことだ、エマはともかく、ラックまでやる気になっているなんて!
だがしかし、彼女の言う通りでもあるか。特にラックは、まだ緊張も抜けていない。こうしてゲームを通じて交流するのは、彼にとって良いことかもしれないな。
よし、なんか知らんが楽しくなってきた!
「じゃあ、私からいこうかな。イノ肉スープ!」
「え、えーっと、串焼き!」
「はいっ、じゃあ、スライムまんま!」
なんて?
「え、エマ殿。その、『スライムまんま』とは、一体……?」
「知らないですか? スライムまんま。アストラ様も?」
「うん……ラックさんに同じく、全然聞いたことない」
「え、えぇっ! そんなばかな! でもたしかに、あれは地域が限られますかね……」
エマは顎に手を当て、頭を悩ませている。そんな真剣に考えることなのだろうか……。
マジで何だそれ、ねこまんま的なことか?
「スライムまんまというのはですね、調理で余った出汁に、『星穂』を浸して食べる料理です! その昔、スライムをペットとして飼っていた人が作った餌が、まさにこの調理法で作られていたことが名前の由来ですよ」
本当にねこまんま的なやつだった。
説明すると、『星穂』というのは、米のことである。無論、異世界にも米はある! だってパンがあるし、穀物ありまくりだ。ちなみに、地域によって米の呼び名が変わってきたりするのだが……説明が長くなるので割愛!
しかし、そうか。
スライムまんま……名前に目をつぶれば美味しそうだな。
「な、なるほど。そのような料理があるとは……」
「はい! えっと、あまり行儀の良い調理法ではないので、貴族社会ではそんなに好かれないと思いますが」
「あははっ、たしかに。でも食べてみたいな、スライムまんま」
「えぇ。私もぜひ、一度いただいてみたいですね」
「本当ですか! じゃ、じゃあ今度、こっそり作っちゃおうかな……アストラ様と、ラックさんにも召し上がってほしいです!」
そう話すエマの表情は輝いていて、本当に嬉しそうだった。
自分の好きな食べ物――しかもおそらく、物心ついたときから馴染みのある料理を、食べてみたいと言われたことが、よっぽど心に響いたのだろう。
俺とラックは顔を見合わせ、頷いた。
どうだろう、さっきまでどこか緊張感のあった馬車だが、今は綺麗サッパリ、その空気はなくなっていた。
突然始まった王都巡礼旅……それは俺達の旅に、最高のスタートダッシュをもたらしたのだった。




