12話『常識外れの兄様』
「兄様ッ! しょ、正気ですかぁ!!」
大演習場内は今、混沌に満ち溢れていた! なんてナレーションをしてる暇なんてないんだけど。俺は絶賛、兄様の《《特別訓練》》に殺されかけているところである。魔鋼人形とレイドの双方から、慈悲のない攻撃を放たれているのだ。
俺は最初、「段々と難易度が上がっていく"魔鋼人形との"訓練」だと思いこんでいた。でもこれが間違いだったみたいで……
「僕はいつだって正気だよアストラ!」
「前っ全説得力ないですからそれ! アンタバカか! 妹を殺すつもりかーっ!」
「大丈夫だって! 死には、しないからっ!」
ドガァァァンッッッ!!!
レイドの放った火球が爆発し、熱風に頬を殴られる。この男、マジで容赦がないらしい。"死にはしない"だけじゃ安心できないから! せめて"危害は与えない"まで言ってくれないと安心できないから!
この光景をエマに見せてやりたい。「あなたの大好きなレイドはこんな鬼畜兄貴なんですよ」と! いや見せたとこで多分何も変わらないな。むしろ「そんな一面も素敵!」って、更に愛が強まることだろう。
なんとか防御魔法で防いでいるが、レイド相手だとこの戦い方はジリ貧だな……!
「いいかいアストラ、戦闘は必ずしも一対一で行われるわけじゃない。一体二、一対三になる場合もある。これはそうなったときのための訓練でもあるんだよ!」
「いいですかレイド兄様っ! あなたは一人で十人分くらいの力は持ち合わせているでしょうが! 一対二どころじゃないんですよ! あとこれっ、絶対七歳にやらせることじゃありませんんんん!!」
叫びながらも、俺の体は勝手に動く。
いや、動かさないと即死するからだ。
ゴーレムの鉄拳を、魔力を足裏に集中させた瞬発力で紙一重で回避。同時に、レイドが放つ追撃の熱線を、皮膚の表面わずか数ミリに展開した『超硬度・局所シールド』で弾く。
角度、タイミング、魔力密度。そのすべてが一点でも狂えば即座に消し炭だ。
絶叫し、冷や汗を流し、情けなく逃げ回りながらも、俺はすべての攻撃を完璧にいなしていた。
それを見たレイドの瞳が、さらに「期待」にキラキラと輝き始めたことに気づき、俺は本気で泣きたくなった。
これが兄のすることかコノヤロウ。
俺の必死な叫びを聞いてもなお、レイドは攻撃の手を緩めることはない。
俺は情に訴えることを諦め、本格的に対処することにした。最初に対処するべきは、魔鋼人形だ。レイドからの猛攻に集中しようとすれば、魔鋼人形が絶妙なタイミングで邪魔してくる。
これが鬱陶しい! 早いところ、魔鋼人形の動きを停止させないと。
俺は自身の《《足裏》》に魔力を集中させた。そして――、
ドンッ!!
という轟音とともに、一気に魔鋼人形の懐へと潜り込む。魔鋼人形は突然の接近に反応しきれず、一瞬動きが止まった。その隙を逃さないように、俺は手のひらを魔鋼人形の弱点部位に重ねて、純粋な魔力の暴力――「魔波」を放った。
金属が破壊されるような音が響き渡り、魔鋼人形はその場に崩れ落ちた。
よし、うまくいった!
これで一対一だ。
(んで、このままの勢いで――!)
踏み込み、俺はレイド目掛け突っ込んでいった。
「早いねアストラ! それ、もしかして――」
俺の体が、レイドにぶつかるその直前。
ギュインッ!
「――!」
普通ならありえないような軌道を描くように、俺はレイドの背後へと回った。レイドも予想外の動きだったらしく、整った顔を驚愕のものへと変える。
もらった、と確信した。背後という完全な死角。俺は両手に魔力をこめ、今日一番の威力を放とうとした。相手はレイドだ。半端ない攻撃じゃ食らってくれやしない。
レイドの背中へ、ゼロ距離の――
「フラン・バーシス!!」
ドッッッッ!!!!
爆発音が、大演習場内に響き渡った。あたりは黒煙に包まれ、何も見えなくなる。流石にやりすぎたか? いくら相手がレイドとはいえ、家族に放っていいものではなかった気がする……。
「れ、レイド兄様。大丈夫――」
「――ははっ、すごい威力だねアストラ」
やがて黒煙が晴れると、そこに立っていたのは、
「やっぱり、流石は僕の妹といったところかな」
――爽やかな笑顔を浮かべる、無傷のレイド兄様だった。
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「今のは、風系統魔法の応用だろう? あの爆発的な加速は、ただの身体強化魔法では再現できないし」
あれだけ騒がしかった大演習場は、嘘のように静寂に包まれていた。正確に言えば、俺とレイド二人の声以外は何も聞こえない状態である。
自分で放った魔法の風圧で情けなく吹き飛んだ俺の前には、ゼロ距離で攻撃を食らったにも関わらず、無傷でピンピンしている兄様が立っている。
レイドの言う通り、俺は自身の足の裏で魔力を練り、風の塊を現出させ、極限まで「圧縮」した。その限界まで圧をかけられた塊を一気に解放することにより、爆発的な機動力を生み出していたのだ。
使用した魔法はヴェント・バーシスである。
なんなのこいつまじで。
あの一瞬で俺の魔法を見抜くし。なんで無傷なんだよ。
俺の予想だと、レイドの場合は『濃密すぎる魔力の層』が勝手に守ってくれている、とかかもしれない。
いやそんなの普通はありえない話ではあるんだけど、レイドだしなぁ……。
「やっぱりアストラはすごいよ! あんな発想、それこそ宮廷魔導士でも思いつくかわからないな」
「あ、ありがとうございます……。レイド兄様に褒めてもらえるなんて」
まぁこのレベルの化け物から称賛されれば、大したものだよな。そう思うことにしよう。
というか、これがレイドの《《特別訓練》》の真髄か……魔鋼人形とレイドからの攻撃を防ぎつつ、対処しないといけない。
こんなの俺の知ってる訓練じゃないぞ。
「もっと自信を持っていいんだよアストラ。君は本当にそれぐらい、魔法使いの素質があるんだから」
「あはは。兄様がそう言うなら……宮廷魔導士も夢じゃないですかねぇ」
「ふふっ、今のうちの僕が保証するよ。アストラは絶対に最高の魔導士になる! これは断言できるね」
すごい熱意だ。ジャンプ漫画くらい熱いセリフである。
しかしそれとは反対に、俺の心は冷めきっていた。
なぜなら目の前で、レイドが魔鋼人形を復活させているのだ。
それはつまり、訓練の再開を意味する。
「よしっ、時間は有限だよアストラ。少し休憩したらもう一回――」
ガコンッ…
その時である。シレンティウム大演習場の入口の扉が突然開かれたのだ。俺とレイドが振り返ると、そこに立っていたのは、
「あ…ここにいらっしゃいましたか! お二人とも!」
こちらへ駆け寄ってくるあのドジ娘のエマ。そして――
「――なにやら、随分と『派手』にやられているようですね」
凍てつくような声色を放つ、一人の女性である。




